2026.06.15
クリニック奮闘記
Vol.1185 「オンライン診療受診施設」の創設と、対面診療の価値 ―整形外科にとってデジタル化が照らし出すもの―
2026年4月に施行された改正医療法は、「オンライン診療受診施設」という新たな医療提供施設のカテゴリーを創設した。鉄道駅やコンビニエンスストア、公民館などにオンライン診療を受けるための設備を備えた場所を設け、医療機関へのアクセスが困難な人々にも診療の機会を広げようとするものである。本稿では、診療の多くが対面の身体診察を前提とする整形外科を題材に、デジタル化の進展が、かえって対面診療の価値をどう照らし出すかを論じたい。
オンライン診療受診施設の創設は、医療提供のあり方に新たな選択肢を加えるものである。この施設は法人による設置が可能で、設置者に医師資格は求められず、遠隔での運営も認められる。設置後10日以内の届出など、一定の手続きと設備基準が定められている。こうした仕組みは、医療過疎地域における診療アクセスの改善や、通院困難な患者への対応という観点から大きな意義を持つ。在宅医療や慢性疾患のフォローアップにおいて、この施設は新たな診療の場として機能していくことが期待される。
しかし、整形外科の視点からこの動きを眺めると、別の側面が見えてくる。整形外科の診療は、その本質において対面の身体診察を欠くことができない。関節の可動域、圧痛の部位、神経学的所見、歩行の様子といった情報は、医師が直接患者に触れ、観察することではじめて得られる。膝関節症の患者の関節の状態、腰部脊柱管狭窄症の患者の神経症状、骨折後の癒合の経過。これらはいずれも、画面越しの問診や視診だけでは正確に評価できない。整形外科は、デジタル化の波のなかにあって、対面でなければ提供し得ない医療の価値が際立つ診療科なのである。
ある整形外科クリニックの院長の言葉が示唆に富む。この院長は、オンライン診療の制度的な拡大を見据えつつ、自院の診療においては対面の身体診察と画像診断、そしてリハビリテーションという、患者が来院してこそ成り立つ医療にこそ価値があると考えた。そのうえで、デジタル化を全面的に拒むのではなく、再診時の検査結果の説明や、リハビリの進捗確認といった一部の場面に限ってオンラインの活用を検討した。つまり、対面が不可欠な診療の核心を守りつつ、補助的な部分でデジタルの利便性を取り入れるという、めりはりのある姿勢である。
この姿勢が示すのは、デジタル化の時代における診療科ごとの戦略の違いである。皮膚科のように視診の比重が高い診療科や、安定期の慢性疾患管理を多く扱う内科系では、オンライン診療の活用余地が大きい。一方、整形外科のように対面の身体診察が診断の根幹をなす診療科では、オンライン化できる範囲はおのずと限られる。重要なのは、自院の診療のどの部分が対面でなければならず、どの部分がデジタルで代替し得るのかを、医学的な見地から冷静に見極めることである。デジタル化の流れに乗ること自体が目的化すれば、医療の質を損ないかねない。
この見極めは、整形外科が扱う疾患の性質を踏まえると、いっそう明確になる。たとえば変形性膝関節症の患者では、関節の腫脹や熱感、可動域の制限、歩行時の様子といった所見が治療方針を左右する。これらは医師が直接観察し、触診することではじめて正確に評価できる。骨粗鬆症に伴う脆弱性骨折のリスク評価や、術後の経過観察においても、画像診断と対面の診察が欠かせない。一方で、すでに診断が確定し治療方針が定まった患者に対する、検査結果の説明や生活指導といった場面では、オンラインの活用余地がある。整形外科におけるデジタル化とは、対面とオンラインを二者択一で捉えるのではなく、一連の診療プロセスのなかで両者を適切に配置する作業にほかならない。
経営的な観点からも、この見極めは重要である。オンライン診療受診施設という新たな仕組みが広がるなかで、整形外科が提供する対面診療の価値は、むしろ相対的に高まる可能性がある。患者が「この症状はオンラインでは不十分で、対面で診てもらう必要がある」と認識すれば、対面診療を確実に提供できる整形外科への信頼と需要はゆるがない。デジタル化が進むほど、対面でしか得られない医療の希少性が際立つという逆説が、ここにはある。
整形外科にとって、オンライン診療受診施設の創設をはじめとするデジタル化の進展は、自院の医療の本質を見つめ直す契機となる。何を対面で守り、何をデジタルに委ねるのか。この問いに自覚的に答えることが、これからの整形外科経営の根幹をなす。デジタル化は、すべての診療をオンラインに置き換えることを求めているのではない。むしろ、それぞれの診療科が自らの医療の核心を再認識し、その価値を患者に明確に示すことを促している。整形外科が提供する対面診療の確かさは、デジタルの時代だからこそ、いっそうの輝きを放つのである。
