Vol.1164 なぜ「患者数が増えても利益が増えない」のか

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クリニック奮闘記

2026.05.18

クリニック奮闘記

Vol.1164 なぜ「患者数が増えても利益が増えない」のか

一般的には「患者数を増やすこと」は長らく最重要テーマとされてきた。

実際、多くの院長が開業時から、「どうすれば患者数が増えるか」を中心に経営を考えてきた。しかし2026年現在、その常識が崩れ始めている。

近年、多くのクリニックで見られるのが、「患者数は増えているのに利益が残らない」という現象である。

これは単なる感覚論ではない。実際に決算分析を行うと、売上は増加しているにもかかわらず、営業利益率が低下しているケースが増えている。

その背景には、"患者数増加によるコスト増加"という構造問題が存在している。

患者数が増えれば、当然ながら看護師や医療事務の増員が必要となり、残業代も増えやすくなる。さらに、医療材料費や消耗品費、電話対応負荷、患者クレーム対応なども増加する。

つまり、売上だけではなく、固定費・変動費の両方が膨らみやすいのである。

東京都内のある内科クリニックでは、コロナ禍後の患者回復により、一日平均患者数が20%以上増加した。しかし、決算を確認すると、利益率は逆に悪化していた。

原因を分析すると、看護師追加採用や医療事務残業代増加、発熱外来対応負担、電気代高騰、消耗品コスト増加など、患者数増加に伴うコスト上昇が利益を圧迫していた。

さらに、院長自身も診療時間延長によって疲弊し、経営判断へ十分時間を割けなくなっていた。

つまり、「患者数増加」がそのまま「利益増加」へつながらなくなっているのである。

また、診療単価低下も利益率悪化へ影響している。

近年は軽症患者比率増加や短時間診療増加によって、一人当たり単価が伸びにくくなっている。そのため、同じ売上を維持するためには、さらに多くの患者を診る必要が生じる。

しかし、そこには明確な限界が存在する。

特に問題となるのが、「人の限界」である。

クリニック経営は、工場のように無制限に生産量を増やせるわけではない。診療、説明、患者対応、会計、電話応対など、多くの業務が"人"によって支えられている。

そのため、一定以上患者数が増加すると、現場は急激に不安定化する。

神奈川県内のある整形外科クリニックでは、一日180名を超える患者対応が常態化していた。当初は「地域で支持されている証拠」と考えられていたが、徐々にスタッフ離職が発生した。

新人教育時間は確保できず、患者クレームも増加し、院長自身も精神的疲労が強くなっていた。結果として、採用コストや人件費がさらに増加し、利益率は低下していった。

つまり、"患者数拡大"が逆に経営不安定化を招いていたのである。

また近年は、患者側の期待値も変化している。

以前であれば、「混雑している=人気クリニック」という認識もあった。しかし現在は、待ち時間や説明の丁寧さ、スタッフ対応、Web予約利便性など、総合的な患者体験が重視されるようになっている。

そのため、単純な大量診療では、患者満足度維持が難しくなりつつある。

さらに、患者数依存型経営では、「患者が減る恐怖」が強くなりやすい。その結果、無理な診療時間延長や過剰予約、スタッフ負荷増加が常態化しやすくなる。

しかし、その状態が続けば、組織疲弊によって、むしろ長期的競争力は低下する可能性が高い。

今後重要なのは、「患者数最大化」ではなく、「利益構造最適化」である。

つまり、適切な患者数を維持しながら、適切な診療密度と人員配置を行い、診療内容に応じた収益構造を設計する必要がある。

特に今後は、人口減少によって市場全体が縮小していく可能性が高い。その中では、「どれだけ多く診るか」だけでなく、「どれだけ持続可能な経営を行えるか」が重要になる。

患者数が増えても利益が残らない。

この現象は、現代クリニック経営が"量"だけでは成立しなくなっていることを示しているのである。