Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
5年目に入った供給不安
「先生に処方された薬が薬局になくて、別の薬に変わりました。」外来でこの言葉を聞かない週はない、という院長は多いであろう。2020年末から2021年にかけて複数の後発医薬品メーカーで品質管理をめぐる不正が発覚し、業務停止命令と自主回収が相次いで以降、医薬品の供給不安は5年を超えて続いている。
厚生労働省が公表している供給状況の月次集計では、2026年3月実績で限定出荷と供給停止をあわせた品目が全体の14%、2,276品目に達している。厚生局は、後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いに関する事務連絡を2021年9月以降繰り返し発出しており、後発医薬品使用体制加算等の使用割合の算出から供給停止品目を除外する特例は、期限を延長しながら現在も継続している。特例が5年間も「臨時」であり続けている事実が、この問題の構造的な性格を示している。
2026年に入って新たな要因も加わった。3月以降の中東情勢の緊迫化により、原油とナフサの供給への懸念が広がり、医薬品の原薬、容器の原料、滅菌に用いる重油への影響が懸念されている。厚生労働省と経済産業省は3月31日に確保対策本部を設置した。品質問題に起因する国内の生産能力の低下に、国際的な原材料の供給リスクが重なった形である。
本稿では、供給不安が続く環境において、処方の設計と患者への説明をどう組み立てるかを、患者サービスの視点から整理する。なお、OTC類似薬の保険外療養についてはVol.1233で扱ったため、本稿では扱わない。
選定療養の引き上げが生んだ矛盾
2026年6月から、後発医薬品のある先発医薬品、いわゆる長期収載品を患者の希望で選択した場合の選定療養における特別の料金が、先発品と後発品の価格差の4分の1から2分の1に引き上げられた。患者が先発品を選ぶ場合の追加負担は倍になり、制度は後発品の選択をさらに強く促している。
ここに矛盾が生じる。制度は後発品を選ぶよう患者に圧力をかけるが、その後発品が薬局にない。後発品の在庫がなく提供が困難な場合は選定療養の対象外とされており、患者に追加負担は生じない。しかし、薬局で「後発品がないので先発品になります」と説明された患者と、「後発品を希望したが在庫がないので別のメーカーの後発品になる」と説明された患者は、同じ薬を処方されたはずなのに、来院のたびに異なる薬を受け取ることになる。この経験が積み重なると、患者は処方そのものへの信頼を失う。
診療所の側では、患者の不信が最初に向かうのは薬局ではなく処方した医師である。薬局での説明を薬局に任せきりにしていると、患者は「先生は知っているのか」と疑問を持つ。処方の段階で供給状況を把握し、患者にひと言添えておくことが、患者サービスとしての最初の対応となる。
一般名処方と「変更不可」の使い分け
供給不安への処方上の対応として最も基本的なのは、一般名処方である。銘柄を指定せず成分名で処方すれば、薬局は在庫のある後発品を選択でき、供給停止による調剤不能の確率は下がる。一般名処方加算は令和8年度改定でも維持されており、供給不安の中でその意義は高まっている。
他方で、すべてを一般名処方にすればよいわけではない。剤形や製剤の特性によって、変更が治療に影響する薬剤がある。吸入薬のデバイス、徐放製剤、貼付剤の基剤、小児用のドライシロップの味は、同一成分であっても患者の使用感と服薬の継続に影響する。これらについては、変更不可の指示を付ける根拠を診療録に記載したうえで、銘柄を指定する。変更不可の乱用は薬局の対応を困難にし、供給不安を悪化させるが、必要な変更不可を省略すれば、患者の服薬継続が損なわれる。使い分けの基準を院内で共有しておく必要がある。
門前薬局との在庫情報の共有
供給不安への実務的な対応として最も効果が高いのは、近隣の薬局との情報共有である。薬局は日々、卸からの納品状況と限定出荷の情報を把握している。この情報が処方の前に医師の手元にあれば、調剤不能や疑義照会の頻度は下がる。
消化器内科のあるクリニックは、門前薬局と月に1度、供給が不安定な薬剤の一覧を共有している。薬局の側から、限定出荷になっている薬剤と代替候補、卸からの入荷見込みが伝えられ、院長はその情報をもとに、新規処方の際に供給の安定した薬剤を選択している。2026年12月に販売中止となる予定の鎮痙薬のように、長年使われた薬剤が供給を終える場合には、既存の患者について切り替えの時期と代替薬を事前に決めておくことができる。処方の変更を患者に伝える役割は医師が担い、薬局は医師の説明を受けた患者に対して調剤時の説明を補う。この分担が、患者の混乱を最小限にする。
呼吸器内科 ― 吸入薬と鎮咳薬の設計
呼吸器内科のあるクリニックでは、吸入薬のデバイスの変更が治療継続に直結するため、吸入薬については銘柄を指定し、変更不可の理由を診療録に記載している。他方、鎮咳薬と去痰薬は限定出荷が頻発する分野であり、こちらは一般名処方とし、薬局の在庫に応じた選択を許容している。
問題となったのは、小児から高齢者まで幅広く使われる鎮咳薬が入手困難となった時期であった。院長は、代替となる薬剤の選択肢と、症状に応じて処方を見送る判断の基準を院内で共有し、患者には「現在この薬が全国的に不足しており、代わりにこの薬を処方する」と診察室で説明することとした。薬局で初めて変更を知る患者がいなくなったことで、薬局からの疑義照会も減った。
消化器内科 ― 長期処方と在庫の見通し
消化器内科では、胃酸分泌抑制薬や整腸剤のように長期にわたって処方される薬剤が多く、供給停止による影響は慢性疾患の管理に直接及ぶ。あるクリニックの院長は、限定出荷の情報を得た薬剤について、新規処方を避けるだけでなく、既存の患者の処方日数を調整している。供給の回復が見込まれる薬剤は処方日数を短縮して在庫の枯渇を避け、回復が見込めない薬剤は計画的に代替薬へ切り替える。切り替えの際には、服用方法や注意点の違いを診察室で説明し、次回の来院時に不都合がないかを確認する。
小児科 ― ドライシロップと剤形の問題
小児科では、抗菌薬や抗アレルギー薬のドライシロップが限定出荷となる場面が繰り返されている。同じ成分でも、メーカーによって味と溶解性が異なり、服薬の可否に影響する。小児科のあるクリニックでは、薬局と協力して、限定出荷となっている小児用製剤の一覧と、代替可能な剤形を把握している。錠剤や散剤への変更が可能な年齢と体重の目安を院内で定め、保護者には「今回は剤形が変わるが、飲ませ方はこうする」と診察室で説明する。保護者にとって、薬局で初めて剤形の変更を知ることと、医師から事前に説明を受けることの差は大きい。
皮フ科 ― 外用薬と容器の供給
皮フ科では、外用薬の供給不安に加えて、軟膏を入れる容器の供給不足という別の問題が生じている。院内で外用薬を混合して交付するクリニックでは、容器の不足が交付の遅れに直結する。皮フ科のあるクリニックでは、容器の在庫を月次で確認し、複数の卸から調達する体制を整えた。外用薬については、同一成分の後発品間でも基剤の違いが使用感に影響するため、患者が変更を望まない場合には変更不可とし、その理由を記録している。
加算の特例と情報の入手先
後発医薬品の使用割合に関する臨時的な取扱いは、外来後発医薬品使用体制加算を届け出ている診療所に直接関係する。供給停止となっている品目と同一成分・同一剤形の医薬品を使用割合の算出から除外できる特例により、供給不安を理由に加算の要件を満たせなくなる事態は回避されている。ただし、除外の対象となる品目は厚生労働省が公表する一覧に基づくため、自院の処方品目がその一覧に含まれているかを定期的に確認しなければ、算出を誤る。特例の期限も半年ごとに延長される形が続いており、延長の有無を確認する習慣が必要である。
供給状況の情報源は、厚生労働省の供給状況一覧、各メーカーが公表する出荷状況、卸からの通知、そして薬局からの情報がある。これらを院長がすべて追うことは現実的ではない。事務職員または看護師のうち1名を担当と定め、月に1度、自院の処方頻度上位の薬剤について供給状況を確認し、院長に報告する運用が、負担と効果の均衡点である。
院内処方の在庫管理
院内処方を行っているクリニックは、供給不安の影響を薬局を介さずに直接受ける。在庫の管理は、使用量の予測と発注の判断という、薬局と同じ課題を院内で担うことを意味する。
院内処方のクリニックで有効なのは、処方頻度の高い薬剤について、限定出荷の情報を定期的に確認し、代替薬をあらかじめ決めておくことである。在庫が枯渇してから代替を探せば、患者の処方が途切れる。他方で、供給不安を理由に在庫を過剰に積み増せば、期限切れの廃棄損が増える。適正な在庫水準を薬剤ごとに定め、限定出荷の情報に応じて水準を見直す運用が求められる。
患者への説明は「処方の一部」である
供給不安が長期化する環境において、処方は薬剤を選択する行為にとどまらない。その薬剤が患者の手に渡るまでの経路を見通し、渡らない場合の代替を用意し、変更が生じることを患者に伝えるところまでが、処方という行為に含まれる。
患者にとって、薬が変わることの不安は、変わった薬の効果や安全性よりも、変わる理由を知らされていないことから生じる。診察室で「この薬は現在供給が不安定なので、薬局で別のメーカーの薬になるかもしれない」と伝えるのに要する時間は10秒である。この10秒があるかないかで、患者の処方への信頼と、薬局からの疑義照会の頻度が変わる。供給不安は診療所の責任ではないが、その影響を患者にどう伝えるかは、診療所の患者サービスの一部である。