vol.1025 昇給評価の考え方

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クリニック奮闘記

2025.11.04

クリニック奮闘記

vol.1025 昇給評価の考え方

はじめに

――クリニックにおける賃金改定の基本視点――

昇給はスタッフのモチベーションに直結する経営上の重要なテーマである。
一方で、クリニックにおいては「何をもって昇給を判断すべきか」という明確な基準が設けられていない場合も多い。
単に勤続年数や院長の印象で判断してしまうと、公平性や納得感を欠き、組織の信頼関係に悪影響を及ぼすことがある。

本稿では、昇給を「評価」と「経営バランス」の両面から整理し、クリニックにおける適正な賃金改定の考え方を解説する。


1. 昇給は「評価」と「原資」の両輪で考える

昇給は、スタッフの勤務態度や成果を反映する「評価的側面」と、経営上の支給可能性を示す「原資的側面」の両方から検討されるべきものである。

評価的側面では、スタッフの勤務実績、責任の重さ、成長度などを基準に個別の昇給額を判断する。
一方、原資的側面では、クリニック全体の収益状況や人件費率を踏まえ、「昇給総額の上限」を経営判断として設定する。

この2つを切り離して考えると、評価だけ高くても支給できない、あるいは原資があっても評価基準が曖昧といった問題が生じる。
したがって、「原資の枠を決め、その中で評価を反映させる」というプロセスが理想的である。


2. 昇給基準の3要素

クリニックにおける昇給評価を設計する際は、以下の3つの要素を明確にすることが望ましい。

(1)能力・スキルの向上

業務知識や専門スキル、レセプト処理能力、患者対応力など、日常業務の質を定量・定性の両面から評価する。
医療機関の場合、「正確さ」と「スピード」「チーム連携力」を総合的に捉えることが重要である。

(2)成果・貢献度

単なる勤続年数ではなく、担当領域でどれだけ改善や効率化を実現したかを基準とする。
たとえば、待ち時間の短縮、ミス率の低減、患者満足度の向上など、数字やエピソードとして可視化できる貢献を重視する。

(3)勤務姿勢・組織行動

欠勤や遅刻の少なさ、他者への協力姿勢、報連相の確実さなど、組織文化に貢献する行動も評価に含める。
この要素を軽視すると、「結果だけ出せばいい」という誤った風土が形成されやすくなる。


3. 昇給の仕組み設計

昇給制度を実務的に運用するには、以下のステップが有効である。

  1. 評価期間を明確にする(例:毎年4月改定、評価期間は前年4月~12月など)

  2. 評価シートを作成する(職種ごとの評価項目と配点を明記)

  3. 評価会議で全体バランスを確認する

  4. 昇給額を個別決定する(原資内で調整)

  5. 本人にフィードバックする

このように評価から昇給決定までのプロセスを「見える化」することで、スタッフの納得度が高まり、不満や誤解を防ぐことができる。


4. 経営とのバランスを取る

昇給は経営努力によって支えられるものであり、無制限に行うことはできない。
クリニックの売上構造や診療報酬改定の影響を踏まえ、毎年の昇給原資を「総人件費の○%」として上限設定する手法が現実的である。

たとえば、総人件費5,000万円のクリニックで「昇給原資1%=50万円」と設定した場合、スタッフ5名なら1人平均1万円の昇給が可能となる。
これを「評価分配」により差をつけることで、努力や成果が報われる仕組みをつくることができる。


5. 昇給は「信頼構築の機会」

昇給の本質は、単なる給与改定ではなく「信頼の可視化」にある。
院長がスタッフに対し、「あなたの成長を評価しています」「これからも期待しています」と伝える機会でもある。

このメッセージが欠けると、昇給額の多寡にかかわらず不満が残る。
逆に、評価理由と期待を丁寧に伝えることで、少額でもスタッフは納得しやすくなる。


まとめ

昇給制度を公正に運用するには、

  1. 評価と原資のバランスをとること

  2. 能力・成果・行動の3軸で評価基準を明確にすること

  3. プロセスを透明化し、本人へのフィードバックを怠らないこと

この3点が不可欠である。
昇給を通じて、経営者がスタッフの成長をどのように認め、どのように報いるのか――その姿勢こそが、クリニック組織の信頼と持続性を左右する。

次稿では、昇給と並んで注目される「賞与支給の考え方」について解説する。