Clinic Diary
クリニック奮闘記
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クリニック奮闘記
人手が上限なら、患者数は変数ではない
診療所の医業収益は、患者数と1人あたりの診療単価と来院頻度の積で決まる。この3つの変数のうち、多くの院長が収益改善の手段として最初に考えるのは患者数である。しかし人手不足時代においては、患者数を増やすという選択肢は、それを支える職員の確保という条件つきでしか成立しない。1日の患者数を10人増やせば、受付、看護、会計のすべての工程で負荷が増え、職員の疲弊と離職を招く。人手が上限を決めるのであれば、患者数はもはや自由に動かせる変数ではない。
したがって、人手不足時代の収益設計は、患者数が増えないことを前提に、残る2つの変数、すなわち診療単価と来院の継続性を見直すことから始まる。加えて、保険診療の枠外にある周辺サービスをどう設計するかが、収益の第3の柱となる。なお、窓口収納と未収金の管理、および費用構造の見直しはそれぞれ別の回で扱っており、本稿は収益の構造そのものに焦点を当てる。
診療単価 ― 算定漏れではなく、提供内容の問題として
診療単価の向上と聞くと、加算の算定漏れをなくすという話題に向かいがちである。算定漏れの点検は当然必要であるが、それは本来算定すべきものを算定するという当然の作業であり、収益構造の見直しではない。単価の見直しとは、自院が提供している診療の内容と、それが適正に評価されているかを照らし合わせる作業である。
呼吸器内科のある診療所は、喘息とCOPDの患者を多く抱えながら、吸入指導を診察の中で医師が口頭で済ませていた。看護師による吸入手技の確認と指導を診療の工程として組み込み、その内容を記録するようにしたところ、患者の吸入手技の誤りが多数発見され、症状の安定とともに、指導に対する評価も算定できるようになった。単価の向上は、より多くの点数を取るための工夫ではなく、患者に必要な医療を提供し、それを記録し、適正に評価される、という順序で実現される。
日帰り手術を行う耳鼻咽喉科では、手術1件あたりの収益と、その手術に投入する職員の時間の関係を把握することが単価の設計になる。ある耳鼻咽喉科は、術式ごとに手術時間と介助人数を記録し、時間あたりの収益を比較した。その結果、件数の多い術式が必ずしも時間あたりの収益が高いわけではないことが判明し、手術枠の配分を見直した。人手が限られる中では、職員の時間あたりの収益という視点が、どの診療に人員を配分するかの判断基準になる。
継続率 ― 初診の獲得より再診の維持
来院の継続性は、患者数が増えない前提での収益設計において最も重要な変数である。新規患者の獲得には広告費や紹介元との関係構築という費用がかかるが、既存患者の継続には追加の費用がほとんどかからない。初診患者のうち、何割が3か月後、6か月後にも通院を続けているか。この継続率を診療所として把握している院長は意外に少ない。
循環器内科のある診療所は、高血圧と心不全の患者について、最終来院日から一定期間が経過した患者を月次で抽出し、その数を「中断者数」として記録するようにした。中断の理由を電話で確認すると、症状がなくなったと自己判断した患者、薬が余っていて来院を延ばした患者、他院に移った患者に大別された。院長はこれを踏まえ、次回来院の予約を診察時に必ず取ること、処方日数と次回予約日を一致させること、中断が判明した患者には看護師が連絡することを診療所の標準的な運用とした。半年後、中断者の割合は3分の2に減少した。慢性疾患の継続管理は、患者の健康にとって必要であると同時に、診療所の収益の安定にとっても最も費用対効果の高い施策である。
耳鼻咽喉科では、舌下免疫療法が継続率の設計の対象になる。3年以上の継続を要する治療であり、途中で中断する患者が一定数存在する。ある耳鼻咽喉科は、治療開始時に治療の全体像を示す資料を渡し、初期の副作用が出やすい時期に看護師が電話で状態を確認し、症状が改善した後も継続の意義を診察のたびに短く伝える運用を組んだ。継続率の向上は、患者の治療成果と診療所の収益を同時に支えている。
小児科では、継続率の設計が予防接種と健診の導線として現れる。乳児期の予防接種で来院した家族が、その後の健診、季節性の疾患、学童期の相談まで継続して来院するかどうかは、初回の接種時にその後の予定を家族と共有できているかで大きく変わる。ある小児科は、初回接種時に1歳までの接種計画を家族と一緒に作成し、次回の予約をその場で確定する運用を徹底した。この運用は、接種率の向上と同時に、その家族が診療所に定着する確率を高めている。
周辺サービス ― 保険診療との連続性と価格の透明性
保険診療の枠外にある周辺サービスは、人手不足時代の収益設計において、慎重に扱うべき第3の柱である。任意の予防接種、健康診断、自費の検査、栄養指導や生活指導、疾患に関連する物品の提供。これらは保険診療の単価の制約を受けず、診療所の裁量で設計できる。ただし、人員が限られる中で周辺サービスを広げすぎれば、本業の保険診療の質を損なう。周辺サービスの設計原則は、自院の保険診療と連続性があり、既存の患者にとって自然に必要とされるものに限ることである。
皮フ科・形成外科のある診療所は、保険診療で管理している慢性の皮膚疾患の患者に対し、疾患の管理に関連する自費の外用剤や検査を提供している。ここで院長が徹底したのは、保険診療と自費診療の区別を患者に明示し、自費の価格を院内に掲示し、保険診療で十分な患者に自費を勧めないという原則である。周辺サービスは、患者の信頼を損なえば本業の患者を失う。価格の透明性と、勧める基準の明確さが、周辺サービスを収益の柱として持続させる条件である。
なお周辺サービスの価格は、原価の積み上げから決めるべきであり、近隣の相場に合わせるだけでは職員の時間という原価が反映されない。看護師が30分を要するサービスであれば、その30分が保険診療に充てられた場合に得られたはずの収益を下回る価格は、診療所の収益を損なっている。
診療単価と継続率は矛盾しない
診療単価を上げることと患者の継続を維持することは、一見すると緊張関係にある。単価が上がれば患者の負担も増え、通院が途絶えるのではないかという懸念である。しかし実際には、単価の向上が患者に必要な医療の提供と記録に基づくものであれば、患者は自分の状態が丁寧に管理されていることを実感し、継続率はむしろ高まる。逆に、必要な指導や検査が省略され、診察が短く単価が低い診療所では、患者は自分の状態が把握されていないと感じ、症状が落ち着けば通院をやめる。単価と継続率は、提供する医療の質という共通の要因によって同じ方向に動く。
消化器内科のある診療所は、この関係を数字で確認している。慢性肝疾患と炎症性腸疾患の患者について、定期的な検査と生活指導を診療の工程に組み込んだ結果、1人あたりの単価は上がったが、同時に12か月後の継続率も上がった。患者にとって、定期的に検査を受け結果を説明されることは、通院の理由そのものである。単価の設計は、患者が通院を続ける理由の設計でもある。
人員配分の判断基準としての収益構造
収益構造の見直しは、限られた職員をどの診療に配分するかの判断基準を提供する。職員の時間あたりの収益が高く、継続率も高い診療は、人員を優先的に配分すべき領域である。逆に、職員の時間を多く消費しながら収益が低く、患者の継続にも結びつかない診療は、提供の方法を見直すか、縮小の対象とすべき領域である。この判断を感覚ではなく数字で行うために、診療の種類ごとに投入時間と収益を把握する仕組みが必要になる。
3つの変数を月次で見る
人手不足時代の収益設計は、患者数を追いかけることをやめ、診療単価、継続率、周辺サービスの3つを月次で確認することから始まる。1人あたりの単価は前年同月と比べてどう動いたか。慢性疾患の患者の中断者は何人か。周辺サービスの収益は職員の投入時間に見合っているか。この3つの数字を院長が毎月見ることが、人員が増えなくても収益が安定する診療所への第1歩である。
収益構造の見直しは、患者から多く取るための工夫ではない。限られた職員で提供できる医療の価値を、患者に必要な形で提供し、適正に評価され、継続してもらうための設計である。その設計が整った診療所は、人手不足の中でも収益が安定し、職員の処遇を維持でき、結果として人が定着する。