Vol.1218 患者はもう検索していない ―AIが要約する時代のクリニックの情報発信―

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Vol.1218 患者はもう検索していない ―AIが要約する時代のクリニックの情報発信―

患者が医療機関を選ぶ際の情報収集の方法が、この2年ほどで大きく変わった。従来は検索エンジンに症状や地域名を入力し、表示された複数のサイトを自ら比較していた。現在は、生成AIに質問を投げ、要約された回答を受け取る行動が広がっている。回答の中に自院の名前が含まれるか否かが、検討の候補に入るか否かを決める。検索結果の何番目に表示されるかを競っていた時代とは、前提が変わったといってよい。本稿では、この変化がクリニックの情報発信に何を求めているかを検討する。

・「表示される」から「引用される」へ

生成AIによる回答は、複数の情報源を統合して生成される。したがって、自院の情報がAIの回答に反映されるためには、AIが参照する情報の中に自院の情報が存在し、かつ信頼できる情報として扱われる必要がある。ここで評価されるのは、広告費の多寡ではなく、情報の一次性と一貫性である。

具体的には、自院の公式サイトに、診療内容、対応可能な疾患、検査や処置の体制、医師の経歴と専門領域が、具体的な記述として存在しているかどうかが問われる。「丁寧に診察します」「地域に密着した医療を提供します」といった記述は、どの医療機関のサイトにも存在するため、識別の材料にならない。他方、「睡眠時無呼吸症候群に対して簡易検査と精密検査の双方に対応し、CPAP療法の導入と継続管理を行っている」という記述は、具体的な問いに対する答えとなり得る。

情報の一貫性も重要である。公式サイトと医療機関検索サイト、地図サービス上の登録情報で、診療時間や標榜科目が食い違っている医療機関は少なくない。人間であれば「どれかが古いのだろう」と判断できるが、機械的に情報を統合する場合、矛盾は信頼性の低下として扱われる。移転や診療時間の変更を行った際に、公式サイト以外の登録先を更新していない医療機関は、この点を確認する価値がある。

・ 医療広告ガイドラインという前提を外さない

情報発信を強化する際に必ず確認すべきなのが、医療広告ガイドラインの制約である。医療機関のウェブサイトは広告としての規制対象であり、治療内容や効果に関する患者の体験談の掲載、治療前後の写真の無条件の掲載、他院との比較優良広告、誇大広告は禁止されている。集患を意識するあまり規制に抵触すれば、行政指導の対象となるだけでなく、医療機関としての信頼を損なう。

とりわけ注意を要するのが皮膚科および形成外科である。保険診療と自由診療の双方を扱う場合、自由診療に関しては費用、リスク、副作用、標準的な治療期間の明示が求められる。この記載を省いた治療前後の写真の掲載は、規制上の典型的な問題例である。制約の中で発信を行うという前提に立てば、体験談に依存しない、医学的な説明の厚みで信頼を得る方向に進むほかない。そしてその方向は、AIに引用される条件とも一致している。

## 診療科ごとに問われる情報が異なる

循環器内科および呼吸器内科では、実施可能な検査の範囲が最も重要な情報となる。心電図、心エコー、ホルター心電図、呼吸機能検査のどこまでを院内で完結できるか、精査が必要な場合にどの医療機関と連携しているかを具体的に記載することが、受診の判断材料となる。

耳鼻咽喉科で日帰り手術を実施している場合、対象となる術式、麻酔の方法、当日の流れ、術後の通院回数といった情報が求められる。手術を検討する患者は、複数の医療機関の情報を詳細に比較するため、情報量の差がそのまま選択に反映されやすい領域である。

小児科では、保護者が知りたい情報は診療内容そのものよりも、予防接種のスケジュール、感染症流行時の受診方法、待合の分離の有無といった運用面に集中する。整形外科では、リハビリテーションの実施体制、担当する療法士の人数、実施可能な時間帯が問われる。消化器内科であれば、内視鏡検査の鎮静の有無と前処置の方法が最大の関心事となる。いずれも、医師にとっては当然の内容であるがゆえに、記載が省略されがちな情報である。

・ 口コミにどう向き合うか

地図サービス上の評価は、依然として来院の判断に影響を与える。ただし、評価の星の数だけで判断されるわけではない。低い評価が付いた投稿に対して、医療機関がどのような姿勢で対応しているかを読む患者は多い。

対応にあたっては、守秘義務が制約となる。投稿者が患者であるか否かを含め、診療の事実に触れる返信は行うべきでない。事実関係の反論に踏み込めば、患者の受診事実を公表することになりかねない。現実的な対応は、個別の内容に触れず、指摘された運用上の課題について改善の姿勢を示す簡潔な返信にとどめることである。待ち時間や電話の繋がりにくさに関する指摘は、実際に運用上の改善余地を示していることが多く、投稿を苦情ではなく情報として扱う姿勢が、結果として評価を改善させる。

・ 最後の工程で取りこぼす

情報発信によって関心を持った患者が、実際に受診に至るまでには、予約と来院という工程が残っている。この最終工程の設計が不十分なために、獲得した関心を取りこぼしている医療機関は多い。

典型的なのが電話対応である。診療時間中に受付が電話を取れず、呼出音が長く続いた末に切られるという事態は、外来が混雑する診療所ほど生じやすい。着信の記録を確認すれば、応答できなかった件数は把握できる。耳鼻咽喉科の診療所で1か月分の着信を集計したところ、繁忙な時間帯に応答できなかった件数が想定を大きく上回っていた例がある。この診療所では、予約と一般的な問合せをウェブ上で完結できるようにし、電話は緊急性の高い用件に絞る運用へ移行した。

ウェブ予約についても、導入していることと使えることは別である。初診の患者が予約に到達するまでに何回の操作を要するか、症状の選択肢が患者の言葉で書かれているか、予約枠が実態に合っているかを、院長自身が患者の立場で操作して確認する価値がある。整形外科でリハビリテーションの予約枠と診察の予約枠が分離されておらず、患者が判断できないまま誤った枠を選択し、来院後に待機時間が発生していた例もある。

・ 費用をどこに配ぶんするか

情報発信に関する費用の配分についても整理が必要である。ポータルサイトへの有料掲載は、掲載を続けている限り一定の流入をもたらすが、掲載を止めれば効果は消える。他方、自院のサイトに蓄積した記述は、費用の支払いを止めても残り続ける。前者は賃料、後者は資産と考えれば、配分の判断はしやすい。両者は対立するものではなく、掲載情報が充実していることが自院サイトの信頼性の裏付けとして働く面もある。

制作を外部に委託する場合、更新のたびに費用と時間が発生する構造は避けたい。診療時間の変更や医師の追加といった基本的な情報を院内で更新できる仕組みにしておかなければ、情報は必ず古くなる。古い情報が残っているサイトは、患者にとっても、情報を統合する仕組みにとっても、信頼性を下げる要因となる。

・ 誰が書くかで内容が変わる

情報発信を外部の制作会社に一任している医療機関では、記載される内容が一般的な疾患の説明にとどまりやすい。どの医療機関のサイトにも書かれている内容は、患者にとっても情報を統合する仕組みにとっても、判断の材料とならない。

差が出るのは、自院でしか書けない情報である。どのような症状の患者が実際に多く来院しているか、その地域に特有の傾向があるか、検査の結果をどう説明しているか、他院へ紹介する判断をどの時点で行っているか。これらは診療を行っている医師にしか記述できない。院長が全ての文章を執筆する必要はないが、内容の骨子は院長が示さなければ、記述は一般論に収束する。

看護師や事務職員の視点も有用である。来院前によく寄せられる質問、患者が誤解しやすい手続、初めて来院する患者が迷いやすい院内の動線といった情報は、現場でなければ把握できない。よくある質問として整理して掲載すれば、患者の不安を減らすと同時に、問合せ対応の時間も削減できる。発信を院長個人の作業とせず、院内の情報を集める仕組みとして設計することが、継続の条件となる。

・ 発信の効果をどう測るか

情報発信に投じた費用と時間の効果を測る指標として、最も実用的なのは新患の流入経路である。初診時の問診票に、来院のきっかけを尋ねる項目を設けるだけで、紹介、地図検索、公式サイト、看板、家族や知人からの勧めの構成比が把握できる。この構成比を四半期ごとに追えば、どの経路が機能しているかが見える。

もう1つの指標が、医療機関名による検索の件数である。症状や地域名で検索されて発見される段階から、名指しで検索される段階へ移行しているかどうかは、認知が定着したかどうかを示す。AIによる要約が普及するほど、最終的な確認は公式サイトで行われるため、指名による到達の重要性はむしろ高まる。

・情報発信は経営の一部である

大阪府内のある皮膚科診療所では、院長が月に2本、湿疹や真菌症といった一般的な疾患について、自院での診療の考え方を含めた解説を公式サイトに掲載する運用を1年続けた。専門誌の論文ではなく、外来で実際に説明している内容を文章にしたものである。1年後、公式サイト経由の新患は増加し、加えて「ホームページを読んで来た」と話す患者の初診時の説明時間が短縮されるという効果が生じた。情報発信は集患の手段であると同時に、診療の前提を共有する手段でもある。

技術の変化は速く、対策の手法も数年で陳腐化する。しかし、自院が何をどこまで行っているかを正確に、具体的に、継続して記述するという営みは、検索の仕組みが変わっても価値を失わない。手法を追いかけるのではなく、記述の質を積み上げることが、結局のところ最も費用対効果の高い投資となる。
 

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