2025.10.07
クリニック奮闘記
vol.1004 利益を生む請求精度アップの戦略
レセプト精度がクリニック経営を左右する
クリニックの経営を安定させるうえで、医療報酬請求の精度は極めて重要です。診療行為の内容が正確に請求に反映されなければ、返戻や査定が発生し、収益に直接影響します。厚生労働省のデータによると、一般診療所における返戻率は概ね5%前後とされ、規模の大きいクリニックではさらに高くなる傾向があります。この返戻は、医療事務スタッフの追加作業や再提出にかかる時間コストを生むだけでなく、医療機関全体の効率性や経営計画にも影響します。
そのため、クリニック経営改善を考える際、まず注目すべきは請求精度の向上です。この記事では、返戻や請求ミスの主な原因、改善手法、そして経営指標への組み込み方について客観的に解説します。
請求ミス・返戻が発生する主な原因
請求精度が低下する原因は複数ありますが、大きく分けると以下のように整理できます。
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診療記録と請求内容の不一致
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診療カルテに記載された内容が請求コードに正確に反映されていない場合。
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例:処置や投薬内容が記録されていない、診療日付や保険種別の誤り。
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コード選定の誤り
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医療行為に適合する点数コードを誤って選択しているケース。
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特に自由診療併用や複雑な処置を行う場合、誤ったコードを選ぶリスクが高まります。
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スタッフの経験差・教育不足
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レセプト業務は属人性が強く、経験豊富なスタッフだけが正確に処理できる場合があります。
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経験の浅いスタッフは返戻の原因となる入力ミスを起こしやすい傾向があります。
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電子カルテやレセプトソフトの運用上の問題
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システムの操作性やテンプレートの不備により、誤入力や記載漏れが生じることがあります。
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統計的には、返戻の約60%が「入力ミス・コード選定ミス」に起因するとされており、改善余地が大きい領域であることがわかります。
現場対応と外部チェックの比較
レセプト精度を改善する方法としては、以下の二つのアプローチがあります。
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現場でのチェック強化
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医療事務スタッフが日々の業務内で確認を徹底する方法。
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メリット:即時修正が可能、スタッフのスキル向上につながる
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デメリット:負荷が高く、経験不足のスタッフには限界がある
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外部チェック・代行サービスの活用
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専門のチェック体制や分析ツールを用いる方法。
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メリット:返戻率の早期発見、属人性の排除、効率化
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デメリット:コストが発生、外部情報への依存リスク
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客観的に見ると、現場チェックだけに依存すると返戻率改善には時間がかかる一方、外部チェックを併用することで、効率的かつ精度の高い請求運営が可能になります。
改善ステップと具体的手法
請求精度を上げるための具体的な改善ステップは以下の通りです。
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返戻・査定データの分析
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過去6~12か月の返戻・査定データを集計し、頻度の高い項目やコードの傾向を把握する。
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これにより、ミスの「原因」と「傾向」を客観的に評価できます。
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業務フローの見直し
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診療記録の記載方法、コード入力手順、チェックポイントを整理し、統一した標準作業手順書(SOP)を作成。
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SOPに沿ったフローを運用することで、スタッフ間での属人差を減らせます。
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スタッフ教育の強化
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特に返戻率が高い項目に関する研修を実施。
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記録と請求の対応表を作成し、チェックリスト化することで、教育効果を可視化できます。
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IT・システムの活用
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電子カルテやレセプトソフトのテンプレートや自動チェック機能を最大限活用。
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定期的なシステム設定確認やマスタ更新が精度向上に寄与します。
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請求精度を経営指標に組み込む
請求精度の改善は、単なる事務作業の向上だけでなく、クリニック経営の指標としても活用できます。
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返戻率のモニタリング
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月次・診療科別に返戻率を計測し、改善目標を設定
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修正にかかる時間コストの可視化
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返戻対応にかかるスタッフ時間を集計し、経営効率を評価
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改善効果のROI分析
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SOP整備や教育、外部チェック導入の効果を数値化し、収益改善に直結するかを確認
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これにより、請求精度改善の取り組みが経営判断に直結する形で評価可能となります。
まず着手すべき3つの改善ポイント
客観的データから見た場合、クリニックがまず着手すべき請求精度改善は次の3点です。
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返戻・査定データの分析による課題抽出
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標準作業手順書(SOP)に基づく業務フローの統一
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教育・IT活用による属人性の排除
これらを組み合わせてPDCAを回すことで、返戻率は確実に低下し、結果としてクリニック経営の安定化につながります。