2026.06.02
クリニック奮闘記
Vol.1173 世代交代が始まった医療現場 「昭和型マネジメント」が通用しなくなる時代
現在、多くのクリニックで静かに進行しているのが、「働く世代の変化」である。
これまで医療現場を支えてきたベテランスタッフが定年や退職を迎える一方で、20代から30代前半の若い世代が徐々に現場へ入ってきている。
しかし、その世代交代に対して、多くのクリニックが十分適応できていない。
その結果として、「若いスタッフが定着しない」「価値観が合わない」「すぐ辞める」という問題が頻発している。
だが実際には、若い世代だけに問題があるわけではない。
むしろ、従来型の組織運営そのものが、現在の時代環境へ合わなくなり始めているのである。
かつての医療現場では、「見て覚える」「怒られて成長する」「背中を見て学ぶ」という文化が当たり前だった。
特に医療機関では、厳しい上下関係や長時間労働も"医療の世界だから仕方ない"と受け止められてきた側面がある。
しかし現在の若い世代は、その価値観を当然とは考えていない。
なぜなら、働くことに対する考え方そのものが変化しているからである。
現在の若い世代は、「長く我慢して働くこと」より、「安心して働き続けられる環境」を重視する傾向が強い。
また、仕事だけで人生を構成するという感覚も弱くなっている。
つまり、「仕事中心型価値観」から、「生活とのバランス重視型価値観」へ変化しているのである。
大阪府内のある内科クリニックでは、若手看護師の離職が続いていた。
院長は当初、「最近の若い人は打たれ弱い」と感じていた。しかし実際に面談を行うと、若手スタッフ側は、「何を期待されているのか分からない」「質問しづらい」「常に否定されている気がする」と感じていた。
一方で、ベテランスタッフ側には、「昔はもっと厳しかった」「これくらい普通」という感覚が存在していた。
つまり、世代間で"普通"が大きく異なっていたのである。
このズレは、現在、多くのクリニックで起きている。
特に小規模組織であるクリニックでは、院長やベテランスタッフの価値観が、そのまま組織文化になりやすい。
そのため、「昔ながらの感覚」で運営していると、若い世代ほど適応できなくなる。
例えば、説明不足のまま「察して動くこと」を求めたり、曖昧な指示を出したり、感情的な注意を行ったりすると、若い世代は強いストレスを感じやすい。
もちろん、厳しさそのものが悪いわけではない。
問題なのは、「なぜそれが必要なのか」という説明が不足していることである。
現在の若い世代は、「納得できるか」を重視する傾向が強い。
そのため、「理由なく厳しい」「ただ怒られる」という環境では、成長意欲よりも防御意識が強くなってしまう。
東京都内のある耳鼻咽喉科クリニックでは、以前まで新人教育を完全に現場任せにしていた。
しかし新人スタッフの早期離職が続いたため、院長は教育方針を見直した。
具体的には、「なぜその業務が必要なのか」を説明する時間を設け、さらに定期面談を実施するようにしたのである。
その結果、新人スタッフ側に安心感が生まれ、定着率が改善し始めた。
重要なのは、「甘やかすこと」ではない。
"理解できる組織"を作ることなのである。
また、世代交代によって変化しているのは、コミュニケーションだけではない。
働き方に対する考え方も大きく変化している。
以前であれば、「忙しいこと」は評価されやすかった。しかし現在は、「効率的に働けること」の方が重視される傾向が強い。
そのため、長時間残業や属人的業務、非効率なアナログ作業などに対して、若い世代ほど疑問を持ちやすい。
これは決して"楽をしたい"という意味ではない。
「なぜ改善しないのか」という合理性視点を持っているのである。
そのため現在は、若い世代の意見を「最近の若い人は」と否定してしまう組織ほど、人材流出が起きやすい。
一方で、世代変化へ柔軟に対応できているクリニックでは、若手スタッフの定着率が高い。
特に、
情報共有が透明である、
質問しやすい、
教育体制が整っている、
院長との距離感が適切である、
といった組織では、「ここなら長く働ける」という感覚が生まれやすい。
つまり現在の人材確保では、「採用力」だけではなく、「世代変化へ適応できる組織力」が問われているのである。
2026年以降、クリニック経営では、さらに世代交代が進んでいく。
その中で重要なのは、「昔はこうだった」を押し通すことではない。
