Vol.1174 賃上げできないクリニックは生き残れるのか 2026年、人件費高騰時代の経営課題

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クリニック奮闘記

2026.06.02

クリニック奮闘記

Vol.1174 賃上げできないクリニックは生き残れるのか 2026年、人件費高騰時代の経営課題

、クリニック経営において避けて通れないテーマとなっているのが、「賃上げ」である。

近年、最低賃金の上昇が続いているだけではなく、医療業界全体で人材獲得競争が激化している。その結果、看護師、医療事務、リハビリスタッフなど、多くの職種で給与水準の上昇圧力が強まっている。

さらに2026年診療報酬改定では、医療従事者の処遇改善を意識した評価が継続されており、「賃上げを前提とした経営」が求められる時代へ入っている。

しかし現実には、多くのクリニックが「賃上げしたくてもできない」という問題に直面している。

背景にあるのは、診療報酬制度そのものの構造である。

クリニックは自由に価格設定できる一般企業とは異なり、保険診療部分の収益は診療報酬制度によって決められている。そのため、人件費だけが上昇しても、収益が比例して増えるとは限らない。

特に近年は、物価高騰、光熱費上昇、医療材料費の値上がり、電子カルテや予約システムなどDX関連コスト増加も重なり、多くのクリニックで利益率が低下している。

つまり現在は、「人件費を上げなければ採用できない。しかし利益は増えない」という、極めて難しい経営環境になっているのである。

大阪府内のある整形外科クリニックでは、リハビリ助手と医療事務スタッフの採用難が続いていた。

以前は、求人を出せば一定数の応募があった。しかし近年は、近隣の介護施設や調剤薬局、一般企業でも時給上昇が進み、それまでの給与水準では応募がほとんど集まらなくなっていた。

院長は当初、「そこまで給与競争へ付き合う必要があるのか」と考えていた。しかし採用できない期間が長引くにつれ、既存スタッフの残業が増え、疲弊が進行していった。

その結果、予約枠制限や診療効率低下が起こり、患者満足度も低下し始めた。さらに、現場負担増加によってベテランスタッフの離職リスクも高まっていったのである。

つまり現在は、「賃上げしないこと」が、結果として経営悪化へつながるケースも増えている。

一方で、単純に給与だけを上げれば問題が解決するわけでもない。

現在の求職者は、給与だけではなく、「長く働き続けられる環境」を重視する傾向が強い。

特に若い世代では、「多少給与が高くても、精神的負担が大きい職場では働き続けたくない」という価値観が広がっている。

東京都内のある皮フ科クリニックでは、以前、周辺相場より高い給与設定を行っていた。

しかし、離職率は改善しなかった。

原因を分析すると、現場の業務負荷が極めて高く、昼休みも短く、常に時間へ追われる運営になっていた。また、教育体制が属人化しており、新人スタッフが孤立しやすい環境でもあった。

そのため、スタッフ側には、「給与は悪くないが、長く働き続けるイメージが持てない」という空気が広がっていたのである。

そこで院長は、単なる給与改善だけではなく、予約枠調整や業務分担見直し、マニュアル整備、Web問診導入など、現場負担軽減へ着手した。

その結果、徐々に離職率が低下し、紹介採用も増え始めた。

重要なのは、「いくら払うか」だけではない。

「その給与に見合う働き方になっているか」が問われているのである。

また近年は、「賃上げ疲れ」を感じ始めている院長も少なくない。

特に小規模クリニックでは、月数万円の給与増加であっても、年間人件費へ換算すると大きな負担となる。さらに社会保険料負担増加も加わるため、「今後どこまで上げ続けられるのか」という不安を抱える経営者は増えている。

しかし今後の医療業界では、人件費上昇そのものを避けることは難しい。

なぜなら、医療機関同士だけではなく、介護業界、ドラッグストア業界、一般企業などとも人材獲得競争が起きているからである。

特に医療事務スタッフについては、「医療機関だから応募が来る」という時代ではなくなりつつある。

勤務環境や給与条件によっては、一般事務職へ人材が流出するケースも増えている。

つまり現在は、「医療機関だから人が集まる」という前提そのものが崩れ始めているのである。

だからこそ今後のクリニック経営では、「人を増やし続ける経営」ではなく、「少人数でも持続できる経営構造」への転換が求められている。

近年は、Web予約や自動精算機、AI問診などを導入しながら、業務分担やレセプト運用を見直し、少人数でも高い生産性を維持できる体制へ移行するクリニックが増えている。

これは単なるDX化ではない。

「人が採れない時代」を前提にした経営モデルへの転換なのである。

2026年以降、賃上げ問題はさらに深刻化する可能性が高い。

しかし本当に重要なのは、「どこまで給与を上げるか」だけではない。

人材が定着し、生産性が高まり、無理なく運営できる組織を作れるかどうか。