Vol.1088 経験値を「見える化」するという発想

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クリニック奮闘記

2026.02.02

クリニック奮闘記

Vol.1088 経験値を「見える化」するという発想

経験は価値があるのに、なぜ共有されないのか

医療機関のレセプト業務において、「経験がものを言う」という言葉はよく使われます。実際、返戻や査定が少なく、請求が安定している医療機関には、必ずと言ってよいほど経験豊富な担当者が存在します。しかし、その経験は多くの場合、個人の中に留まり、組織全体の力として活かされていません。

その理由の一つは、経験が言語化されにくい性質を持っていることにあります。知識であれば、マニュアルや資料として整理できますが、経験は「感覚」や「勘」として処理されがちです。その結果、価値があるにもかかわらず、共有されないまま埋もれてしまいます。

事例①:優秀だが、教えられない担当者

ある皮膚科クリニックには、長年レセプトを担当してきた医療事務スタッフがいました。返戻や査定はほとんどなく、院長からの信頼も厚い存在でした。一方で、新人スタッフの教育となると、「これはこういうものだから」「細かい理由は説明しにくい」といった言葉が多く、判断の根拠が共有されることはほとんどありませんでした。

新人スタッフは言われた通りに作業をこなしますが、少し条件が変わると対応できず、結局ベテランに確認する状況が続きました。ベテランは忙しさを理由に教える時間を確保できず、新人は自信を持てないまま業務にあたる。この構図は、多くの医療機関で見られるものです。

暗黙知のままでは、組織は強くならない

このような状況の本質的な問題は、経験が暗黙知のまま放置されている点にあります。暗黙知とは、本人の中では当たり前になっているが、言葉やルールとして整理されていない知識や判断のことです。

暗黙知に頼った業務運営は、一時的にはうまくいくかもしれません。しかし、その人が不在になった瞬間に業務は不安定になります。これは属人化の問題であり、レセプト業務だけでなく、医療機関経営全体に共通する課題です。

経験を分解するという視点

経験を価値として活かすためには、「なぜそう判断したのか」を分解して考える必要があります。例えば、レセプトの算定可否を判断する際、経験豊富な担当者は無意識のうちに複数の要素を確認しています。

・過去に似たケースで返戻があったか ・カルテ記載の表現は審査側にどう見えるか ・他の算定項目との整合性は取れているか

これらを一つひとつ言語化することで、経験は再現可能な形に変わっていきます。

事例②:事例ベースで変わった院内教育

別の内科クリニックでは、返戻や査定が発生した際に、必ず簡単な記録を残す仕組みを作りました。記録する内容は、返戻理由だけでなく、「当時どのような判断をしたのか」「他に選択肢はなかったのか」といった点です。

この記録をもとに、月に一度、短時間の振り返りを行うようにしました。すると、新人スタッフから「以前の事例と似ていますね」といった発言が出るようになり、判断の質が徐々に底上げされていきました。

経験を「見える化」する方法

経験の見える化とは、難解なマニュアルを作ることではありません。重要なのは、現場で起きた具体的な事例をもとに、「考え方」を共有することです。

例えば、 ・よくある返戻パターン ・判断に迷いやすい算定項目 ・過去に修正が多かったケース

といった切り口で整理するだけでも、経験は十分に共有可能です。

見える化がもたらす変化

経験が見える化されると、教育のあり方が変わります。新人は「なぜそうするのか」を理解した上で業務に取り組めるようになり、応用が利くようになります。また、ベテランにとっても、判断を言語化することで自身の業務を振り返る機会となります。

結果として、レセプト業務は特定の人に依存しない、安定した体制へと近づいていきます。

経験は組織の資産になる

経験を形式知として蓄積することは、医療機関にとっての資産形成です。それは短期的な効率化ではなく、長期的な経営安定につながります。知識が誰でも手に入る時代だからこそ、経験をどう扱うかが、医療機関の将来を左右します。