Vol.1068 人材育成の視点から考えるクリニックの事業計画―人が育つ医院は持続する

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クリニック奮闘記

2026.01.05

クリニック奮闘記

Vol.1068 人材育成の視点から考えるクリニックの事業計画―人が育つ医院は持続する

クリニック経営において、人材は最も重要な経営資源である。医師一人では医療は提供できず、看護師、医療事務、その他スタッフとの協働によって初めて診療体制は成り立つ。しかし現実には、人材育成は日常業務の忙しさの中で後回しにされやすく、「採用して、慣れるまで現場で教える」といった属人的な対応にとどまっているケースも少なくない。

 年初に事業計画を策定する意義の一つは、人材育成を場当たり的な取り組みから、計画的な経営テーマへと位置付け直す点にある。人材育成を事業計画に組み込むことで、院長の考えや医院としての方向性がスタッフに伝わりやすくなり、結果として組織全体の安定性が高まる。

 人件費は多くのクリニックにおいて最大の支出項目であり、経営を圧迫する要因として語られることが多い。しかし、人件費を単なるコストとして捉えると、短期的な削減に意識が向きやすくなる。一方で、人材育成の視点から見れば、人件費は医療の質と業務の安定性を支えるための投資である。育成が不十分な状態では、ミスやトラブルが増え、結果として患者満足度や収益性にも悪影響を及ぼす。

 例えば、ある内科クリニックでは、教育体制が整っておらず、新人スタッフが業務を自己流で覚える状況が続いていた。その結果、受付対応や会計処理にばらつきが生じ、患者からの指摘やクレームが増加した。院長は問題を個人の能力不足と捉えていたが、実際には教育の仕組みが存在しないことが原因であった。

 このクリニックでは、事業計画の中に「人材育成」を明確なテーマとして掲げ、業務ごとの習得目安や指導担当を整理した。あわせて、定期的な面談の場を設け、業務上の不安や改善点を共有する仕組みを導入した。その結果、スタッフの定着率が向上し、院内の雰囲気も安定した。人材育成を計画的に行うことが、経営の安定につながった事例である。

 人材育成を事業計画に落とし込む際に重要なのは、「何を期待しているのか」を明確にすることである。全てのスタッフに同じ役割を求める必要はないが、それぞれの職種や経験年数に応じた役割を整理することで、本人の成長イメージが描きやすくなる。これは評価や処遇の納得感にも直結する。

 また、人材育成は研修や勉強会の実施だけを意味するものではない。日常業務の中でどのような経験を積ませるのか、どの段階で業務範囲を広げるのかといった設計も重要である。事業計画においては、「今年はどの層のスタッフに、どのような成長を期待するのか」を整理することが現実的な第一歩となる。

 人材育成の視点は、これまで述べてきた財務、患者、業務の各視点と密接に結び付いている。業務が整理されていなければ教育は進まず、教育が不十分であれば患者対応の質は安定しない。その結果が、再来院率や口コミとして財務面に反映される。人材育成は単独のテーマではなく、医院経営全体を支える基盤である。

 年初に事業計画を策定することは、院長自身が「どのような医院を目指すのか」を改めて言語化する機会でもある。その方向性が明確であれば、スタッフは自らの役割を理解しやすくなり、主体的に行動しやすくなる。人が育つ医院は、結果として患者から選ばれ、経営的にも安定する。

 本連載では、クリニックの事業計画を「総論」「財務」「患者」「業務」「人材」という五つの観点から整理してきた。いずれか一つだけを重視するのではなく、相互のつながりを意識しながら計画を描くことが、持続可能な医院経営への第一歩となる。年初という節目に、自院の事業計画を見直すことが、これからの一年、そしてその先の未来を支える基盤となるだろう。