Vol.1247 あの人がいないと回らない、をなくす ― 属人化を解消する業務設計と欠員時の運転モード

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Vol.1247 あの人がいないと回らない、をなくす ― 属人化を解消する業務設計と欠員時の運転モード

属人化は善意から生まれる

小規模な診療所ほど、業務は特定の人に集まりやすい。開業当初から働いているベテランの事務職員がレセプトも労務も物品発注も1人で担い、内視鏡の洗浄手順は1人の看護師しか完全には把握しておらず、手術日の準備は特定の看護師の頭の中にしか手順がない。これらは怠慢の結果ではなく、むしろ有能で責任感の強い職員が仕事を引き受け続けた結果である。属人化は善意と献身から生まれる。だからこそ院長は問題に気づきにくく、気づいたときにはその職員の退職や休職という形で問題が表面化する。

人手不足時代において、属人化は経営上の最大の脆弱性である。採用が容易な時代であれば、辞めた人の代わりを採り、時間をかけて育てればよかった。しかし採用そのものに数か月を要し、採用できても経験者とは限らない時代には、1人の退職が診療所の機能を直接に損なう。人に頼りきらない現場のマネジメント体制とは、優秀な職員を軽視することではなく、優秀な職員が抜けても診療所が止まらない構造を持つことである。

「人に業務を割り当てる」から「業務に人を割り当てる」へ

属人化を解消する第1歩は、発想の順序を逆にすることである。多くの診療所では、まず職員がいて、その職員に業務を割り当てている。この順序では、業務の範囲は職員の能力と意欲によって決まり、職員が変われば業務の範囲も変わる。人手不足時代に必要なのは、まず診療所として必要な業務を定義し、それぞれの業務に「誰が担えるか」を割り当てる順序である。

具体的には、診療所の業務を1つずつ書き出し、3つに分類する。第1は医師でなければ行えない業務、第2は看護師や理学療法士などの有資格者でなければ行えない業務、第3は資格を要しない業務である。この分類を行うと、多くの診療所で、有資格者が資格を要しない業務に多くの時間を費やしている実態が見える。看護師が電話予約を受け、物品の発注をし、会計の補助をしている。これらの業務は本来、資格を持たない職員や外部に委ねられるものであり、看護師の時間は有資格者にしかできない業務に集中させるべきである。この整理は、看護師の採用が困難な状況で看護師の実質的な供給量を増やす、最も確実な方法である。

手順書ではなく、判断基準を共有する

属人化の解消と聞くと、業務マニュアルの整備を想起する院長が多い。しかし詳細なマニュアルは、作成に労力がかかる割に更新されず、現場では読まれない。マニュアルが効果を持つのは、手順が固定的で例外の少ない業務に限られる。診療所の業務の多くは、患者ごと、状況ごとに判断を伴い、手順書では網羅できない。

属人化の本質は、手順が共有されていないことではなく、判断の基準が共有されていないことにある。ベテランの事務職員が優れているのは、手順を知っているからではなく、例外的な状況で何を優先すべきかを知っているからである。したがって共有すべきは、手順の全体ではなく、業務ごとの「確認すべき点」と「判断に迷ったときに何を優先するか」である。例えば会計業務であれば、公費の併用があるときに何を確認するか、未収が発生しそうなときに誰に相談するか、という判断の分岐点を1枚に整理する。この1枚があれば、経験の浅い職員でも大きな誤りを避けられ、ベテランの職員が不在でも業務は止まらない。

消化器内科と耳鼻咽喉科に見る「工程の可視化」

消化器内科の診療所では、内視鏡の洗浄・再生処理が属人化しやすい工程である。ある診療所では、洗浄手順を完全に把握しているのが1人の看護師のみで、その看護師が体調を崩した週に内視鏡検査を縮小せざるを得なかった。院長は洗浄工程を写真つきの工程表に分解し、各工程の確認事項を明示した上で、看護師全員が月に1度は洗浄を担当する当番制に切り替えた。工程表は、手順を教えるためのものというよりも、誰が担当しても同じ確認が行われることを保証するためのものである。この取り組みの副産物として、洗浄記録の精度が上がり、感染対策の監査にも対応しやすくなった。

日帰り手術を行う耳鼻咽喉科では、手術日の準備と介助の属人化が問題になる。手術に入れる看護師が2名しかおらず、その2名の勤務日に手術日を合わせざるを得ない状態は、手術件数の上限を看護師の勤務表が決めていることを意味する。ある耳鼻咽喉科は、手術の準備工程を「器械の準備」「患者の術前確認」「術中介助」「術後観察」に分け、術中介助以外の工程を他の看護師でも担えるように教育した。術中介助ができる看護師が1名いれば手術日を組めるようになり、手術件数の制約は緩和された。

情報の所在を1か所にする

属人化の多くは、情報が特定の職員の手元にしかないことに起因する。業者の連絡先、契約の更新日、患者ごとの特記事項、機器の保守履歴。これらが個人のメモや記憶に分散している診療所では、その職員の不在が情報の欠落を意味する。診療所として共有する場所を1つ定め、業務に関する情報は必ずそこに記録するという原則を徹底するだけで、属人化の相当部分は解消される。重要なのは記録の形式ではなく、探せば必ずそこにあるという確実さである。

皮フ科と小児科に見る「縮退運転」の設計

属人化の解消と並んで重要なのが、欠員が生じたときの運転モードをあらかじめ決めておくことである。飛行機や鉄道が機器の故障時に機能を限定して運行を続けるように、診療所も職員が1人欠けた日、2人欠けた日にどの機能を維持しどの機能を止めるかを決めておく。これを決めていない診療所では、欠員の日に残った職員が全機能を維持しようとして、判断が遅れ、ミスが増え、疲弊が蓄積する。

皮フ科・形成外科のある診療所は、看護師が1名欠けた日には処置の予約を午前に集約し、午後は診察と処方に限定するという運転モードを定めている。看護師が2名欠けた日には、その日の小手術を延期し、患者には前日までに連絡する。この取り決めが事前にあることで、欠員の日の朝に院長が判断に迷うことはなく、職員も何を優先すべきかを理解している。

小児科の診療所では、事務職員の欠員が受付の滞留として現れる。ある小児科は、事務職員が1名欠けた日にはWeb問診の入力を患者側に依頼し、電話予約の受付を自動応答に切り替え、当日受診は予約枠の範囲に限定する運転モードを設けている。これらの手段は平常時にも稼働しているが、欠員時にはその比重を高める。縮退運転とは、平常時に整えた仕組みを非常時にどう使うかを事前に決めることである。

外部資源との組み合わせ

属人化の解消は、院内の職員だけで完結させる必要はない。資格を要しない業務のうち、レセプト点検、給与計算、労務手続き、物品発注の一部は、外部に委ねることが可能である。院内で1人の職員が抱えていた業務を外部の専門事業者に委ねることは、その職員の退職が業務の停止に直結する状態を解消するとともに、専門事業者の側で複数の担当者が業務を支えるという冗長性を得ることでもある。外部委託の適否は診療科と規模によって異なるが、判断の基準は一貫している。すなわち、その業務が自院の職員でなければ担えない性質のものかどうかである。

もう1つの外部資源は、短時間勤務の職員である。週20時間前後の勤務者を複数確保し、業務を分担させることで、1人の欠員が全体に及ぼす影響は小さくなる。ただし短時間勤務者が多くなるほど、業務の引き継ぎと情報共有の負荷は増す。この負荷を吸収するのが、前述の判断基準の共有と縮退運転の設計である。短時間勤務者が判断基準を理解し、欠員時の運転モードを知っていれば、人数の多さは脆弱性ではなく冗長性として機能する。

属人化の度合いを測る

属人化の解消は、感覚ではなく指標で進捗を確認すべきである。最も簡便な指標は、各業務について「担当できる職員の数」を数えることである。担当できる職員が1名の業務は属人化しており、2名の業務は脆弱であり、3名以上の業務は安定している。この表を半年ごとに更新し、1名の業務をなくしていくことが、属人化解消の具体的な目標になる。もう1つの指標は、職員の有給休暇の取得率である。属人化した業務を抱える職員は休暇を取れない。休暇取得率の偏りは、属人化の所在を示す信号である。

院長が手放すべきもの

属人化の最大の当事者は、実は院長自身である。院長にしか判断できない事項が多い診療所では、院長が不在の日に業務が止まる。物品の発注、職員の勤務調整、患者からの苦情対応、業者との交渉。これらのうち医師の判断を本質的に要するものは少ない。院長が判断基準を示し、その範囲内の判断を主任や事務長に委ねることは、職員の育成であると同時に、院長自身への依存を減らす経営上の投資である。この論点は別の回で事業承継との関係から改めて扱う。

人に頼りきらない現場とは、人を信頼しない現場ではない。むしろ、特定の人の献身に依存しなくても機能する構造を持つことで、職員1人ひとりの負担を適正に保ち、休みを取りやすくし、結果として職員が長く働き続けられる現場である。属人化の解消は、職員を守るための設計でもある。

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