Vol.1087 知識と経験の違いが生む、レセプト実務の差

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クリニック奮闘記

2026.02.02

クリニック奮闘記

Vol.1087 知識と経験の違いが生む、レセプト実務の差

「分かっているのに判断できない」という壁

レセプト業務に携わる医療事務スタッフや院長から、しばしば聞かれる言葉があります。それは「ルールは理解しているはずなのに、実際の請求になると迷ってしまう」というものです。この感覚は、決して能力不足によるものではありません。多くの場合、知識と経験の性質の違いが原因となっています。

知識は、文章や図表として整理され、誰でも同じ形で学ぶことができます。一方、経験は、現場で起こる具体的な出来事と結びつきながら蓄積されるものであり、状況判断として表出します。レセプト業務では、この差が実務の安定性に直結します。

事例①:新人とベテランで分かれた判断

ある整形外科クリニックでの出来事です。診療内容としては日常的なもので、算定要件自体は教科書にも解説書にも載っている項目でした。新人スタッフは要件を一つひとつ確認し、「算定可能」と判断しました。一方、ベテランスタッフは同じ内容を見て、「今回は見送った方がよい」と判断しました。

結果として、その月のレセプトでは、新人スタッフが算定したケースのみが査定対象となりました。後から振り返ると、カルテ記載の表現や診療の流れが、審査側に誤解を与えやすい構成になっていたことが原因でした。

この違いは、知識量の差ではありません。ベテランスタッフは、過去に似たケースで査定を受けた経験から、「この書き方だと危ない」という感覚を持っていました。この感覚こそが、経験によって培われた判断力です。

経験は「文脈」を読む力を育てる

レセプト業務では、算定要件を満たしているかどうかだけでなく、「どのように見られるか」という視点が重要になります。審査は、現場を直接見て行われるものではなく、限られた情報から判断されます。そのため、文脈の読み違いが査定につながることも少なくありません。

経験を積んだ担当者は、審査側の視点をある程度想像しながら請求を組み立てます。これは通知やマニュアルからは学びにくい領域であり、実際に返戻や査定を経験し、その理由を考え続ける中でしか身につきません。

事例②:同じ返戻、違う対応

別の内科クリニックでは、同様の返戻が複数月続いていました。若手スタッフは、その都度返戻理由を確認し、形式的に修正して再請求していました。しかし、返戻自体は減りませんでした。

一方、別のスタッフは、過去数か月分の返戻内容を並べ、「なぜこの項目だけ繰り返されているのか」「他に共通点はないか」を整理しました。その結果、カルテ記載の順序や表現に問題があることが見えてきました。対応を見直したことで、返戻は徐々に減少していきました。

ここでも差を生んだのは、知識ではなく経験を通じた視点の持ち方でした。

経験格差は、医療機関のリスクになる

経験が特定のスタッフに集中している状態は、一見すると業務が回っているように見えます。しかし、そのスタッフが不在になった途端、判断ができず、業務が滞るリスクを抱えています。これは属人化の問題であり、多くの医療機関が直面しています。

経験を個人に留めたままにするのか、組織として共有・蓄積していくのか。この選択が、レセプト業務の安定性だけでなく、医療機関全体の運営に影響を与えます。

知識の先にあるもの

知識は業務の土台として不可欠です。しかし、実務を安定させるのは、経験によって培われた判断力です。この違いを理解することが、次の人材育成や業務改善につながっていきます。