2025.11.04
クリニック奮闘記
vol.1028 公平ではなく「公正」な人事評価のために
はじめに
――クリニックが気を付けるべきこと――
人事評価は、スタッフの成長を促し、組織の方向性を共有するための重要な仕組みである。
しかし、医療現場では「誰にでも同じように扱う=公平」であることが評価の理想と誤解されがちだ。
実際には、職種や責任の違い、成果や貢献度の差を無視して一律に評価することは「不公平」につながる。
本稿では、「公平」ではなく「公正」な人事評価を実現するために、クリニックが注意すべきポイントを整理する。
1. 「公平」と「公正」は異なる
まず両者の違いを明確にしておきたい。
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公平(Equality):全員を同じ基準で扱うこと
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公正(Equity):それぞれの役割・努力・成果に応じて適切に扱うこと
たとえば、ベテラン看護師と新人事務員に同じ目標を課すのは公平かもしれないが、公正ではない。
公正な評価とは、職務の重さや貢献度に見合った判断を下すことを意味する。
経営者が「公正」を意識して評価を行うことで、スタッフの信頼を損なわず、モチベーションを高めることができる。
2. 評価基準を「職種」と「役割」に合わせて設計する
クリニックでは、医師・看護師・医療事務・リハビリスタッフなど、職種ごとに業務の性質が異なる。
そのため、同一の評価基準では正確な評価が難しい。
(1)職種別評価基準の設定
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医師:診療技術、患者対応、チーム貢献
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看護師:安全管理、連携力、患者への配慮
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医療事務:正確性、スピード、レセプト処理能力
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リハビリスタッフ:リハビリ効果、コミュニケーション、チーム協調
このように職種別の行動基準を設定することで、評価の妥当性と納得感が高まる。
(2)役割別の責任範囲を明確にする
同じ看護師でも、主任と一般職では求められる行動が異なる。
役職者には「チーム運営・教育・改善活動」などの責任を評価項目に追加する。
役割に応じた基準を明文化することが、公正な評価の第一歩である。
3. 評価は「結果」だけでなく「プロセス」も見る
医療現場では、結果(数値化できる成果)よりもプロセス(日々の行動・判断)の方が重要な場合も多い。
たとえば、レセプトエラーの削減は結果だが、
「日々の確認体制の改善」「他スタッフへの指導」といった行動も評価すべき貢献である。
プロセスを評価に含めることで、短期的成果だけを追い求める風土を防ぎ、継続的な成長を促すことができる。
4. 評価者の「主観バイアス」を排除する
人事評価の最大の課題は、評価者(院長や管理職)の主観が入り込むことである。
このバイアスを最小限にするためには、以下の仕組みを整えることが有効である。
(1)複数評価制(多面評価)
院長だけでなく、同僚や上司など複数の視点から評価することで、偏りを防ぐ。
たとえば、「看護師の評価を事務長と院長で確認する」「事務スタッフはリーダーと院長の両方で評価する」など。
(2)評価会議の実施
最終決定前に、管理職間で評価結果を持ち寄り、相互にすり合わせを行う。
これにより、個人の印象による過大・過小評価を抑制できる。
(3)評価フィードバックの標準化
評価結果を本人に伝える際は、感情的な表現を避け、
「行動事実に基づくフィードバック」を徹底する。
例:「〇〇の業務改善提案は効果的でした」など、具体性のある言葉を用いる。
5. 評価制度は「納得感」で運用される
どれほど制度設計が整っていても、スタッフが納得していなければ機能しない。
納得感を得るためのポイントは次の3つである。
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評価項目と基準を全スタッフに開示する
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評価スケジュールと方法を明確にする
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評価結果と昇給・賞与との関係を説明する
評価が不透明だと、「どう頑張っても変わらない」という不信感が生まれる。
逆に、評価の基準とプロセスを共有することで、スタッフは自らの成長方向を理解し、前向きに取り組むようになる。
6. 評価制度の目的は「区別」ではなく「成長」
公正な人事評価の最終目的は、スタッフを区別することではない。
むしろ、一人ひとりが自らの課題を認識し、成長のための行動につなげることにある。
経営者が評価を「教育と成長のツール」として位置づければ、スタッフも安心して改善に取り組むことができる。
評価制度を「罰する仕組み」から「支援する仕組み」に変える――
それが、公正な人事評価を定着させる最大のポイントである。
まとめ
公正な人事評価を実現するためには、
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「公平」ではなく「公正」の概念を理解すること
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職種と役割に応じた評価基準を設けること
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結果とプロセスの両方を評価対象とすること
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評価者の主観を排除する仕組みを整えること
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評価の透明性と納得感を重視すること
この5点を実行することで、評価制度はスタッフの信頼と成長を支える基盤となる。
クリニック経営における人事評価は、単なる給与や賞与の算定根拠ではない。
それは、「スタッフと共に成長する経営」の象徴であり、持続的な医療サービスを支える土台である。
