2025.09.08
クリニック奮闘記
Vol.986 都市部と地方でこんなに違う!病院赤字経営の構造的な相違とは
病院経営が厳しさを増すなか、ニュースで取り上げられる「全国の病院の6割から7割が赤字」というデータは、地域に関わらず衝撃を与えています。しかし一口に「病院経営の悪化」といっても、都市部と地方ではその要因や深刻さの質が異なることをご存じでしょうか。
都市部では人件費や競争激化が問題となり、地方では人口減少や人材不足がより深刻です。本記事では、都市部と地方における病院赤字の構造的な相違を整理し、それぞれに必要な対応策を探っていきます。
1. 都市部の病院が抱える問題点
(1) 激しい競争環境
都市部には大学病院や大規模総合病院、専門クリニックまで多様な医療機関が集中しています。患者は選択肢が多いため、病院同士の競争が避けられません。結果として、**「患者獲得競争」**が過熱し、広告宣伝やサービス拡充にコストをかけざるを得ない状況です。
(2) 人件費の高騰
都市部では医師や看護師の求人倍率が高く、人材確保のために給与を上げざるを得ません。看護師紹介会社に支払う紹介料も高額化し、経営を圧迫します。特に中堅規模の病院では、採用コストだけで年間数千万円に及ぶこともあります。
(3) インフラコストの上昇
都市部の病院は立地条件により地代や建築コスト、光熱費も高くなりがちです。新しい医療機器や建物改修に投資する余力が乏しい病院は、競争に遅れを取りやすくなります。
(4) 患者数の増減リスク
人口が多い都市部は一見患者確保に有利ですが、感染症流行や受診控えが起きると影響は一気に広がります。固定費が高止まりする中で患者数が減れば、赤字転落のスピードは非常に速いのが都市部の特徴です。
2. 地方の病院が抱える問題点
(1) 人口減少と高齢化
地方の最大の課題は、患者数そのものの減少です。少子化と都市部への人口流出で若年層は減り、残るのは高齢者中心の患者構成。医療需要は一見安定しているように見えますが、高齢者の受診は医療費抑制策の影響を強く受けやすいため、経営は不安定です。
(2) 医師・看護師不足
都市部と違い、地方は人材を確保することすら困難です。医師が常勤で確保できず、応援医師や非常勤に頼る構造になりやすく、診療体制が不安定になります。結果として地域住民が大病院や都市部へ流出し、さらなる患者減につながります。
(3) インフラ維持の負担
患者数が少なくても病院は一定の規模を維持する必要があります。例えば24時間救急や分娩体制などは、地域に1つしかない病院が担うことも多く、採算度外視のサービス提供をせざるを得ません。
(4) 地域経済との連動性
地方病院は地域経済における雇用の受け皿でもあります。病院が赤字で縮小すれば、地域全体の雇用や経済にも打撃が及びます。この「地域全体が沈むリスク」が都市部とは大きく異なる点です。
3. 都市部と地方の赤字構造の相違
ここまでを整理すると、両者の赤字経営には次のような構造的な違いがあります。
項目 | 都市部の病院 | 地方の病院 |
---|---|---|
患者数 | 多いが競争激化で奪い合い | 減少傾向でそもそも不足 |
人材 | 確保可能だがコスト高 | 確保自体が困難 |
固定費 | 地代・光熱費が高騰 | 規模維持で不採算部門が多い |
経営リスク | 競争とコスト増による収益圧迫 | 人口減と人材不足による存続リスク |
つまり、都市部は「競争の激しさによる赤字」、地方は「人口・人材不足による赤字」という性質を持っているといえます。
4. 双方に共通する課題
一方で、都市部・地方問わず共通する課題も存在します。
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診療報酬抑制の影響
全国一律の制度であるため、どの病院も影響を受けます。 -
受診抑制の定着
コロナ禍以降の通院控えは地域を問わず見られる現象です。 -
レセプト請求精度の課題
複雑化する算定ルールに対応できず、収益漏れを起こす病院は少なくありません。
この共通課題にどう対応するかが、地域に関係なく経営改善のカギとなります。
5. 都市部・地方それぞれの改善アプローチ
都市部の病院に必要な施策
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差別化戦略:患者が選ぶ理由を明確にする。専門分野の強化やサービスの質向上が必要。
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人件費の効率化:職員配置を最適化し、無駄な残業や二重業務を削減。
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デジタル活用:予約システムやオンライン診療で患者体験を改善し、収益安定化につなげる。
地方の病院に必要な施策
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地域連携強化:診療所や介護施設と連携し、患者の流出を防ぐ。
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医師確保の工夫:遠隔診療やICTを活用し、医師不足を補う。
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自治体との協働:地域のインフラとしての役割を踏まえ、補助金や公的支援を活用する。
まとめ
病院赤字といっても、都市部と地方では構造的な背景が大きく異なります。
都市部では競争とコスト増、地方では人口減少と人材不足。共通しているのは、診療報酬抑制と受診抑制、そしてレセプト精度の問題です。