Vol.1192 生活習慣病管理料(II)はなぜ「使いやすく」なったのか―消化器内科クリニックに見る包括範囲の再編と算定設計

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クリニック奮闘記

2026.06.29

クリニック奮闘記

Vol.1192 生活習慣病管理料(II)はなぜ「使いやすく」なったのか―消化器内科クリニックに見る包括範囲の再編と算定設計

2026年度診療報酬改定において、外来診療を担うクリニックの収益構造に最も直接的な影響を及ぼした項目の一つが、生活習慣病管理料の見直しである。とりわけ生活習慣病管理料(II)における医学管理料等の包括範囲の再編は、消化器内科をはじめとする内科系クリニックの算定設計に再考を迫るものとなった。本稿では、消化器内科クリニックを実例として、この改定の意味と経営判断のあり方を考察する。

まず制度の概要を整理しておきたい。生活習慣病管理料は、脂質異常症、高血圧症、糖尿病のいずれかを主病とする患者の総合的な治療管理に対して算定される点数であり、2024年度改定で(I)と(II)に再編された。2024年度改定では、それまで特定疾患療養管理料の対象であった脂質異常症、高血圧症、糖尿病が同管理料から除外され、これらを主病とする患者の管理は生活習慣病管理料へと移行した。この移行によって、内科系クリニックの収益構造における生活習慣病管理料の重要性は一段と高まった。そして今回の2026年度改定では、生活習慣病管理料(II)について、生活習慣に関する総合的な治療管理という本来の趣旨を踏まえつつ、それを超えて患者に別途行われるべき医学管理を適切に推進する観点から、包括範囲が見直された。具体的には、これまで生活習慣病管理料(II)に包括されていた医学管理料のうち、相当数が包括範囲から除外され、併算定が可能となったのである。報道や解説資料によれば、併算定可能な医学管理料の数は、改定前と比べて大幅に拡大したとされる。

この改定が消化器内科クリニックにとって持つ意味を、具体的な診療場面に即して考えてみたい。ある消化器内科クリニックの院長は、高血圧症や脂質異常症を主病とする中高年患者を多く抱える一方で、これらの患者の一部に肝炎や悪性腫瘍の経過観察、あるいは特定薬剤の血中濃度管理を要する者が含まれていた。従来の包括構造の下では、生活習慣病管理料(II)を算定する患者については、これらの追加的な医学管理に対する評価が包括の中に埋没してしまい、実際に提供している医療の手間と評価が乖離するという問題が生じていた。院長は「丁寧に診れば診るほど、評価されない医療が増える」というジレンマを抱えていたのである。

今回の改定で、特定薬剤治療管理料や悪性腫瘍特異物質治療管理料、肝炎関連の指導管理料、外来腫瘍化学療法診療料といった項目が包括範囲から除外されたことは、この消化器内科クリニックにとって、提供している医療の実態と算定構造を一致させる契機となった。生活習慣病という総合的管理の枠組みを維持しながら、その範囲を超える専門的な医学管理を別途評価できるようになったのである。これは単なる増収の機会というよりも、専門性の高い診療を行う医療機関ほど、その専門性が報酬に反映されやすくなったという制度的なメッセージとして読むべきであろう。

この見直しの背後にある制度設計の意図を、経営者は正しく汲み取る必要がある。生活習慣病管理料(II)はあくまで生活習慣に関する総合的な治療管理を評価したものであり、その趣旨を超えて患者に別途必要となる医学管理については、本来それぞれに対応した評価がなされるべきである、という考え方が今回の包括範囲見直しの根底にある。すなわち、今回の改定は包括を緩めて算定機会を増やすことそれ自体を目的としているのではなく、提供される医療の内実と評価の構造を整合させ、必要な医学管理が適切に実施されることを促す趣旨で行われている。この制度の意図を理解していれば、併算定が可能になった項目を機械的に算定するのではなく、それぞれの医学管理が患者にとって真に必要であるという医学的な裏づけと、それを示す診療録の記載とを伴ってはじめて算定が成立するという、当然の規律が見えてくる。改定を増収の好機とのみ捉える姿勢は、こうした制度の本旨を見失う危うさを孕んでいる。

ただし、ここで経営者として留意すべき点がある。包括範囲が変わったということは、自院でどの患者にどの管理料を算定しているかを改めて棚卸しし、算定パターンを再設計する必要があるということである。除外された医学管理料を併算定するためには、それぞれの管理料の算定要件を満たし、診療録に必要な記載を残さなければならない。包括から外れたのだから自動的に増収になる、という単純な話ではない。むしろ、新たに併算定が可能になった項目を確実に算定するための院内フローを構築できた医療機関と、改定の内容を把握しきれずに従来どおりの算定を続ける医療機関との間で、収益に差が生じることになる。

ここで顧客サービス、すなわち患者サービスの視点を加えたい。今回の生活習慣病管理料の改定では、療養計画書への患者署名が不要とされる見直しも行われた。これは一見すると事務手続きの簡素化にすぎないが、外来運用の観点からは小さからぬ意味を持つ。署名取得に伴う待ち時間や、説明のタイミングのずれといった、患者体験を損なう要因が軽減されるからである。消化器内科のように内視鏡検査の予約や結果説明で外来が混み合いやすい診療科にとって、外来動線上の摩擦を一つでも減らすことは、患者満足度に直結する。制度の見直しを、単なる算定の問題としてではなく、外来体験の設計という顧客サービスの問題として捉える視点が、ここでは有効に働く。

さらにマーケティングの視点からは、糖尿病を主病とする患者に対する眼科・歯科連携の評価が新設されたことに注目したい。糖尿病合併症の予防を目的として、眼科や歯科への受診連携を行った場合に算定できる評価が設けられた。これは、自院が地域の医療機関とどのような連携ネットワークを築いているかを、診療報酬という形で可視化する仕組みでもある。日頃から糖尿病手帳や連携パスを活用し、近隣の眼科・歯科と顔の見える関係を構築してきたクリニックにとっては、既存の連携業務がそのまま評価につながる。逆にいえば、地域連携を地道に積み重ねてきたことが、改定を機に競争優位として顕在化する局面に入ったということである。

ここで、生活習慣病管理料(I)に関わるもう一つの見直しにも触れておきたい。今回の改定では、生活習慣病管理料(I)について、原則として必要な血液検査等を少なくとも六か月に1回以上行うことが要件化された。これは、生活習慣病管理の質を担保するための要件であり、定期的な検査によって患者の状態を継続的に把握することを医療機関に求めるものである。経営の観点からは、この要件化は検査の実施という診療プロセスの標準化を促すと同時に、検査セットの見直しや検査の確実な実施を院内のフローに組み込む必要があることを意味する。質の高い生活習慣病管理を評価する「充実管理加算」が新設され、主病ごとに段階的な実績評価が導入されたことと併せて考えれば、今回の改定は、生活習慣病管理を「丁寧に、標準化された手順で、実績を残しながら」行う医療機関を評価する方向へと明確に舵を切ったといえる。消化器内科クリニックにおいても、生活習慣病を主病とする患者を多く抱える以上、この質的評価の枠組みを自院の診療プロセスにどう実装するかが問われることになる。

財務の観点から総括すれば、生活習慣病管理料(II)の包括範囲再編は、「どの算定が取れるか」という近視眼的な問いに留まるべきではない。自院の定期外来をどのような思想で運営するか、専門性の高い管理をどう評価に結びつけるか、そして地域連携をどう収益構造に組み込むか――こうした構造的な問いに向き合うための材料として、今回の改定は提示されている。

人的資源管理の視点を補えば、包括範囲の再編によって併算定可能となった項目を確実に算定するには、医療事務スタッフが新たな算定ルールを正確に理解していることが不可欠である。改定のたびに変化する算定要件を、診療の現場と請求の実務に正しく反映させる作業は、専門的な知識と経験を要する。経験あるレセプト担当者を確保し続けることが年々困難になる中で、この知識の更新と継承をいかに組織として担保するかは、内科系クリニックの経営における恒常的な課題である。改定がもたらす収益機会は、それを算定として実現できる事務体制があってはじめて経営に結実する。制度の理解という無形の資産こそが、今回のような改定を増収へと転換する鍵を握っているのである。

消化器内科というしばしば「専門性が包括に埋もれやすい」診療科だからこそ、この改定を自院の診療実態に即して読み解く意義は大きい。算定要件の確実な履行とレセプト請求の精度こそが、この機会を収益として結実させる前提条件となることは、改めて強調しておきたい。