2026.01.05
クリニック奮闘記
Vol.1064 年初に考えるクリニックの事業計画策定総論―なぜ今、事業計画が必要なのか
年初は、クリニック経営において一年の方向性を定める重要な時期である。診療報酬改定の影響、人件費や物価の上昇、医療DXへの対応、患者ニーズの変化など、医院経営を取り巻く環境は年々複雑化している。一方で、日々の外来診療や事務対応に追われる中、経営について腰を据えて考える時間を確保できていない院長も少なくないのが実情である。
その結果、「前年と同じ運営を続ける」「大きな問題が起きていないから現状維持でよい」といった判断が積み重なり、気付いた時には人材不足や収益性の低下、患者数の減少といった課題が表面化するケースが多い。事業計画を策定する意義は、こうした"後追いの経営"から脱却し、先を見据えた判断を可能にする点にある。
事業計画という言葉から、売上目標や利益計画を連想する院長も多いだろう。しかし、本来の事業計画とは数値目標を並べることではない。「どのような医療を、どの地域で、どのような体制で、どの水準まで提供し続けるのか」という経営の意思を言語化し、それを実行可能な形に整理したものである。言い換えれば、事業計画は院長の診療理念と日常業務をつなぐ設計図と言える。
例えば、ある内科クリニックでは、「地域のかかりつけ医として患者数を増やす」という方針のもと、外来数の拡大に注力してきた。しかし、診療体制や業務の見直しを行わないまま患者数だけが増加した結果、待ち時間の長期化、スタッフの残業増加、クレームの増加といった問題が顕在化した。短期的には医業収入が増えたものの、数年後には看護師や医療事務の離職が相次ぎ、採用コストの増大と診療の質の低下を招いた。
この事例が示すのは、事業計画を一面的に捉えることの危うさである。収益は確かに重要だが、それを支える業務体制や人材、患者からの評価を軽視すれば、結果として経営の安定性は損なわれる。持続可能な医院経営を実現するためには、複数の視点から自院の現状と将来像を整理する必要がある。
本連載では、クリニックの事業計画を「財務」「患者」「業務」「人材」という四つの視点から整理する。これらは特別な経営理論ではなく、院長が日々直面している課題を体系的に捉えるための切り口である。例えば、財務の視点では医業収入や人件費率といった数値を確認する一方、その背景にある患者動向や業務効率、人材定着の問題にも目を向けることになる。
年初に事業計画を策定することの利点は、目標と課題を「一年単位」で整理できる点にある。漠然とした不安や問題意識を、具体的なテーマとして書き出すことで、優先順位が明確になる。さらに、計画があることで、年度途中で問題が生じた際にも「当初の方針に照らして修正する」という冷静な判断が可能となる。
事業計画は、一度作れば終わりというものではない。むしろ、策定する過程そのものが、自院の経営を見直す貴重な機会となる。数字を確認し、患者の声に耳を傾け、業務の流れを振り返り、スタッフの状況を把握する。その積み重ねが、結果として経営の質を高める。
次回以降は、まず「財務の視点」から、クリニックの事業計画をどのように具体化していくべきかを考察する。数字を追いかける経営から一歩進み、数字を活かす経営へと転換するための考え方を整理していく。
