Vol.1234 開業できる場所が選べなくなる ― 外来医師過多区域の事前届出制とクリニックの機能設計

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Vol.1234 開業できる場所が選べなくなる ― 外来医師過多区域の事前届出制とクリニックの機能設計

医療法等の改正に伴い、2026年4月1日以降、外来医師過多区域において無床のクリニックを新規に開設する場合、開設の6か月前までに届出を行うことが必要となった。届出には提供予定の医療機能を記載し、都道府県がその内容を確認する。地域で不足している医療機能がある場合、都道府県は当該クリニックに対してその機能の提供を要請することができる。

要請に従わない場合の措置も定められている。都道府県知事による勧告および公表に加え、保険医療機関の指定期間が通常の6年から3年に短縮される。さらに、指定期間が制限されたクリニックにおいては、地域包括診療料および地域包括診療加算、機能強化加算などが算定できなくなる。診療報酬上の取り扱いにおいても不利益が生じる構造である。

この改正が意味するところは、開業立地の選定という意思決定の性質が変わったということである。本稿では、開業を検討している医師、および分院展開を構想している院長の視点から、この変化をどう事業計画に織り込むべきかを検討する。

集患計算だけで立地を決められなくなった

従来、開業地の選定は基本的に需要の推計によって行われてきた。診療圏人口、年齢構成、競合となる医療機関の数と診療内容、駅からの距離と人の流れ、視認性、駐車場の確保。これらを積み上げて1日当たりの予想患者数を算出し、そこから収支計画を組み立てるという手順である。

この手法自体が誤っているわけではない。問題は、この計算によって高い評価が得られる立地ほど、外来医師過多区域に該当する可能性が高いという点にある。人口が集積し、交通の便がよく、需要が見込める地域には、すでに医療機関が集まっている。外来医師偏在指標が高い地域とは、まさにそのような地域を指す。

つまり、集患の観点から最も魅力的に見える候補地こそが、届出と機能要請の対象となりやすい。開業を志す医師が最初に検討する立地が、そのまま最も制約の強い立地であるという構造は、認識しておく必要がある。

内科での開業を例に考えたい。大阪市内の私鉄沿線、駅から徒歩3分、周辺にはマンションが増加しており、調剤薬局も隣接して出店予定という物件があったとする。従来であれば有力な候補である。しかし当該区域が外来医師過多区域に該当していれば、6か月前の届出が必要となり、その際に提供予定の医療機能を明示しなければならない。一般内科の外来のみという内容であれば、都道府県から不足機能の提供を要請される可能性がある。

6か月という期間が事業計画に及ぼす影響

事業計画上、より直接的な影響を及ぼすのは6か月前という届出時期である。

クリニックの開業準備は、物件の選定、資金調達、設計と内装工事、医療機器の選定と発注、人材の募集と採用、各種届出という工程で進む。このうち物件については、賃貸借契約を締結した時点から賃料の支払いが始まるのが通例であり、フリーレント期間が設定されていても数か月にとどまることが多い。

ここに6か月前の届出という要件が加わると、逆算のスケジュールが変わる。届出の内容を確定させるためには、提供する医療機能を決めていなければならず、そのためには物件と規模が固まっている必要がある。結果として、物件の確保から開業までの期間が従来より長くなり、その分だけ収入のない期間の賃料負担が増える。

仮に賃料が月額40万円の物件で、開業までの期間が3か月延びれば、120万円の追加負担が生じる。これに人件費の前倒し発生が加われば、開業時の運転資金は当初想定より厚く見積もる必要がある。金融機関との融資交渉においても、この期間の資金需要を織り込んだ計画を示さなければならない。

さらに、届出に対して都道府県から機能提供の要請があった場合、その内容を検討し対応を決める時間も必要になる。要請に応じるのであれば、必要な設備や人員の追加が生じる可能性があり、投資計画の見直しにつながる。この不確実性を織り込まずにスケジュールを組むと、開業日の後ろ倒しという事態を招きかねない。

求められる機能を先に設計するという発想

一方で、この制度を制約としてのみ捉えるのは適切でないと考える。

都道府県が不足していると判断する医療機能とは、具体的には在宅医療、初期救急、公衆衛生に関する分野が想定される。夜間や休日の対応、予防接種や健康診断の実施、学校医や産業医としての活動などがこれに含まれる。これらはいずれも、地域における医療需要が存在しながら、供給が追いついていない領域である。

見方を変えれば、これは地域内で競合が少ない領域を、行政が明示してくれているということでもある。外来医師過多区域において一般外来のみで開業すれば、既存の医療機関との直接的な競合は避けられない。開業から数年をかけて患者を獲得していくという道筋は、以前より険しくなっている。それに対して、地域で不足する機能を担うことを開業当初から事業の柱に据えれば、競合の少ない領域で存在意義を確立できる。

整形外科での開業を例に考えたい。外来医師過多区域における整形外科の新規開業は、既存のクリニックとの競合が避けられない。しかし、地域に高齢者施設が複数あり、そこへの訪問診療やリハビリテーションの提供体制が不足しているとすれば、状況は変わる。運動器リハビリテーションを施設入居者に提供する体制を整えることは、地域の需要に応えると同時に、外来のみに依存しない収益構造をつくることでもある。

同様に、耳鼻咽喉科において日帰り手術の体制を整えることも、機能の明示という観点から意味を持つ。周辺のクリニックが外来診療のみを行っている地域において、鼓膜チューブ留置術などを外来で実施できる体制は、地域における明確な機能分担となる。届出において提供予定の医療機能として記載できる内容であり、同時に紹介による患者獲得の基盤にもなる。

診療報酬上の取り扱いとの連動を見落とさない

事業計画上、とくに注意を要するのが、保険医療機関の指定期間が3年に短縮された場合の診療報酬への影響である。

地域包括診療料および地域包括診療加算、機能強化加算は、いずれもかかりつけ医機能を評価する点数である。慢性疾患を継続的に管理する内科系のクリニックにとって、これらが算定できないという状況は、収益計画の前提を崩す。1人当たりの単価に直接影響する項目であり、患者数の予測が正しくても収入が計画に届かないという事態を招く。

令和8年度診療報酬改定においては、かかりつけ医機能の強化が柱の1つとされ、機能強化加算の要件も見直されている。制度全体として、地域で求められる機能を担う医療機関を評価するという方向が明確になっている。開設時の届出における機能の記載と、開業後の診療報酬の算定とは、別々の制度でありながら同じ方向を向いている。

したがって、届出の内容を形式的に整えるという発想では不十分である。記載した機能を実際に提供する体制を整え、それを診療報酬上の評価にも結びつけるという一貫した設計が求められる。

制約ではなく設計条件として

新規開業を検討する医師にとって、この制度は歓迎されるものではないだろう。開業の自由が制限されているという受け止め方も理解できる。実際、勤務医として長年の経験を積み、自らの理想とする診療を実現しようとする段階で、行政から機能の提供を要請されることに違和感を覚えるのは自然な反応である。

しかし、医療機関の配置が地域偏在という課題を抱えていること、そして限られた医療資源をどう配分するかという問題が現実に存在することもまた事実である。制度の是非を論じることと、その制度のもとで自院をどう設計するかを考えることは、別の作業である。

開業を検討している医師に申し上げたいのは、候補地が外来医師過多区域に該当するかどうかを、物件を探し始める前に確認すべきだということである。都道府県が公表する情報によって確認できる事項であり、この確認を後回しにすると、物件の選定をやり直すことになりかねない。そして該当する場合には、自らが提供できる機能のうち、地域で不足しているものは何かという問いを、事業計画の中心に据えることである。

集患の計算から始める開業計画は、これまで有効であった。これからは、地域における自院の役割を定義することから始める計画が求められる。順序が変わったのであって、経営の要諦が変わったわけではない。

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