Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
京都府保険医協会が2024年に会員医療機関を対象に実施した「審査に関するアンケート」では、回答した診療所430施設のうち、この1年間に支払基金で減点査定を受けた施設が92.3%、国保で89.3%に達した。審査に不満を持つ理由として最も多かったのは「審査基準の不明確さ」であり、いわゆる審査基準を「すべて公開すべき」「公開の部分を拡大すべき」とする回答は合わせて67.5%であった。自由記述には、同じ内容の請求が月によって認められたり認められなかったりする、社会保険と国民健康保険で結果が違う、という声が数多く寄せられている。
開業医にとって、レセプト審査は自院の収入を最終的に確定させる工程でありながら、その中身が見えにくい工程でもある。しかし、審査の仕組みと審査結果の差異については、ここ数年で公開される情報が着実に増えている。本特集では、審査の仕組みを理解したうえで、査定への対応、再審査請求、返戻の管理、医師の記載、そして患者への説明までを、5回にわたって検討する。
診療所が提出したレセプトは、まず審査支払機関のコンピュータによって点検される。支払基金では、過去の審査結果を学習させたAIによって、審査委員や職員が目で確認すべきレセプトと、コンピュータによる点検で完結するレセプトとが振り分けられている。前述の保険医協会の資料によれば、2022年10月時点で、人による審査を必要とするレセプトは全体の10%程度に絞り込まれたとされる。
この仕組みが意味することは大きい。大多数のレセプトは、病名と診療行為、医薬品の適応、算定要件などを機械的に照合する点検によって審査が完結する。つまり、病名の記載漏れや算定要件の不一致といった形式的な不備は、ほぼ確実に検出される時代になったということである。一方で、機械的な点検で疑義が示されたレセプトや、過去に査定の多かった類型に属するレセプトは、審査委員の医学的判断に委ねられる。ここに、審査結果の差異が生まれる余地がある。
また、機械による点検で付される付箋、すなわち審査委員に確認を促す印は、全国共通のチェック条件に加えて、各地域で設定された条件によっても付される。どの条件で付箋が付きやすいかは、地域の審査の傾向を反映している。多くの付箋がつくコンピュータチェック事例が可視化の対象となっているのはこのためであり、地域による審査の差異は、人の判断だけでなく機械の設定にも由来しているのである。
支払基金は、審査情報提供事例、支払基金における審査の一般的な取扱い、そして多くの付箋がつくコンピュータチェック事例について、都道府県別に審査の差異を可視化したレポートを公開し、不合理な差異の解消に取り組むとしている。2026年8月24日には医科の事例が追加され、9月17日にも検証前のレポートが掲載された。審査の一般的な取扱い(医科)は、2026年時点で834事例が一括して入手できる。
これらの資料は、診療所にとって2つの意味を持つ。第1に、自院が査定を受けた診療行為について、全国的にどのような取扱いが示されているかを確認できることである。第2に、自院が所在する都道府県の審査が、全国と比べて厳しい傾向にあるのか緩やかな傾向にあるのかを、具体的な事例で把握できることである。審査の差異は、院長の感覚として語られることが多かったが、今では公開資料によって確認できる事実になりつつある。
審査の差異が存在する以上、全国一律の算定本だけを頼りに請求を組み立てることには限界がある。自院の地域で査定されやすい項目を把握し、その項目については病名、症状詳記、コメントを通常以上に整えて請求するという対応が必要になる。査定を受けてから対応するのではなく、査定の傾向を事前に把握して請求の段階で備えるという発想である。
消化器内科のあるクリニックでは、内視鏡検査に伴う病理診断の臓器数の扱いについて、繰り返し減点を受けていた。院長は当初、審査委員の個人的な判断だと受け止めていたが、事務職員が公開事例と可視化レポートを確認したところ、その取扱いについては都道府県による差異があることが分かった。そこで、該当する症例には採取部位と臓器を明確に区別したコメントを付すようにし、それでも減点された症例については再審査請求を行った。査定がゼロになったわけではないが、根拠を持って請求し、根拠を持って異議を申し立てるという姿勢に変わったことで、院長の不満は具体的な対応に置き換わった。
整形外科では、運動器の超音波検査や外用薬の処方量について、地域によって審査の厳しさが異なるという指摘が以前からある。あるクリニックでは、院長が他県の同業者から「こちらでは認められている」と聞いた検査が、自院では継続的に減点されていた。この場合、他地域で認められていることを理由に同じ請求を繰り返しても結果は変わらない。自院の地域の審査の傾向に合わせて記載を整えるか、医学的必要性を示して再審査請求で争うかを、項目ごとに判断する必要がある。
審査の差異は都道府県の間だけでなく、支払基金と国民健康保険団体連合会の間にも存在する。両者の審査の仕組みやコンピュータチェックのシステムは同一ではなく、同じ診療内容でも一方では認められ他方では減点されるという事例が、前述のアンケートの自由記述にも複数報告されている。両者の審査の共通化は政策課題として長く掲げられているが、現時点で差異が解消されたとは言い難い。
したがって、査定の分析は、保険者の種別ごとに行う必要がある。支払基金分と国保分とを区別せずに査定を集計すると、どちらの審査で何が問題になっているのかが見えなくなる。自院の患者構成によっては、国保分の比率が高く、国保の審査傾向への対応が収入に大きく影響する場合もある。高齢者の多い内科や整形外科ではこの傾向が強い。
公開される審査情報は増えているが、それを確認する人と時期が決まっていなければ、情報は活用されない。現実的な方法は、事務職員が月1回、支払基金と国保中央会の新規の公開事例と可視化レポートを確認し、自院の診療科に関係する事例だけを抜き出して院長に報告することである。院長がすべての資料に目を通す必要はない。自院の診療に関わる数件の事例について、請求の方法を変える必要があるかどうかを判断すれば足りる。
地域の医師会や保険医団体が発信する審査の情報も、有力な情報源である。審査委員会からの文書や電話による連絡、懇談を受けた診療所は多くないが、前述のアンケートでは、懇談を受けた診療所の7割以上が「納得できた」と回答している。審査側と直接対話する機会は、審査の考え方を理解するうえで貴重であり、機会があれば避けずに活用すべきである。
これから開業する医師にとっても、審査の差異は無関係ではない。勤務医時代に別の都道府県で当然のように認められていた検査や処方が、開業地では査定の対象になることがある。病院の請求は医事課が担っていたため、勤務医は審査の傾向を意識する機会がほとんどない。開業後に初めて査定の多さに直面し、戸惑う院長は少なくない。
開業準備の段階で、開業予定地の審査の傾向を公開資料や地域の医師会・保険医団体の情報によって把握し、自身の診療スタイルのうちどの部分が査定の対象になりやすいかを確認しておくことは、事業計画の精度を高めることにもつながる。査定率が想定より高ければ、その分だけ収入の見込みは下振れする。開業直後の資金に余裕のない時期に、想定外の査定と返戻が重なれば、資金繰りへの影響は小さくない。開業前に審査の傾向を知っておくことは、診療の準備であると同時に、資金計画の準備でもある。
審査は事務職員の領域だと考える院長は多い。しかし、審査の対象となるのは院長の医療そのものであり、査定の多くは病名の付け方や検査・処方の判断と結びついている。前述のアンケートでも、減点の理由として最も多かったのは病名漏れであった。審査の仕組みを院長が理解することは、自院の医療が保険制度の中でどう評価されているかを知ることであり、請求の精度を高める出発点である。
なお、レセプトの指標管理についてはVol.1199、1231、1253で、スタッフ教育への活用については前週のVol.1251〜1255で扱った。本特集は、審査する側の仕組みと、その結果への対応に焦点を当てる。次稿Vol.1257では、査定を受けた後、どの査定について再審査請求を行うべきかを、費用対効果の観点から検討する。