2026.06.22
クリニック奮闘記
Vol.1187 OTC類似薬の負担見直しと「受診の意味」の再定義 ―消化器内科が向き合う、患者への説明という責務―
2026年度診療報酬改定とそれに連なる制度見直しのなかで、医療費の適正化を目的とした「OTC類似薬」の取り扱いが大きな論点となっている。市販薬と同じ成分を持つ処方薬について、その費用の一部を患者の自己負担とする選定療養の仕組みを適用する方向で議論が進められてきた。本稿では、こうした薬剤を処方する機会の多い消化器内科を題材に、この見直しがクリニックの診療と患者対応に何をもたらすかを論じたい。
OTC類似薬とは、ドラッグストア等で購入できる市販薬と同一または類似の有効成分を含む処方薬を指す。医療費抑制の観点から、こうした薬剤を保険給付の対象から見直し、セルフメディケーションを推進しようとする動きが背景にある。完全に保険から外すのではなく、長期収載品と同様に価格の一部を患者が負担する選定療養の枠組みを適用する案が検討されてきた。患者負担の増加幅は小さくなく、一部の解熱鎮痛薬や外用薬では、処方薬と市販薬の自己負担額に大きな差が生じうると指摘されている。
消化器内科の診療において、この見直しは無関係ではない。胃の不調に対する制酸薬や胃腸薬、整腸剤といった薬剤のなかには、市販薬として広く流通しているものが少なくない。これらを日常的に処方する消化器内科では、患者負担の構造が変われば、窓口での説明の重要性が一気に高まる。患者がなぜ追加の負担を求められるのか、その理由を理解しないまま会計で初めて知らされれば、不信や不満につながりかねない。
ある消化器内科クリニックの院長は、この問題を診療の質という観点から捉え直した。患者負担の見直しは、裏を返せば「その薬剤を保険診療として処方する医学的な必要性」を改めて問うものでもある。市販薬で対応可能な軽微な症状なのか、それとも継続的な医学管理を要する病態の一部なのか。この見極めを医師が明確に行い、患者に説明することは、本来の診療のあるべき姿でもある。同院では、処方の際に患者の状態と処方の意図を丁寧に伝える運用を心がけ、結果として患者との信頼関係がむしろ深まったという。
この事例が示唆するのは、患者負担の構造変化が、診療における医師と患者のコミュニケーションのあり方を見直す契機になりうるという点である。これまで、保険診療のもとでは、処方される薬剤の費用を患者が強く意識する場面は限られていた。しかし、市販薬で代替可能な薬剤について追加の負担が生じるようになれば、患者は「なぜこの薬を処方されるのか」をより意識するようになる。医師の側も、漫然とした処方ではなく、その必要性を説明できる処方が求められる。これは一見すると負担の増加だが、見方を変えれば、処方の一つひとつに医学的な裏付けと説明を伴わせるという、医療の質の向上につながる側面を持つ。患者が納得して治療を受けることは、服薬アドヒアランスの向上にも資する。
あわせて押さえておきたいのが、特定疾患療養管理料に関する見直しである。今回の改定では、消化性潰瘍の患者に対し、禁忌である非ステロイド性抗炎症薬を投与した場合の算定が除外されることとなった。これは、薬剤の適正使用と算定の整合性を求めるものである。消化器内科では、潰瘍の既往を持つ患者に鎮痛薬を処方する場面が起こりうるため、禁忌のチェックと算定の管理を確実に行う体制が欠かせない。あわせて、適切な長期処方やリフィル処方箋での対応が可能であることを患者へ周知することも、特定疾患療養管理料等の要件として追加された。
これらの見直しが消化器内科に突きつけるのは、処方という行為に伴う説明責任と算定の正確性が、これまで以上に問われるという現実である。患者負担の構造が複雑になれば、窓口での丁寧な説明が患者の納得感を左右する。禁忌薬のチェックや算定除外の管理を誤れば、返戻や個別指導のリスクが高まる。これらを人の手だけで管理するのは負担が大きく、最新の制度に対応した電子カルテによるチェック機能の活用も現実的な選択肢となる。
OTC類似薬の負担見直しは、医療費の適正化という大きな政策の流れのなかにある。この流れは、医療機関に対し、保険診療として何を提供すべきかという本質的な問いを投げかけている。消化器内科にとって、これは単なる負担増の問題ではなく、自院が提供する医療の必要性を患者に明確に説明し、適正な処方と算定を貫く姿勢が問われる契機である。患者の納得感を得ながら、医学的に適切な診療を提供し、それを正確に請求へとつなげる。この一貫性こそが、適正化の時代における消化器内科経営の基盤となるであろう。
