Vol.1089 人材育成は知識投資ではなく、経験設計である

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クリニック奮闘記

2026.02.02

クリニック奮闘記

Vol.1089 人材育成は知識投資ではなく、経験設計である

教育しているのに、なぜ現場力が育たないのか

医療機関では、人材育成のためにさまざまな取り組みが行われています。外部研修への参加、院内勉強会の開催、マニュアル整備など、決して「何もしていない」わけではありません。それにもかかわらず、「判断ができるスタッフが育たない」「結局ベテラン頼みになる」といった声は後を絶ちません。

この背景には、人材育成を「知識を与えること」と捉え過ぎているという問題があります。知識は確かに必要ですが、それだけでは実務を支える判断力は育ちません。特にレセプト業務のように、状況判断が求められる分野では、どのような経験を積ませるかという設計が欠かせません。

事例①:研修は充実しているが、任せられない

ある内科クリニックでは、医療事務スタッフ向けに定期的な勉強会を実施し、外部研修にも積極的に参加させていました。スタッフの知識レベルは高く、算定要件についての質問にも正確に答えられる状態でした。

しかし、いざレセプト作成を任せると、確認や修正が頻発し、最終的にはベテランスタッフがすべてチェックする体制から抜け出せませんでした。院長は「これだけ教育しているのに、なぜ任せられないのか」と疑問を感じていました。

問題は、知識不足ではなく、判断を伴う経験を計画的に積ませていなかった点にありました。

経験は「場当たり的」では育たない

多くの医療機関では、OJTを通じて経験を積ませています。しかし、その内容は場当たり的になりがちです。「忙しいからとりあえずやってみて」「分からなければ聞いて」といった形では、経験は断片的にしか蓄積されません。

経験には、難易度と順序があります。判断要素の少ない業務から始め、徐々に複雑なケースへと進めることで、スタッフは成功体験と失敗体験の両方を安全に積むことができます。この順序が設計されていない場合、経験は単なる作業量に置き換わってしまいます。

事例②:任せ過ぎたOJTの弊害

ある整形外科クリニックでは、人手不足を理由に、新人スタッフを早期からレセプト業務に投入していました。本人は懸命に対応していましたが、判断に迷う場面が多く、結果として返戻や修正が増加しました。

ベテランスタッフはフォローに追われ、新人は「自分は向いていないのではないか」と自信を失っていきました。結果として、教育どころか、職場全体の負担が増える悪循環に陥っていました。

経験設計という考え方

経験設計とは、「誰に」「いつ」「どのような経験をさせるか」をあらかじめ考えることです。これは特別な仕組みではなく、業務を段階的に整理することから始まります。

例えばレセプト業務であれば、 ・判断要素が少ない単純な算定 ・過去に事例が蓄積されている項目 ・判断に複数の視点が必要な複雑なケース

といった形でレベル分けを行います。そして、スタッフの習熟度に応じて経験させる範囲を広げていきます。

事例③:経験設計で変わった育成の流れ

ある皮膚科クリニックでは、レセプト業務を段階別に整理し、新人が最初に担当する範囲を明確にしました。一定期間は「判断が必要な項目は必ず確認する」というルールを設け、徐々に裁量を広げていきました。

その結果、新人は無理なく経験を積むことができ、ベテランも教えるポイントが明確になりました。返戻や修正も減少し、業務全体が安定していきました。

経験を振り返る仕組みが人を育てる

経験は、振り返って初めて学びになります。忙しい現場では振り返りが後回しにされがちですが、短時間でも「なぜそう判断したのか」「次はどうするか」を共有することが重要です。

この振り返りが積み重なることで、スタッフは自分の判断に自信を持てるようになり、応用力が身についていきます。

人材育成の視点を変える

人材育成とは、研修回数やマニュアル量を増やすことではありません。どのような経験を、どの順番で積ませるかを考えることです。この視点を持つことで、知識に偏らない、実務に強い組織づくりが可能になります。