2026.06.15
クリニック奮闘記
Vol.1184 「D to P with N」が再定義する在宅医療の担い手 ―医師は遠隔、看護師は現場へ―
2026年度診療報酬改定と、これに先立つ改正医療法の施行により、在宅医療のあり方は構造的な転換期を迎えている。その中核に位置するのが「D to P with N」、すなわち医師が遠隔からオンラインで診療し、患者のそばに看護師等が同席してその診療を補助する形態である。本稿では、在宅医療を専門とするクリニックを題材に、この新たな医療提供モデルが在宅医療の担い手のあり方をどう変えるかを論じたい。
従来の在宅医療は、「医師が患者のもとへ赴く」ことを前提としてきた。しかし医師の人的資源には限りがあり、一人の医師が訪問できる患者数には自ずと制約がある。高齢化の進展により在宅医療の需要が拡大し続けるなかで、この制約は在宅医療の供給を縛る大きな要因となってきた。D to P with Nは、この前提そのものを問い直す。医師は遠隔地からオンラインで診断・指示・処方を行い、患者のそばでは看護師が観察と手技を担う。すなわち「在宅イコール医師が行くもの」という固定観念を外し、医師と看護師の役割を再定義する試みなのである。
今回の改定では、この形態の実効性を高める見直しが行われた。従来のD to P with Nに対する評価は、オンライン診療を行う医療機関から訪問看護を担う側へコストが支払われる形であり、看護師が対面で行う診療補助の行為を直接評価するものとはなっていなかった。このため算定が十分に進まないという課題があった。これを受け、訪問看護・指導のなかで医師がD to P with Nによるオンライン診療を行った場合でも、在宅患者訪問看護・指導料等を算定できることが明確化された。ただしこの場合にも、訪問看護・指導の実施時間を十分に確保することが要件とされている。
ある在宅専門クリニックの事例を考えたい。同院は地域の訪問看護ステーションと連携し、在宅患者の医学管理を担っている。改定前、訪問先で患者の状態が急変した際には、看護師がいったん訪問を終えて医師に報告し、指示を待つという手順を踏むことが少なくなかった。この時間的な遅れが、患者と家族の不安を高める要因となっていた。改定後、同院はD to P with Nの体制を整え、訪問中の看護師がその場で医師とオンラインでつなぎ、医師が患者の状態を確認して即座に指示を出せる仕組みを構築した。発熱や呼吸状態の変化といった、すぐに医師の判断を要する場面で、この体制は大きな安心感とスピードをもたらしたという。
さらに、改正医療法によって「オンライン診療受診施設」が新たな医療提供施設として位置づけられたことも、この流れを後押しする。公民館や郵便局、駅構内のブースといった医療機関以外の場所でオンライン診療を受ける仕組みが正式化され、その中心的な形態としてD to P with Nが想定されている。これは在宅医療の概念を、患者の自宅という空間を超えて、地域のさまざまな場所へと拡張する可能性を秘めている。
この拡張は、在宅医療を担うクリニックにとって、自院の役割の幅を広げる契機となる。たとえば、自宅での療養が中心の患者だけでなく、一定の生活機能を保ちながらも通院に負担を感じる患者に対して、地域のオンライン診療受診施設を介した医療提供という選択肢が生まれる。医師の訪問という形に限定されていた在宅医療が、看護師の同席とオンラインの活用によって、より柔軟な提供形態を取り得るようになるのである。もっとも、こうした新たな仕組みを自院の診療にどう組み込むかは、地域の医療資源や連携体制、そして患者層の実情を踏まえて慎重に判断する必要がある。制度が用意した選択肢を活かせるかどうかは、地域の実情に即した運用設計にかかっている。
もっとも、この新たなモデルの運用には慎重な配慮が欠かせない。医師が遠隔で診療する以上、現場の看護師が把握した情報をいかに正確に医師へ伝え、医師の指示をいかに確実に実行するかという、両者の連携の質が医療の安全性を左右する。看護師が医師の指示のもとで実施できる行為の範囲についても、法令上の解釈を正確に理解しておく必要がある。役割分担の再定義は、責任の所在の明確化と表裏一体である。誰がどこまでを担うのかを曖昧にしたまま運用すれば、かえって医療安全上のリスクを高めかねない。
D to P with Nが在宅クリニックに突きつけるのは、在宅医療を「自院だけで抱える」モデルから「連携によって支える」モデルへの転換である。医師の訪問だけに依存せず、看護師との役割分担と外部との連携によって、より多くの患者に、より迅速に医療を届ける。今回の改定は、その方向性を制度として明確に後押しした。在宅医療の担い手であり続けるためには、この新たなモデルを自院の体制にどう取り込み、連携の質と請求の正確性をいかに両立させるかが問われている。在宅医療は、その提供のかたちそのものが問い直される時代に入ったのである。
