Clinic Diary
クリニック奮闘記
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クリニック奮闘記
2026年3月30日、厚生労働省は医療広告ガイドラインを改正した。今回の改正は、ガイドライン本体、質疑応答集、そして医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書の3文書が同時に更新されるという規模のものであり、事例解説書は第6版となった。背景には、令和7年法律第87号によってオンライン診療が法制上正式に位置づけられたことがあり、ガイドライン本体にはオンライン診療を受診する施設に関する広告についての規定が新設されている。加えて、SNSや動画を用いた広告に関する事例が大幅に追加された。
改正から半年近くが経過したが、自院のウェブサイトやSNSを点検した院長はどれほどいるだろうか。旧版に基づいて作成した内容が、改正後の基準に照らして違反となる例は少なくない。医療広告規制は、他の業種の広告規制と比べて厳格であり、医療という役務の性質上それは当然でもある。しかし厳格であるがゆえに、知らないうちに抵触しているという事態が起きやすい。
### 体験談をめぐる規制の広がり
改正の焦点の1つが、体験談の取扱いである。医療法第6条の5第2項第4号および医療法施行規則第1条の9第1号により、治療等の内容または効果に関する体験談を広告することは禁じられている。個人によって感想が異なるため、閲覧者に誤解を与えるおそれがあるという趣旨である。
第6版で明確にされたのは、自院が直接に体験談を掲載する場合だけでなく、他者の投稿を引用する形で体験談を紹介する場合も違反にあたるという点である。たとえば、クリニックの公式アカウントが投稿を行い、その下に付いた利用者のコメントを引用して見せる形式は、違反例として整理されている。動画についても同様であり、患者がリスクや副作用について語っている内容も体験談とみなされる。また、投稿の内容と関係のないハッシュタグを付ける行為も、違反例として挙げられている。
一方で、規制の対象外となる領域も明確にされている。外部の事業者が運営するプラットフォームに患者が自発的に投稿した口コミは、医療機関の広告ではないため規制対象外である。ただし、医療機関が依頼し、編集し、あるいは対価を提供して書かせた場合には、実質的に医療機関の広告と評価され、違反となる。この線引きは実務上きわめて重要である。謝礼と引き換えに投稿を依頼する行為は、規制の趣旨に真正面から反する。
「良い評判」は作るものではなく残るもの
ここで、集患の考え方そのものを見直す必要がある。地図アプリや検索サービスに表示される評価と口コミは、患者が受診先を選ぶ際の判断材料として定着した。院長としては、その評価を高めたいと考えるのが自然である。しかし、規制の構造が示しているのは、評価は操作の対象ではなく、診療の結果として残るものだという原則である。
ある消化器内科クリニックでは、内視鏡検査の受検者に対して、検査前の説明と検査後のフォローの質を上げることに注力した。前処置の方法を紙面と動画で丁寧に案内し、検査当日の所要時間の見通しを事前に伝え、結果説明の日程を検査時に確定させる。特別なことは何もしていないが、患者にとって不確実性が減れば体験の質は上がる。結果として、自発的に投稿される内容の傾向が変わった。依頼も謝礼もなく、規制に抵触する余地もない。
反対に、注意すべき行為もある。否定的な口コミに対して、医療機関が投稿者を特定できるような形で返信することは、守秘義務と個人情報保護の観点から重大な問題を生じうる。「当院ではそのような処置は行っておりません」という一文であっても、その人物が患者であったことを事実上認めることになりかねない。返信するのであれば、個別の診療内容には一切触れず、一般的な案内にとどめるべきである。
広告可能事項と限定解除の構造
医療広告規制の基本構造は、広告できる事項が法令によって限定列挙されているという点にある。診療科名、医師の氏名と保有する専門医資格、診療日時、届け出た施設基準、対応可能な疾患や治療内容といった項目が、広告可能事項として定められている。これに該当しない内容は、原則として広告できない。
もっとも、患者が自ら検索して閲覧するウェブサイト等については、一定の要件を満たす場合に、この限定が解除される。要件は、患者が自ら求めて情報を入手できる媒体であること、問い合わせ先を明記すること、自由診療については通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項、および主なリスクや副作用等の情報を記載することである。この限定解除の仕組みを正しく理解していないために、記載すべき情報を欠いたまま発信している例が散見される。
第6版では、SNSや動画における限定解除の扱いが具体化された。自由診療の内容を発信する場合、限定解除に必要な情報を、1つの投稿または動画とその概要欄の中で完結させる必要があるとされている。複数の投稿に分散させたり、別のページへのリンクで代替したりする方法では、要件を満たさないと整理されている。断片的に発信されるSNSの性質を踏まえた考え方であり、運用面での影響は大きい。
なお、広告規制と、医療法施行規則に基づく院内掲示およびウェブサイトへの掲示の義務とは、適用される条文が異なる別の制度である。両者を混同すると、対応の担当者も確認の手順も曖昧になる。自院のウェブサイトにおいて、広告として発信している部分と、掲示義務を果たすために掲載している部分とを、意識的に分けて管理することを勧めたい。
検索行動の変化をどう捉えるか
規制の話とは別に、患者が医療機関を探す方法そのものが変化している。地図アプリでの検索、生成AIによる要約、比較サイトの表示。以前のように、検索結果の上位に自院のウェブサイトが表示されれば来院につながるという単純な構図ではなくなった。
この変化に対して、医療機関が取るべき姿勢は明快である。すなわち、正確で構造化された事実情報を、自院の公式なウェブサイトに整えて掲載することである。診療科目、診療時間、休診日、住所、電話番号、予約方法、駐車場、対応可能な検査、在籍する医師の資格。これらの情報が正確に整理されていれば、どのような仕組みで情報が集約されようとも、その元になる情報は自院が発信したものとなる。反対に、公式サイトの情報が古いまま放置されていれば、誤った情報が拡散する。診療時間を変更したのに更新していない、という事態は驚くほど多く見られる。
小児科クリニックの例を挙げる。予防接種の受付時間や、感染症流行期の隔離動線について、公式サイトに詳しく記載したところ、電話での問い合わせが減少した。保護者は受診前に不安を解消したいと考えており、その情報が公式に提供されていれば、そこを読む。問い合わせ対応に費やしていた職員の時間が診療の補助に回るという副次的な効果も生じた。情報の整備は、集患の手段であると同時に、業務効率の手段でもある。
点検をどう進めるか
自院の広告物を点検する際の手順を整理しておきたい。まず、対象を洗い出す。公式ウェブサイト、ブログ、SNSの各アカウント、動画、看板、チラシ、そして外部の医療機関検索サイトに掲載している情報。外部サイトへの掲載内容は、掲載時のまま更新されず、忘れられていることが多い。
次に、体験談に該当する記述、効果や安全性を保証する表現、他院との比較や最上級表現、期間限定の割引に関する記載を洗い出す。「最高」「日本初」「必ず治る」といった語は判別しやすいが、注意を要するのは、患者の声を紹介する形式の記述である。「多くの患者様から喜びの声をいただいています」という一文であっても、内容によっては体験談の広告に該当しうる。
最後に、自由診療のメニューについて、費用、期間、回数、リスク、副作用の記載が揃っているかを確認する。形成外科を併設する皮膚科において、保険適用外の処置を扱っている場合は、この点検が必須である。
医療広告ネットパトロールを経由した通報が自治体に届き、自治体から指導が入るという流れは既に定着している。指導を受けてから慌てて修正するよりも、能動的に点検するほうが、費やす労力ははるかに少ない。
診療科ごとの実務上の留意点
形成外科を併設する皮膚科では、粉瘤や瘢痕の治療について、術前術後の写真を掲載したいという要望が生じやすい。写真の掲載自体が直ちに禁止されるわけではないが、術前術後の比較写真については、通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項、主なリスクや副作用等の情報を併記することが求められる。加えて、美容を目的とする自由診療の広告については、限定解除の要件を1つの投稿または動画とその概要欄の中で完結させる必要があるとされており、要件を満たさないまま断片的に発信することは避けなければならない。
整形外科では、特定の治療法や機器について「最先端」「日本初」といった最上級表現を用いたくなる場面がある。これらは比較優良広告として禁止される類型である。同様に、「必ず」「絶対」「100パーセント」といった効果や安全性を保証する表現も認められない。事実として保有する施設基準や、届け出た診療科名、医師の専門医資格など、広告可能事項として認められた内容を正確に記載することが、結果として最も説得力を持つ。
呼吸器内科や循環器内科のように、慢性疾患の継続管理を主とする診療科では、そもそも派手な広告表現を必要としない。患者が知りたいのは、診療日時、予約の可否、駐車場の有無、専門医の在籍、連携する基幹病院の名称といった事実情報である。これらを正確かつ見つけやすく掲載することは、規制に抵触しないばかりか、検索を通じて自院にたどり着いた患者にとって最も有用な情報でもある。
医療広告ネットパトロールを経由した通報が自治体に届き、自治体から指導が入るという流れは既に定着している。改正から時間が経つほど、旧版のまま放置しているリスクは高まる。自院のウェブサイトとSNSを一度棚卸しし、掲載内容を広告可能事項に照らして確認する作業は、遅くとも年内に済ませておきたい。