Vol.1214 処方の一部が「特別料金」になる日 ―OTC類似薬の選定療養化とクリニックの説明責任―

本当は知りたい失敗談・トラブル事例

Clinic Diary
クリニック奮闘記

Vol.1214 処方の一部が「特別料金」になる日 ―OTC類似薬の選定療養化とクリニックの説明責任―

2026年5月29日、参議院本会議において健康保険法等の一部を改正する法律が可決・成立した。この改正には高額療養費制度の見直しなど複数の論点が含まれるが、外来診療の現場に最も直接的な影響を及ぼすのは、いわゆるOTC類似薬に対する保険給付の見直しである。市販薬と成分・用量が同等の医療用医薬品について、薬価の25%相当を患者が追加負担する仕組みが導入される。対象は77成分、およそ1,100品目とされ、施行は2027年3月が予定されている。

まず用語を正確に押さえておきたい。報道では「保険外し」という表現が用いられることがあるが、これは正確ではない。今回の仕組みは選定療養の枠組みを用いるものであり、保険給付そのものは維持されたうえで、その一部について特別料金を患者が負担する構造である。日本の医療保険制度は原則として保険診療と自由診療の併用を禁じているが、選定療養はその例外として認められている類型であり、紹介状なしで大病院を受診した際の定額負担、入院時の差額ベッド代、そして2024年10月から実施されている長期収載品の選定療養が既に存在する。今回はその適用範囲が、日常的に処方される薬剤群へと大きく拡張されることになる。

診療科によって影響の濃淡は大きく異なる

対象となる成分には、鎮痛消炎薬、抗ヒスタミン薬、保湿外用薬といった、外来診療の中核を占める薬剤が含まれると報じられている。したがって、影響の大きさは診療科によって著しく異なる。

皮膚科は最も影響を受ける診療科の1つである。ヘパリン類似物質を含む保湿外用薬は、アトピー性皮膚炎や乾皮症の治療において基本となる薬剤であり、処方量も多い。仮に薬価の25%が特別料金として上乗せされれば、大量処方を受けている患者ほど負担増を実感することになる。ここで注意すべきは、医学的に必要な保湿治療と、美容目的での使用とを、患者の側が明確に区別していないことがある点である。形成外科を併設している施設では、瘢痕やケロイドに対する外用管理も同様の説明を要する。負担増をきっかけに治療中断が生じれば、湿疹病変の再燃と外来単価の低下という二重の損失を招く。

耳鼻咽喉科では、アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬が大きな比重を占める。花粉症の季節に集中的に処方される薬剤群がまとめて対象となれば、シーズンの受診行動そのものが変化する可能性がある。薬局で購入すれば済むと判断する患者が一定数生じることは避けられない。ただし、内服だけで完結する軽症例が離れることは、鼻噴霧用ステロイドや舌下免疫療法、あるいは手術適応の評価を要する中等症以上の症例に診療資源を集中させる契機ともなりうる。日帰り手術を実施している施設にとっては、外来の構成比を見直す好機と捉えることもできよう。

整形外科では、外用の消炎鎮痛薬、いわゆる湿布の位置づけが問われる。従来から投薬量には制限が設けられてきた領域であるが、今回の見直しはさらに一歩進んで、患者の費用意識に直接働きかけるものである。運動器リハビリテーションを中心とする診療モデルにおいて、外用薬は治療全体の一部にすぎないという説明を、これまで以上に丁寧に行う必要が生じる。

小児科では、解熱鎮痛薬、鎮咳去痰薬、整腸剤といった、いわゆる感冒に対する処方が対象に含まれうる。多くの自治体で子ども医療費助成制度が実施されているため、選定療養の特別料金が助成の対象となるかどうかが実務上の最大の論点となる。長期収載品の選定療養においては特別料金が公費助成の対象外とされた経緯があり、同様の整理となれば、これまで窓口負担が発生していなかった家庭に突如として現金負担が生じることになる。この点は制度の詳細が示され次第、真っ先に確認すべき事項である。

内科および消化器内科では、制酸薬や整腸剤、便秘治療薬などが関わる。生活習慣病の管理を中心とする診療では処方の中核が対象外であることが多く、相対的な影響は限定的と見込まれるが、高齢患者に対する多剤処方の中に対象薬が複数含まれる場合、合算した負担増は無視できない水準となる。令和8年度改定で薬剤適正使用連携加算の対象が他院外来の通院患者にまで拡大され、ポリファーマシー対策への評価が強化されたことは、この文脈においても示唆的である。処方の見直しは、患者負担の軽減と診療報酬上の評価の双方に資する。

例外の扱いと未確定領域

現時点では、小児や難病患者、あるいは医師が医療上必要と認めた場合について例外措置を設けることが検討されているとされる。長期収載品の選定療養においても、医療上の必要性があると医師が判断した場合には特別料金を求めない取扱いが設けられており、同様の設計となる可能性が高い。

ただし、この「医師が必要と認めた場合」という例外こそが、現場に新たな負荷をもたらす。医療上の必要性を診療録に記載し、処方箋に所定の記載を行い、患者に説明するという一連の作業が、対象薬剤を処方するたびに発生することになる。長期収載品の選定療養が導入された際、多くの医療機関で処方箋の様式変更と院内周知に相応の労力を要したことは記憶に新しい。今回は対象品目数が桁違いに多い。

なお、対象成分の具体的な範囲、特別料金の算定方法、公費負担医療との調整、レセプト上の記載方法といった実務の詳細は、今後の政省令および通知によって示される。現時点で確定していない事項について断定的な準備を進めることは適切でないが、情報が出そろってから動き始めるのでは間に合わないことも、これまでの制度改正が繰り返し示してきた通りである。

クリニックが今から着手できること

第1に、自院の処方構成の把握である。過去1年間の処方データを集計し、報じられている対象成分がどの程度の比重を占めているかを確認する。レセプトデータを用いれば、薬剤ごとの処方回数と数量は容易に抽出できる。仮に処方全体の3割が対象成分に該当するのであれば、それは診療報酬改定に匹敵する規模の環境変化として扱わなければならない。

第2に、説明の設計である。窓口で「なぜ今月から高くなったのか」と問われたとき、受付職員が制度を正確に説明できる状態にしておく必要がある。ここで重要なのは、説明の負荷を最前線の職員だけに負わせないことである。掲示物と患者向け説明文書をあらかじめ用意し、口頭説明を最小限で済ませる設計にしておくべきである。前号で述べたカスタマーハラスメント対策の観点からも、制度に起因する不満が個々の職員へ向かう構造は、事前に断ち切っておかなければならない。

第3に、医学的判断の言語化である。この薬剤が医療上必要であるという判断を、診療録に記載可能な形で整理しておく。慢性湿疹に対する保湿外用薬の継続、通年性アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬の維持療法といった典型例について、記載の定型を準備しておけば、日々の診療における負荷は大きく軽減される。

第4に、システム対応の確認である。レセプトコンピュータおよび電子カルテのベンダーに対し、対象薬剤の判別、特別料金の会計処理、領収証および明細書への表示について、いつまでに対応版が提供されるかを早期に照会しておく。施行直前に一斉に問い合わせが集中することは容易に予想される。

第5に、院外薬局との連携である。特別料金の徴収は、院外処方の場合には薬局の窓口で発生する。すなわち、処方を決定するのは医師でありながら、負担増を告げられるのは薬局においてである。この分離は、患者に「医師は何も説明してくれなかった」という印象を与えかねない。長期収載品の選定療養が導入された際にも、薬局と医療機関の間で説明責任の所在が曖昧になり、患者の不満が双方に向かうという事態が各地で生じた。診察室で処方を決める段階において、費用に関する見込みを一言添えておくことが、結果として薬局の負担も軽減する。地域の主要な連携薬局とは、施行前に説明内容をすり合わせておくことが望ましい。

なお、患者にとっての選択肢としてセルフメディケーション税制が存在する。特定の一般用医薬品等の年間購入額が一定額を超える場合に所得控除を受けられる制度であり、市販薬での対応が適切な患者に対しては有用な情報となる。医療機関がこうした制度を案内することは、受診を遠ざける行為ではなく、限られた医療資源の配分に関する説明責任の一部と捉えるべきであろう。

制度変更を診療の質の議論に接続する

OTC類似薬の見直しは、財政的な観点からは医療費の適正化策である。しかし臨床の側から見れば、「その薬剤は本当に必要か」という問いを、制度が改めて突きつけてきたということでもある。漫然と継続されてきた処方を点検し、必要なものは根拠を明示して継続し、不要なものは中止する。この作業は、患者負担の軽減という直接的な便益に加えて、副作用リスクの低減という臨床的な便益をもたらす。

同時に、軽症患者の受診控えという副作用も想定しなければならない。外来患者数の減少が生じた場合、それは単価の問題ではなく患者数の問題として損益に現れる。固定費の比重が高いクリニック経営において、患者数の減少は利益に対して増幅して作用する。制度施行までにおよそ1年半、その間に自院の診療構成をどう組み替えるかを考える時間が与えられていると捉えるべきであろう。

ページトップへ戻る