Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
診療所に対する患者の不満として、最も頻繁に挙げられるのが待ち時間である。この事実は広く知られているにもかかわらず、待ち時間の改善に体系的に取り組んでいる診療所は多くない。理由は明快で、待ち時間の長さは診療の質と表裏一体だからである。1人あたりの診察を丁寧に行えば、後の患者を待たせる。急患を受け入れれば、予約患者の順番は後ろにずれる。医療の性質上、待ち時間をゼロにすることはできない。
しかし、ここで問い直すべきは、患者が不満を抱いている対象は本当に「時間の長さ」なのかという点である。
行動科学の知見によれば、人が待つことに苦痛を感じる度合いは、実際の待ち時間の長さだけでは説明できない。あとどれくらい待つのかがわからない状態、自分より後に来た人が先に呼ばれる状態、待っている間に何もすることがない状態。これらが苦痛を増幅する。逆に、見通しが立ち、順序が納得でき、待ち時間に別のことができるのであれば、同じ30分でも体感は大きく変わる。
すなわち、取り組むべきは待ち時間の短縮だけではない。不確実性の削減である。
ボトルネックを見つける
改善の第1歩は、実測である。患者が来院してから会計を終えて退出するまでの流れを、受付、問診、待機、診察、処置または検査、会計という段階に分け、それぞれに要する時間を記録する。この作業を1週間続ければ、どこで滞留が起きているかが見える。
ある整形外科クリニックでこの実測を行ったところ、診察そのものよりも、レントゲン撮影の前後で待機が発生していることがわかった。撮影室は1つ、放射線技師は1名。診察の前に撮影が必要な患者と、診察後に処置室へ向かう患者が同じ動線上で交錯していた。対応としては、初診で撮影が見込まれる患者を受付の段階で判別し、問診の前に撮影を済ませる運用に変更した。医師の診察時間は変えていないが、患者1人あたりの滞在時間は平均で15分あまり短縮された。
耳鼻咽喉科では、また別の構造がある。診察と処置が一体化しているため、1人あたりの所要時間のばらつきが大きい。ネブライザーによる吸入を伴う患者は、処置室での滞在が加わる。花粉症の季節や、日帰り手術を行う曜日には、この負荷がさらに偏る。あるクリニックでは、手術日の午後の一般外来枠を意図的に絞り、代わりに手術のない曜日の枠を増やした。総枠数は変えていないが、患者の集中は緩和された。
小児科では、感染症流行期の混雑が最大の課題である。加えて、感染症の患者と、予防接種や乳幼児健診で訪れる患者を同じ空間で待たせることには、医学的な問題がある。時間帯を分ける運用は既に多くの施設が採用しているが、その時間帯設定が実態に合っているかを定期的に見直している施設は少ない。
見通しを提供する
不確実性を減らすための手段は、必ずしも高価な仕組みを要しない。
順番待ちの状況を院外から確認できる仕組みは、いまや広く普及している。しかし、導入していても、更新の精度が低ければかえって不信を招く。「あと3人」と表示されていたのに1時間待たされたという経験は、何も表示されないことより悪い印象を残す。表示する以上は、実態と乖離しない運用が求められる。
より簡便な方法として、受付時に「本日は概ね40分ほどお待ちいただく見込みです」と口頭で伝えるだけでも効果はある。実際より少し長めに伝えることは、誠実さを欠く行為ではなく、期待値を適切に設定する行為である。予想より早く呼ばれれば、患者はむしろ好意的に受け取る。
内科において生活習慣病の定期通院患者を多く抱えている場合、時間帯予約の導入が有効に機能することがある。検査結果の説明が中心で所要時間が読みやすい患者と、症状を訴えて受診する患者とでは、必要な時間が異なる。この2種類を同じ待ち行列に混在させると、双方にとって不都合が生じる。定期通院の患者に固定的な時間枠を割り当てることで、待ち行列そのものを短くできる。
予約制が万能ではない理由
待ち時間の対策として真っ先に検討されるのが予約制である。しかし、予約制を導入すれば待ち時間が解消するという理解は、しばしば裏切られる。
理由の1つは、予約枠の設計が実態に合っていないことである。1人15分の枠を設定していても、実際の平均所要時間が18分であれば、遅れは累積する。午前中の診療が進むにつれて予約時刻とのずれは拡大し、最後の患者は1時間以上待つことになる。この場合、予約制は「予約したのに待たされた」という、より強い不満を生む。改善の出発点は、自院の実際の診察時間を測ることである。感覚で設定された枠は、ほぼ例外なく実態より短い。
理由のもう1つは、予約外の患者への対応である。急な発熱、外傷、症状の悪化。これらを断らないという方針を採るのであれば、予約枠は満杯に埋めてはならない。あえて空き枠を残すという設計が要る。ある小児科クリニックでは、午前の診療枠のうち2割を予約外のために空けている。埋まらなければ早く終わるだけであり、埋まれば予定どおりに進む。稼働率を最大化しようとする発想を捨てたことで、かえって運営は安定したという。
予約制と予約なしのどちらが優れているという話ではない。重要なのは、自院がどちらの方式を採っているにせよ、その方式が実際の患者の流れと整合しているかを検証することである。
情報の非対称を減らす
患者が不安を感じるのは、待ち時間の長さそのものよりも、何が起きているかがわからないことによる場合が多い。
診察が大幅に遅れているとき、その理由を伝えているだろうか。「急患の対応が入っております」「検査に時間を要している患者様がいらっしゃいます」という一言があるだけで、受け止め方は変わる。理由を伝えることは、患者を説得するためではなく、自分がないがしろにされているのではないという安心を提供するためである。
逆に、伝えないことによる損失は大きい。理由がわからないまま待たされた患者は、「この診療所は患者を軽んじている」と解釈する。その解釈は口コミとして外部に出る。待ち時間そのものは変えられなくとも、解釈は変えられる。
呼吸器内科や耳鼻咽喉科のように、検査を伴う診療科では、検査結果を待つ時間が発生する。この待機時間について、「およそ20分でお呼びします」と伝えるか、何も伝えないかで、患者の体感はまったく異なる。所要時間の目安を職員全員が共有しているかどうかは、確認しておく価値がある。
待ち時間の質を変える
待たせないことが難しいのであれば、待っている時間の使い方を変えるという発想がある。
事前のウェブ問診は、その代表例である。来院前に問診を済ませておけば、待合室での記入時間がなくなるだけでなく、医師が診察前に情報を把握できるため、診察そのものも効率化する。消化器内科において、内視鏡検査の既往や服薬状況を事前に把握できることの意味は大きい。
待合室の環境も、体感を左右する要素である。椅子の間隔、照明、温度、音。皮膚科において、掻痒感の強い患者が暑い待合室で長時間待つことは、症状そのものを悪化させかねない。呼吸器内科において、感染性の疾患が疑われる患者を一般の待合室で待たせることは、他の患者への配慮を欠く。空間の設計は、快適性の問題であると同時に、医学的な配慮の問題でもある。
誰の時間を守るのか
最後に、視点を変えて考えたい。待ち時間の問題は、患者の時間だけの問題ではない。混雑が常態化している診療所では、職員が絶えず苛立った患者への対応に追われる。受付職員は謝罪を繰り返し、看護師は次の患者を急かす。この状態が続けば、職員は疲弊し、離職につながる。
逆に、流れが整理された診療所では、職員が落ち着いて対応できる。落ち着いた対応は患者の満足度を上げ、それがさらに職員の負担を軽くする。待ち時間のマネジメントは、患者サービスの改善であると同時に、職場環境の改善でもある。
そして、院長自身の時間も守られる。診察の流れが滞れば、昼休みは削られ、終業時刻は後ろへずれる。この状態を何年も続けることは、院長個人の健康にとって望ましくない。診療所の運営を設計するという行為は、そこで働くすべての人の生活を設計する行為でもある。
改善を継続する仕組み
一度きりの改善は、時間の経過とともに元に戻る。患者構成は変わり、職員は入れ替わり、季節によって疾患の分布も変わる。したがって、待ち時間の検証は定期的に行われる必要がある。
現実的な方法として、四半期に1度、1週間だけ滞在時間を計測するという運用がある。全期間を計測する必要はない。同じ条件で定点観測を続ければ、変化の方向はわかる。あわせて、患者から寄せられた意見のうち、待ち時間に関するものの件数を数えておけば、数値と実感の両面から状況を把握できる。
このとき、計測を職員に押し付けないことが肝要である。「測っておいて」という指示は、業務を増やすだけの命令として受け取られる。何のために測るのか、その結果をどう使うのかを説明し、改善案は現場から出してもらう。実際、滞留の原因を最もよく知っているのは、その場で働いている職員である。院長が気づいていない小さな滞りを、彼らは毎日見ている。
待ち時間は、診療所の運営のあらゆる要素が集約されて現れる指標である。予約の設計、人員配置、動線、機器の配置、そして職員間の連携。ここに手を入れることは、経営そのものに手を入れることに等しい。実測から始めることを勧めたい。感覚ではなく数字で議論すれば、改善の余地は必ず見つかる。