2025.12.22
クリニック奮闘記
Vol.1062 病院・クリニックにおけるガバナンス改革と人材投資戦略
はじめに:人材不足時代における経営者のリーダーシップ
2026年度改定において、医療職の賃上げ原資として診療報酬が充てられたことは、裏を返せば「適切な賃上げを行えない医療機関は、人材確保の競争から脱落する」という宣告に等しい。医師の働き方改革が本格施行されてから2年が経過し、医療機関に求められるのは、単なる労務管理ではなく、組織としての「ガバナンス改革」である。
1. 「賃上げ」をコストではなく「投資」と捉える財務戦略
これからの医療経営者は、診療報酬改定の結果を待って賃上げを検討する受動的な姿勢を捨てなければならない。人材の流出は病床稼働率の低下を招き、結果として最大の減収要因となるからである。 先行して給与体系を刷新し、働きやすい環境を整備することで、質の高い医療スタッフを惹きつける。それによって稼働率を最大化し、スケールメリットを享受する「攻めの財務戦略」が求められる。人件費率の絶対値に固執するのではなく、人材投資による「医業収益の拡大」に主眼を置くべきである。
2. トップダウンによる迅速な意思決定体制の構築
新地域医療構想の下では、近隣病院との連携や統合、あるいは診療科の再編といった、ドラスティックな意思決定が頻繁に求められる。旧来の合議制や、各診療科の意向を汲みすぎる「ボトムアップ型」の組織運営では、激変する環境に適応できない。 経営層に権限を集中させると同時に、その決定の根拠となる情報を透明化する。ガバナンスの強化とは、独裁ではなく、組織のビジョンを明確にし、全職員が一丸となって「地域で選ばれる医療機関」を目指すための指針を示すことである。
3. 多職種へのタスク・シフトと組織文化の刷新
医師の負担軽減を実現しつつ、組織の活力を維持するためには、看護師やコメディカル、医療事務への大胆なタスク・シフト(業務移譲)が不可欠である。今改定では、これら多職種による管理や指導が点数化されており、制度的にも後押しされている。 しかし、制度以上に高い壁となるのが「従来の慣習」である。「この業務は医師がやるべき」という固定観念を打破し、各職種がその専門性を最大限に発揮できるような組織文化を醸成すること。それこそが、リーダーシップの真髄である。
