vol.1024 クリニック経営における人件費の正しい捉え方

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クリニック奮闘記

2025.11.04

クリニック奮闘記

vol.1024 クリニック経営における人件費の正しい捉え方

はじめに

――給料、賞与、退職金、社会保険料を含めた「総人件費」の視点から考える――

クリニック経営において、最も大きな支出項目は「人件費」である。
しかし、多くの院長がこの「人件費」を単に給料や賞与の支給額として捉えている。実際には、事業所が負担する社会保険料や退職金積立も含め、広義の人件費として把握しなければ、経営判断を誤る恐れがある。

本稿では、クリニック経営における人件費の正しい捉え方を整理し、経営者がどのように分析・管理すべきかを考察する。


1. 人件費は「給与支給額」だけではない

人件費の内訳を整理すると、以下の4つの要素に分類できる。

  1. 給与(基本給・諸手当)
     スタッフに毎月支払う固定報酬であり、経営の安定性を左右する。

  2. 賞与(ボーナス)
     業績や貢献度に応じて支給される変動報酬。固定費ではないが、慣例的に「年2回支給」が定着しているケースも多く、実質的な固定費化に注意が必要である。

  3. 退職金(退職給付)
     長期勤務を促すための報酬制度であり、積立や共済加入などを通じて将来の支払い義務を考慮する必要がある。

  4. 社会保険料(事業所負担分)
     健康保険・厚生年金・雇用保険など、事業所が法的に負担する金額。給与総額の約15〜17%程度に相当する。

これらを合算した「総人件費」を把握することが、経営の第一歩である。


2. 人件費率で経営体質を把握する

人件費率とは、「総人件費 ÷ 総売上高 × 100」で求められる指標であり、経営効率を示す重要な数値である。

  • 一般的な皮膚科や小児科では 40〜50%程度

  • 在宅医療クリニックでは 50〜60%程度

この数値が高すぎる場合、単に給与が高いのではなく、労働生産性や稼働効率が低下している可能性がある。
逆に、過度に人件費を抑えている場合には、スタッフのモチベーション低下や離職率上昇につながる。
したがって、適正な人件費率を維持することが、クリニックの持続的な運営に欠かせない。


3. 「固定費」と「変動費」のバランスを意識する

給与や社会保険料は固定費であり、患者数の増減にかかわらず発生する。
一方で、賞与や非常勤スタッフの人件費は変動費と位置づけることができる。

経営安定化のためには、固定費を一定範囲に抑えつつ、変動費で柔軟に調整する仕組みを設けることが望ましい。
たとえば、賞与を業績連動型にすることで、収益変動に対応しやすくなる。


4. 「総額人件費管理」の視点を持つ

クリニックが成長するにつれ、スタッフの数も増え、昇給・賞与・退職金が累積していく。
このとき重要なのは、「1人当たり人件費」ではなく、「クリニック全体としての総額人件費」を把握することだ。

年次での推移をグラフ化し、売上高と比較して変化率を分析することで、次のような判断が可能になる。

  • 給与水準の見直し(業界平均との比較)

  • 賞与支給額の適正化

  • 新規採用や人員削減の判断

数値に基づく意思決定こそが、経営の安定を支える。


5. 人件費を「投資」として捉える

短期的には支出であっても、教育・研修やモチベーション向上に繋がる施策は、長期的には生産性向上の「投資」である。
単にコスト削減を目的とした人件費管理では、質の高い医療サービスの提供は難しい。

人件費を「費用」ではなく「投資」として捉える姿勢が、成長するクリニックに共通している。


まとめ

人件費とは、給与だけでなく、賞与・退職金・社会保険料を含めた「総報酬」の概念である。
経営者はこれを正確に把握し、固定費と変動費のバランス、総額管理、投資としての視点を持つことが重要だ。

この視点を持つことで、次に扱う「昇給の評価」においても、経営とスタッフの双方に納得感のある仕組みを設計できる。
人件費を「数字」としてだけでなく、「経営戦略の一部」として扱うことが、クリニックの持続的成長につながる。