vol.1020 診療報酬改定対応と業務効率化の両立を目指して

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クリニック奮闘記

2025.10.28

クリニック奮闘記

vol.1020 診療報酬改定対応と業務効率化の両立を目指して

はじめに:診療報酬改定とDXは切り離せない関係に

2025年度の診療報酬改定では、「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」が中心的なテーマの一つに位置づけられています。
中医協では、電子カルテ情報の標準化、オンライン資格確認、電子処方箋の普及、医療情報共有ネットワークの整備など、デジタル基盤の拡充を通じて「効率的で安全な医療提供体制」を実現する方向が示されています。

これらの動きは、単なる「技術導入」ではなく、診療報酬上の評価や加算要件に直結するものです。
クリニックが医療DXにどう向き合うかは、来年度以降の経営成果を左右する重要な分岐点となります。


1.医療DXが診療報酬改定の中で果たす役割

医療DXの推進は、厚生労働省の掲げる「医療DX推進本部」の方針と歩調を合わせる形で進められています。
中医協では以下の3つの観点から議論が進行中です。

  1. 情報連携の標準化と効率化
    電子カルテの相互運用、診療情報提供書の電子化、地域医療連携ネットワークの活用が焦点です。
    これにより、患者情報の共有がスムーズになり、重複検査の防止や紹介・逆紹介の効率化が期待されます。

  2. オンライン資格確認と電子処方箋の普及
    資格確認端末を通じた診療情報の閲覧は、診療報酬の算定にも影響する方向で検討されています。
    また、電子処方箋導入による薬局連携の効率化は、在宅医療・慢性疾患管理における業務負担軽減にも寄与します。

  3. アウトカム評価とデータ利活用
    診療データを用いた「医療の質の可視化」や「患者アウトカム評価」を重視する傾向が強まっています。
    つまり、DXによって集められたデータは、単なる業務ツールではなく、"経営判断の根拠"となる経営資源へと変わりつつあるのです。


2.内科クリニック・整形外科クリニックにおけるDX導入の意義

内科クリニックの場合

内科では、慢性疾患の長期フォローアップが中心であり、電子カルテ・検査結果・処方情報などの蓄積が非常に多い診療科です。
この情報を有効に活用することで、患者ごとのリスク層別化や通院間隔の最適化、重症化予防プログラムの設計が可能になります。
特に、糖尿病や高血圧などの生活習慣病管理では、在宅血圧データやウェアラブル端末との連携を活かした「データ駆動型医療」の導入が注目されています。

整形外科クリニックの場合

整形外科は画像データ・リハビリ記録・運動機能評価など、データ量が膨大です。
医療DXを活用することで、

  • AI画像診断支援による読影効率化

  • リハビリ実施記録の自動集計

  • 患者アプリによる予後管理
    といった業務効率化+医療品質向上の両立が可能です。

どちらの診療科においても、DX導入は「業務の見える化」と「経営判断の精度向上」をもたらします。
単なるシステム更新ではなく、経営戦略の一部としてDXを位置づけることが成功の鍵です。


3.DX対応と診療報酬加算:今後の制度的変化に備える

医療DX関連の制度改定は、今後数年で報酬体系に直接的な影響を与えます。
現在の議論では、以下のような加算・評価が拡充される方向です。

  • オンライン資格確認を活用した診療情報活用加算

  • 電子処方箋・電子カルテ情報共有による加算

  • 地域連携情報提供書の電子化による評価

  • データ利活用・アウトカム評価への移行(医療の質評価)

これらは単に「導入すれば加算が取れる」ものではなく、実際の運用・データ共有が適切に行われているかが問われます。
したがって、クリニック経営者は以下の3点を押さえる必要があります。

  1. 早期導入によるノウハウ蓄積
    DX関連制度は短期間で変化するため、早めに対応して運用経験を積むことが重要です。

  2. スタッフ教育と運用ルールの整備
    特に中高年層スタッフに対しては、業務手順のマニュアル化と段階的な教育が欠かせません。

  3. データ活用による経営分析
    診療実績・患者属性・回転率・在宅加算取得率などのデータを分析し、収益構造の可視化を進めることで、改定後の経営判断が迅速になります。


4.医療DXの本質は「人材活用」:タスクシフトとの連動

DX推進の最大の効果は、人材の再配置(タスクシフト)による生産性向上にあります。

例えば内科クリニックでは、

  • 医師のカルテ記載を音声入力+AIで効率化

  • 看護師が行っていた問診入力をタブレット化

  • 医療事務によるレセプト点検を自動化

整形外科では、

  • リハビリ記録の自動集計

  • 物療機器稼働率のデータ化

  • 患者予約・リコールの自動配信

といった取り組みが実現可能です。

これらは単に"業務時間の短縮"にとどまらず、
スタッフが本来の専門性を発揮するための仕組みづくりです。
医師は診療に専念し、看護師は患者指導に集中し、事務は経営分析や地域連携を担う。
このように職種ごとの役割を最適化することで、DXは"人を活かす経営戦略"になります。


5.DX推進の課題と成功のポイント

DX導入にあたっては、以下の課題がしばしば指摘されます。

  • システム導入コストの負担

  • スタッフのITリテラシー格差

  • 運用初期の生産性低下

  • 個人情報保護・セキュリティ対策の不安

これらの課題を乗り越えるためのポイントは、次の3点です。

  1. 段階的導入と運用試行
    すべてを一度に変えるのではなく、受付・カルテ・レセプトなど、段階的に進めること。

  2. ベンダー任せにせず"経営目線"で設計する
    DXはIT導入ではなく「業務設計」である。
    経営指標(KPI)を意識してシステムを構築する。

  3. スタッフ参加型の運用改善
    各職種が意見を出し合い、業務フローを再構築するプロセス自体が、チーム強化につながります。


おわりに:医療DXは「未来志向の経営基盤」

診療報酬改定をきっかけに、医療DXはクリニック経営の"選択肢"ではなく"必須要件"になりつつあります。
しかし、目的はシステム導入そのものではなく、医療の質と経営効率を両立させることです。

医療DXをうまく活用できるクリニックほど、

  • 人材不足を補い

  • 在宅医療を効率化し

  • 診療の質を可視化できる

という"持続可能な経営"を実現します。

これからの時代、内科クリニックも整形外科クリニックも、
DXを単なる「義務対応」ではなく「経営戦略の中核」として位置づけることが、
診療報酬改定後の競争環境を勝ち抜く最大の鍵となるでしょう。