Vol.1238 自院の機能が公表される時代に ― かかりつけ医機能報告制度と診療所の位置取り

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Vol.1238 自院の機能が公表される時代に ― かかりつけ医機能報告制度と診療所の位置取り

2025年4月に施行されたかかりつけ医機能報告制度は、2026年に入って実質的な稼働段階に移行した。制度の運用サイクルは、1月から3月にかけて医療機関が報告を行い、4月から6月に都道府県が内容を確認して公表し、7月から9月に地域の協議の場で議論を行うという流れで設計されている。すなわち、初回報告を終えた診療所にとって、この9月はまさに協議の段階にあたる。

 

報告そのものは、G-MISを通じたオンライン提出であり、事務作業としてはさほど重いものではない。しかし、この制度が診療所経営に及ぼす影響は、報告作業の負担で測るべきものではない。本稿では、自院の機能が第三者に公表されるという事態が、クリニックの経営にとって何を意味するのかを検討する。

 

報告制度ではなく、公表制度である 

かかりつけ医機能報告制度という名称からは、行政への届出義務という印象を受けやすい。しかし制度の要点は報告の先にある。報告された内容は都道府県によって確認され、医療情報ネットを通じて一般に公表される。患者は、自宅の近隣にある診療所が、休日や夜間にどこまで対応しているのか、在宅医療を提供しているのか、介護分野との連携体制を持っているのかを、居ながらにして比較できるようになる。 

これまで、患者が診療所を選ぶ際に参照できた情報は限られていた。自院のホームページ、口コミサイトの評価、知人からの評判といったものである。いずれも各医療機関が自ら発信するか、あるいは断片的な体験に基づくものであり、比較可能な共通の項目に沿って整理されてはいなかった。かかりつけ医機能報告は、全国の診療所について、同一の項目で、行政が確認した情報を並べる。この点において、従来の情報環境とは質的に異なる。

制度上、報告の枠組みは、日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能と、それを前提として時間外の対応、入退院時の支援、在宅医療の提供、介護サービス等との連携といった機能を担うかどうか、という二層構造で整理されている。院長がどれだけ地域医療に尽力していても、報告の項目に沿って表現されなければ、公表される情報には反映されない。逆に、報告の項目に沿って自院の実態を丁寧に記述すれば、これまで患者に伝わりにくかった機能が可視化される。

 

報告、掲示、請求の3点が食い違っていないか 

経営上、最も注意を要するのは、報告した内容、院内に掲示している内容、そして診療報酬請求において届け出ている内容の3つが整合しているかどうかである。 

たとえば、機能強化加算や地域包括診療料といった、かかりつけ医としての機能を評価する診療報酬の項目には、それぞれ体制に関する要件が定められている。これらを算定している以上、自院は一定の体制を有していると保険医療機関として表明していることになる。他方で、かかりつけ医機能報告において該当する機能を報告していなければ、その両者は矛盾する。逆に、報告では幅広い機能を担うと記載しながら、院内掲示にはその旨の記載がなく、患者に説明もしていないという状態も、整合しているとは言えない。 

令和8年度診療報酬改定において、かかりつけ医としての機能に関する評価が実績や連携体制の側から見直されたことを踏まえれば、今後、報告された内容と診療報酬上の届出との突合が意識される場面は増えると考えるのが自然である。制度が始まったばかりの現在は、3点を照合し、齟齬があれば整えるための猶予期間として位置づけられる。院長が確認すべきは報告書の写しと、院内掲示物と、施設基準の届出控えを机上に並べて読み比べることであり、所要時間は1時間に満たない。

 

専門特化型の診療所にとっての意味 

内科系の診療所にとって、この制度が自院の説明に資することは理解しやすい。循環器内科や消化器内科であれば、慢性疾患の継続的な管理という機能は日常業務そのものであり、それを報告項目に沿って記述することに違和感はない。問題は、皮フ科、整形外科、耳鼻咽喉科といった専門特化型の診療所である。これらの診療所は、日常的な診療を総合的に行う機能という枠組みに、必ずしも当てはまらない。ここで生じやすい誤解は、当てはまらないのだから報告しても意味がない、あるいは幅広い機能を持つと記載しなければ患者に選ばれなくなる、という二種類の反応である。

いずれも適切ではない。地域の医療提供体制は、総合的に診る診療所だけで構成されるものではない。専門領域について高い水準の医療を提供する診療所があり、そこへ紹介する経路が確保されているからこそ、総合的に診る診療所が機能する。日帰り手術を実施している耳鼻咽喉科であれば、その手術体制こそが地域における自院の役割であり、皮フ科であれば形成外科領域を含めた処置能力がそれにあたる。整形外科であれば、運動器リハビリテーションの提供体制が該当する。

したがって専門特化型の診療所が取るべき姿勢は、担っていない機能を無理に取り繕うことではなく、自院が地域で担っている役割を正確に記述し、他の医療機関との連携の実態を明示することである。公表される情報が比較可能になるということは、総合性で比較されるということではなく、それぞれの機能で比較されるということでもある。曖昧に幅広さを主張する診療所より、専門性の輪郭が明確な診療所のほうが、紹介元となる医療機関からは選ばれやすい。

 

協議の場で何が議論されるのか 

報告された情報は、地域の協議の場において集計・分析され、その地域で不足している機能が明らかにされる。この協議には、都道府県、地域の医師会、介護関係者、行政などが参加する。本格的な議論は2026年度から動き始めており、地域によって進度の差はあるものの、今後は毎年の恒常的なサイクルとして定着していくと見込まれる。 

ここで診療所経営にとって重要なのは、不足している機能が特定されるということは、その機能を担う医療機関に対する政策的な支援や誘導が生じうるということである。実際、在宅医療の提供体制や、医師の偏在への対応については、補助や支援の枠組みが年々整備されている。地域で何が不足しているかを早い段階で把握できる立場にいることは、自院の中期的な機能設計において有利に働く。地域の医師会が参加する協議の場からの情報を、単なる行政の動きとしてではなく、経営環境の情報として受け取る姿勢が求められる。

 

可視化を前提とした機能設計へ 

かかりつけ医機能報告制度は、直ちに収入を増減させる制度ではない。しかし、診療所が地域において何を担っているかを、行政が確認し、患者が比較できる形で公表するという構造は、中長期的に医療機関の選ばれ方を変えていく。開業医にとって、この変化は脅威にも機会にもなり得る。自院の機能を曖昧なままにしておけば、比較可能な情報の中に埋もれる。他方、担っている役割を正確に記述し、報告と掲示と請求を整合させ、地域で不足している機能のうち自院が担いうるものを選び取っていけば、可視化はむしろ差別化の手段となる。毎年1月から3月という報告期間から逆算すれば、秋のうちに体制を点検し、記述の方針を定めておくことが現実的である。制度対応としてではなく、自院の位置取りを言語化する作業として取り組むだけの価値はある。

 

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