Vol.1208 2026年度診療報酬改定と生活習慣病管理料 ―― 制度変更が迫る診療モデルの再構築

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Vol.1208 2026年度診療報酬改定と生活習慣病管理料 ―― 制度変更が迫る診療モデルの再構築

2024年度改定において特定疾患療養管理料の対象疾患から糖尿病、脂質異常症、高血圧が除外され、生活習慣病管理料への移行が促されたことは、内科系診療所の収益構造に大きな影響を与えた。2026年度改定を経て、この方向性はさらに明確になっている。すなわち、疾患を「管理する」ことに対する評価から、患者の行動変容と療養計画の質に対する評価へと、報酬の重心が移動しているのである。

この変化を、単なる算定要件の変更として処理した診療所と、診療モデルそのものの再構築の契機とした診療所との間には、2年を経て明確な差が生じている。京都府内で内科(循環器内科を標榜)を経営するC院長の事例を検討する。開設15年目、常勤医師1名、看護師3名、管理栄養士1名(非常勤)、医療事務3名、1日平均外来患者数75名、うち生活習慣病の定期通院患者が約400名という構成である。

この点を論じる前提として、2024年度改定が内科系診療所に与えた衝撃の性質を確認しておきたい。特定疾患療養管理料は、月2回まで算定可能な管理料として、内科診療所の収益の安定的な基盤を成していた。糖尿病、脂質異常症、高血圧という3疾患は、内科の定期通院患者の中核を占める。これらが対象から除外されたということは、従来の診療を継続する限り収益が減少することを意味する。改定直後、多くの内科医が生活習慣病管理料への移行を検討したが、その算定要件である療養計画書の作成は、明らかに従来の診療フローに存在しない工程であった。ここに、制度設計者の意図が現れている。すなわち、収益を維持したければ診療の内容を変えよ、という要求である。診療報酬とは価格表であると同時に、政策的な誘導装置でもある。

2024年の改定時、C院長の最初の反応は多くの内科医と同様、収益の減少への懸念であった。生活習慣病管理料(II)の算定には療養計画書の作成と患者の署名が必要であり、その事務負担は決して小さくない。C院長は当初、この工程を「算定のための書類仕事」と認識していた。実際、改定直後の数か月間、療養計画書は看護師が定型文をもとに作成し、患者に署名を求めるという運用であった。当然ながら、患者の行動には何の変化も生じなかった。

C院長がこの運用に疑問を持ったのは、2025年春の特定健診の結果を集計した際である。同院で継続的に管理している高血圧患者のうち、降圧目標を達成している割合が62%であった。この数値は全国的な水準と比較して特段低いわけではないが、C院長は15年間にわたって同じ患者を診続けながら、4割近くが目標に達していないという事実に向き合うこととなった。

ここでC院長が着目したのは、療養計画書という制度上の要求が、実は診療の構造的な欠落を突いていたのではないかという可能性である。同院の従来の診療は、月1回の診察において血圧値を確認し、必要に応じて薬剤を調整するというものであった。生活習慣に関する指導は「塩分を控えてください」「運動をしてください」という一般論に留まっていた。患者は指導を受けたことを認識しているが、具体的に何をどう変えるかについては、患者自身の解釈に委ねられていた。

この気づきに至る過程で、C院長は自院の診療の前提を問い直すこととなった。すなわち、生活習慣病の管理において、医師が処方を調整することの寄与度はどの程度なのかという問いである。降圧薬の選択と用量調整は医師の専門性の核心であり、その意義を否定するものではない。しかし、患者の血圧を規定する要因には、食塩摂取量、体重、運動習慣、飲酒量、睡眠、そしてストレスが含まれる。これらのうち、月1回3分の診察で医師が影響を与えられる範囲は限定的である。C院長は15年間、自らの専門性が及ぶ領域のみを丹念に管理し、それ以外の領域を患者の自助努力に委ねてきたことになる。療養計画書という制度上の要求は、この委任の構造を可視化したのである。

C院長は2025年度から、療養計画書の作成プロセスを診療の中核に位置づける再設計を行った。第一に、計画書の目標設定を患者との対話によって行うこととした。定型文の使用を廃止し、「次の3か月で何を変えられるか」を患者自身に言語化させる。第二に、非常勤の管理栄養士の勤務日を月2日から月4日に増やし、新規に生活習慣病管理料を算定する患者については、初回に必ず栄養指導を組み込んだ。第三に、看護師が診察前に前回の計画書の達成状況を確認し、その情報を診察に持ち込む工程を設けた。

この再設計には相応の負荷が伴った。1人あたりの診察時間は延長し、外来の回転率は一時的に低下した。管理栄養士の人件費も増加した。C院長は半年間、この投資が報われるか確信を持てなかったという。

2026年春の集計において、降圧目標の達成率は71%に改善した。9ポイントの上昇である。より注目すべきは、患者の通院継続率の変化であった。従来、同院では年間で約8%の定期通院患者が受診を中断していたが、2025年度はこれが5%に低下した。この3ポイントの差は、患者数400名に対して年間12名の維持に相当する。生活習慣病管理料の算定患者1名あたりの年間医業収入を概算すれば、この12名の維持による増収は、管理栄養士の増員コストを上回った。

対話による目標設定という手法について、その実務上の困難にも触れておきたい。「次の3か月で何を変えられるか」という問いに、患者が即座に答えられるとは限らない。多くの患者は「頑張ります」という抽象的な返答をする。C院長がこの局面で用いたのは、選択肢を提示したうえで患者に選ばせるという方法である。味噌汁を1日1杯に減らす、週2回30分歩く、休肝日を週2日設ける、といった具体的な行動を3つ程度示し、そのうち実行できそうなものを患者自身に選択させる。この方法の要点は、選択という行為が患者の主体性を喚起する点にある。医師が指示した行動と、患者が選んだ行動とでは、実行率が明確に異なる。行動経済学の知見が示すところであるが、臨床の現場では経験的に知られてきたことでもある。

この事例から導かれる示唆は複数ある。第一に、診療報酬改定は多くの場合、政策的な意図を持って設計されており、その意図に沿った診療モデルを構築した診療所が結果として報酬面でも有利になるという構造である。生活習慣病管理料が療養計画書と患者の署名を要求するのは、患者の主体的な参加を診療に組み込ませるためである。この意図を理解せず、署名を得るだけの作業として処理すれば、事務負担のみが増加し、便益は生じない。

この結果を、C院長は慎重に解釈している。降圧目標の達成率が9ポイント改善した要因が、療養計画書を中核に据えた診療の再設計であると断定するには、対照群が存在しない。同期間に薬剤の選択肢が広がったこと、患者の健康意識が全般的に高まったことなど、他の要因も否定できない。因果関係の主張には限界がある。しかし、経営判断において要求される確からしさは、臨床研究におけるそれとは異なる。院長が知りたいのは「この施策を継続すべきか」であり、その判断には、施策の前後で指標が改善し、その改善を説明する合理的な機序が存在すれば足りる。過度な厳密性の要求は、意思決定の遅延をもたらすだけである。

第二に、患者サービスの向上と収益の向上が対立するとは限らないという点である。C院長の事例では、患者の行動変容を促す診療が通院継続率を高め、それが収益の安定につながった。診療所経営において、新規患者の獲得コストは既存患者の維持コストを大きく上回る。定期通院患者の維持は、最も効率的な経営戦略である。

第三に、人的資源の配置に関する示唆である。C院長は管理栄養士の勤務日を倍増させたが、これは単なる人件費の増加ではなく、医師の診療時間を代替する投資であった。生活習慣の指導を医師が行えば、その時間は診察時間を圧迫する。管理栄養士が担えば、専門性の高い指導を、医師より低い時間単価で提供できる。タスクシフティングの本質は、業務を「押し付ける」ことではなく、各職種の専門性と時間単価に応じて業務を最適配分することにある。

なお、この事例における留意点も述べておきたい。C院長の同院は開設15年を経て、患者との信頼関係が構築されていた。そのため、診療スタイルの変更に対する患者の受容度が高かった。開業間もない診療所や、患者の入れ替わりが激しい立地の診療所では、同様の手法が同じ効果を生むとは限らない。制度への対応は、自院の患者層と診療の歴史を踏まえて設計されるべきである。

2026年度改定においても、医療の質と成果に対する評価の強化という方向性は継続している。今後、この傾向はさらに強まると予想される。診療報酬を「所与の条件」として受け止め、その中で算定を最大化する発想には限界がある。制度が何を評価しようとしているかを読み取り、自院の診療をその方向に整合させることが、中長期的な経営の安定をもたらす。改定への対応とは、算定要件の確認作業ではなく、診療モデルの設計行為である。

最後に、この再設計が院内の職種間関係に及ぼした影響について述べておきたい。C院長の同院において、管理栄養士は長らく「必要があれば呼ぶ」存在であった。勤務日は月2日、その日に栄養指導の予約が入っていなければ、実質的な業務は乏しかった。生活習慣病管理料を中核に据えた診療モデルにおいて、管理栄養士は診療の構成要素となった。この変化は、当該管理栄養士の職務満足度を高めただけでなく、看護師の役割にも波及した。計画書の達成状況を確認する工程を担う看護師は、患者との対話の中で生活上の障壁を把握し、それを医師と管理栄養士に伝達する結節点となった。組織における職務の意味は、その職務が全体のプロセスのどこに位置づけられるかによって規定される。診療モデルの再設計とは、各職種の職務の意味を再定義する行為でもある。

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