Vol.1176 生活習慣病管理料「充実管理加算」新設が問う、内科診療の質 ―循環器内科・消化器内科・呼吸器内科の現場から―

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クリニック奮闘記

2026.06.09

クリニック奮闘記

Vol.1176 生活習慣病管理料「充実管理加算」新設が問う、内科診療の質 ―循環器内科・消化器内科・呼吸器内科の現場から―

2026年度(令和8年度)の診療報酬改定は、内科系クリニックの経営にとって看過できない構造変化をもたらした。とりわけ慢性疾患を診療の柱とする循環器内科、消化器内科、呼吸器内科の各分野において、生活習慣病管理料の見直しは収益と業務フローの双方に直接的な影響を及ぼしている。本稿では、その本質を実例とともに整理し、開業医が何を意思決定すべきかを論じたい。

今回の改定で最も特筆すべきは、従来の「外来データ提出加算」が再編され、診療の質を評価する仕組みとして「充実管理加算」が新設された点である。これは単なる加算項目の増設ではなく、診療報酬制度全体の思想転換を象徴している。すなわち、診療行為の量ではなく、患者の状態を継続的に把握し、必要な検査と指導を適切に記録し続ける「日常診療の質」を評価軸に据えるという方向性である。あわせて生活習慣病管理料(Ⅰ)(Ⅱ)では、血液検査等を少なくとも6か月に1回以上実施することが要件として明確化された。他院で実施した検査結果や、特定健康診査等で得られた血液検査結果についても、診療録に記載することで要件を満たし得るとされたことは、現場の運用において重要な意味を持つ。

なお、今回の改定における診療報酬本体の改定率はプラス3.09%であり、近年では大幅なプラス改定となった。物価高騰と人件費上昇への対応という政策的背景のもと、医療機関の経営基盤を下支えする意図がうかがえる。しかし、改定率がプラスであることと、個々のクリニックが実際に増収を実現できるかは別の問題である。プラス改定の恩恵を享受できるのは、新設・見直しされた加算の要件を正確に満たし、確実に算定できる体制を備えた診療所に限られる。生活習慣病管理料の充実管理加算は、まさにその典型例といえる。要件を満たさなければ、改定率がいかにプラスであっても、その分の収益は手元に残らないのである。

ここで、ある循環器内科クリニックの事例を紹介したい。高血圧症と脂質異常症の患者を中心に、月間レセプト枚数およそ900枚を扱うこの診療所では、改定前まで生活習慣病管理料の算定にあたって検査の実施時期を体系的に管理していなかった。患者が「今日は採血を遠慮したい」と申し出れば、その意向を尊重して次回に回すことが常態化しており、結果として6か月以上検査を行わないまま管理料を算定し続けるケースが散見された。改定後の要件を踏まえてレセプトを精査したところ、検査記録の不備により算定根拠が脆弱な症例が一定数存在することが判明したのである。仮にこの状態のまま個別指導の対象となれば、返還を求められるリスクは小さくない。

消化器内科においても同様の論点が浮上している。逆流性食道炎や慢性胃炎に対する長期的なプロトンポンプ阻害薬の処方は、生活習慣病とは性質を異にするものの、糖尿病や脂質異常症を併存する患者では生活習慣病管理料の対象となり得る。今回の改定では、糖尿病を主病とする患者に併存する糖尿病以外の疾患について自己注射を行う場合を想定し、糖尿病に適応のある薬剤以外の薬剤に係る在宅自己注射指導管理料の算定が可能となる方針が示された。これは併存疾患を含めた総合的な管理を評価しようとする姿勢の表れであり、複数疾患を抱える高齢患者を多く診る消化器内科にとっては追い風となり得る一方、算定の正確性がこれまで以上に問われることを意味する。

呼吸器内科の現場では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息の患者管理において、生活習慣病管理料との関係を慎重に整理する必要がある。喫煙歴を背景とする患者群では、循環器疾患や代謝疾患を併存することが多く、主病の設定如何によって算定できる管理料が変わってくる。ある呼吸器内科クリニックでは、改定を機に主病設定の見直しを行い、併存疾患の記載を診療録に体系的に残す運用へと切り替えた。その結果、算定の透明性が高まり、レセプト点検にかかる時間も短縮されたという。

これらの実例が示すのは、改定への対応が単なる事務的な作業ではなく、診療録という医師自身の記録の質に直結するという事実である。生活習慣病管理料の算定要件を満たすためには、検査の実施時期、指導の内容、次回受診の時期について、医師が意図をもって記録を残さねばならない。令和8年3月23日付の疑義解釈資料では、患者の都合により次回受診日が確定しない場合であっても、必要な時期について十分な指導を行えば算定可能とする柔軟な運用が示された。しかしこの「柔軟さ」は、裏を返せば記録の有無が算定の可否を分けることを意味している。

開業医にとって本質的な問いは、こうした要件の変化を負担として捉えるか、それとも診療の質を可視化する機会として捉えるかにある。レセプトの算定根拠が診療録に整合的に記録されている診療所は、個別指導においても、また将来的な事業承継の局面においても、その経営の健全性を客観的に示すことができる。逆に、算定と記録の乖離を放置した診療所は、改定のたびに潜在的なリスクを積み増していくことになる。

ここで、改定の思想的背景にもう一歩踏み込んでおきたい。生活習慣病管理料がたどってきた歴史を振り返れば、その評価軸は一貫して「包括化」と「質の評価」へと向かってきた。かつて高血圧、糖尿病、脂質異常症の慢性疾患は、個々の検査や処方を出来高で算定する形が主流であった。それが生活習慣病管理料という包括的な点数へと移行し、さらに今回、充実管理加算という質の評価軸が加わった。この流れが意味するのは、国が慢性疾患の管理に対して「どれだけの医療行為を行ったか」ではなく「患者の状態をどれだけ適切に管理し続けたか」を問う方向へ舵を切ったということである。生活習慣病は一度の診療で完結するものではなく、長期にわたる継続的な関与によって初めて重症化が防がれる。その本質を診療報酬の構造に反映させようとする試みが、今回の改定には込められている。

この観点に立てば、内科系クリニックの経営者が見据えるべきは、単年度のレセプト収益の増減を超えた、より長期的な視座である。たとえば前述の循環器内科クリニックでは、検査記録の不備が判明したことを契機に、HbA1cや脂質、腎機能といった主要な検査項目について、患者ごとに次回検査の予定時期を電子カルテ上で管理する仕組みを導入した。これにより、検査の実施漏れがシステム的に防がれ、生活習慣病管理料の算定根拠が常に診療録上で担保される状態が実現した。注目すべきは、この取り組みが算定要件を満たすという事務的な目的にとどまらず、患者の重症化予防という診療の本質的な目的にも合致している点である。検査を適切な時期に実施することは、合併症の早期発見につながり、結果として患者の予後を改善する。制度が求める「質」と、医師が本来追求すべき「医療の質」とが、ここで一致するのである。

慢性疾患管理を主軸とする内科系クリニックにおいて、診療報酬改定への対応とは、突き詰めれば「診療の質をいかに記録に落とし込むか」という命題に行き着く。検査の標準化、診療録記載の体系化、そしてレセプト点検の精緻化。この三つを連動させることが、充実管理加算の時代における内科経営の基盤となるであろう。改定の波を乗り越える鍵は、新たな加算を追いかけることではなく、日々の診療の質そのものを高め、それを正確に記録し請求へとつなげる一貫した体制にある。循環器内科、消化器内科、呼吸器内科という専門性の違いを超えて、慢性疾患を継続的に診るすべての内科医にとって、この命題は等しく重みを持つものである。