Clinic Diary
クリニック奮闘記
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クリニック奮闘記
京都府保険医協会の2024年の審査アンケートでは、この1年間に支払基金から返戻を受けた診療所は89.8%、国保からは89.1%であった。返戻の内容として最も多かったのは被保険者資格に関するもの(支払基金74.9%)で、事務的誤りに関するもの(65.0%)、病名漏れやレセプト記載事項の漏れに関するもの(59.8%)が続いた。病名漏れ・記載漏れによる返戻は、前回調査から9.5ポイント増加している。
返戻は、査定と異なり請求額そのものが減額されるわけではない。そのため、査定ほど深刻に受け止められないことが多い。しかし、返戻されたレセプトは、修正して再提出し、改めて審査を経るまで入金されない。つまり返戻とは、診療を行い、患者から一部負担金を受け取ったにもかかわらず、保険者負担分が回収されていない状態であり、会計上は未収金そのものである。
通常のレセプトは、診療月の翌月10日までに請求し、翌々月に入金される。返戻されたレセプトは、返戻の通知を受けた月に修正し再提出しても、そこからさらに審査と支払の周期を経るため、入金は本来の予定から少なくとも1か月、多くの場合2か月以上遅れる。修正に必要な情報が揃わず再提出が遅れれば、遅延はさらに長引く。
1件あたりの金額が小さい外来レセプトであっても、返戻が月に20件、30件と発生し、その再提出が滞れば、未回収の額は着実に積み上がる。手術や高額な薬剤を伴うレセプトであれば、1件の返戻が当月の資金繰りに与える影響は無視できない。返戻の管理は、事務処理の問題である以前に、資金管理の問題として捉える必要がある。
加えて、返戻の処理には人の時間がかかる。返戻の理由を確認し、カルテや保険情報を調べ、必要に応じて患者や院長に確認し、修正して再提出するまでには、1件あたり30分以上を要することも珍しくない。返戻が多い診療所では、月初の請求業務に加えて返戻の処理が重なり、事務職員の時間外労働の原因になっている。返戻を減らすことは、資金の回収を早めるだけでなく、事務部門の業務負担を軽くすることにもつながる。
返戻の扱いは、ここ数年で大きく変わった。支払基金と国保連合会からの紙による返戻の送付は2024年9月末で終了し、オンライン請求を行う医療機関は、返戻レセプトをオンライン請求システムからダウンロードして修正し、再請求することになった。前述の保険医協会の資料では、このダウンロードには期間の制限があることが注意点として挙げられている。
紙の返戻が届いていた時代には、返戻レセプトが物理的に手元に残るため、処理の漏れに気づきやすかった。オンライン化によって、返戻の存在はシステムの画面上の情報となり、誰かが定期的に確認しなければ見落とされる可能性が生じている。返戻の確認を特定の職員の記憶や習慣に委ねていると、その職員が不在の月に処理が止まる。返戻の確認と処理を、月次の業務手順として明確に定めておくことが必要である。
返戻を未収金として管理するためには、返戻台帳を作成することが有効である。台帳には、返戻を受けた月、対象の診療月、患者、保険者、返戻の理由、請求額、修正の担当者、再提出した月、入金を確認した月を記録する。この台帳を毎月確認すれば、未処理の返戻が何件、いくら残っているのかを一目で把握できる。
特に注意すべきは、修正に患者側の情報が必要な返戻である。被保険者資格に関する返戻では、患者に正しい保険情報を確認しなければ再提出できない。時間が経つほど患者との連絡は難しくなり、最終的に回収できなくなることもある。前述のアンケートの自由記述にも、かなり前のレセプトが資格の問題で返戻され、患者と連絡が取れずに回収を断念したという声が見られる。資格に関する返戻は、他の返戻よりも優先して処理すべきである。
小児科のあるクリニックでは、自治体の医療証に関わる返戻が毎月一定数発生していた。転居や保険の切り替えに伴い、医療証の情報が更新されないまま請求されていたことが原因であった。このクリニックでは、返戻台帳を作成して原因を分類したところ、返戻の多くが特定の時期、すなわち年度替わりと保険の切り替えが集中する時期に偏っていることが分かった。その時期に限って受付での確認項目を増やし、医療証の再確認を徹底したことで、返戻の件数は大きく減少した。
耳鼻咽喉科で日帰り手術を行っているクリニックでは、手術症例のレセプトが病名と手術の整合性、特定保険医療材料の記載について返戻されることがあった。手術症例は1件あたりの請求額が大きいため、返戻台帳では手術症例を別に管理し、返戻を受けた場合は当月中に必ず再提出するという規則を設けた。院長が詳記の追加を求められた場合にも、手術症例は優先して対応することを院内で合意している。
整形外科のあるクリニックでは、リハビリテーションの通院患者について、保険の切り替えに伴う資格の返戻が続いていた。高齢の患者が多く、後期高齢者医療制度への移行の時期に保険情報の更新が漏れていたことが原因であった。オンライン資格確認による来院ごとの確認を徹底したことで返戻は減ったが、資格確認書や自治体の医療証など、オンラインで確認できない情報については、引き続き受付での目視による確認が必要である。オンライン化によって確認の手間が減る部分と、なお人の確認が必要な部分とを区別しておくことが、返戻を減らす実務の要点である。
返戻や査定は、提出直後の審査だけで起こるわけではない。保険者は、審査支払機関の審査を経て支払ったレセプトについても、独自の点検を行い、再審査を申し出ることができる。その結果、数か月前、場合によっては半年以上前のレセプトが減点されたり返戻されたりすることがある。前述のアンケートでも、減点に納得できない理由として「半年以上前のレセプトが減点されることがあるから」を挙げた診療所が33.8%あった。
このような時間差の減点は、すでに入金を確認して閉じたはずの月の収入が、後から修正されることを意味する。月次の収支管理においては、当月の審査結果だけでなく、過去の月の調整額についても把握し、どの月の診療に対する減額なのかを記録しておく必要がある。調整額の通知を読み解く作業は煩雑であるが、放置すれば自院の実際の収入と帳簿上の収入との差が説明できなくなる。
返戻台帳を作成したら、月次で確認する指標を定めておくとよい。未処理の返戻の件数と金額、返戻を受けてから再提出するまでの平均日数、そして返戻の原因別の構成である。未処理の件数と金額は、回収が滞っている未収金の規模を示す。再提出までの日数は、事務処理の速さを示し、これが長引いている場合は担当者の負荷や確認手順に問題がある可能性がある。原因別の構成は、どの工程に改善の余地があるかを示す。
これらの指標は、院長が毎月の試算表を確認する際に、あわせて確認することが望ましい。レセプトの請求額と入金額の差が、返戻によるものなのか、査定によるものなのか、時間差の調整によるものなのかを区別して把握できれば、収入の実態を正確に理解できる。
返戻の管理は重要であるが、最も効果的な資金対策は返戻そのものを減らすことである。返戻の原因の多くは、資格情報の確認不足、事務的な記載誤り、病名の記載漏れに集約される。オンライン資格確認の活用によって資格に関する返戻は減らすことができ、事務的な誤りは提出前の点検によって防ぐことができる。病名の記載漏れについては、医師の記載に関わるため、次稿Vol.1259で詳しく検討する。
なお、窓口での未収金と収納管理についてはVol.1244で、返戻と査定の区別についてはVol.1231で扱った。本稿は、オンライン化以降の返戻管理の実務と、保険者からの再審査による時間差の減点に焦点を当てた。開業から間もないクリニックでは、返戻の処理手順が定まっていないことが多い。開業直後は患者数が少なく返戻も少ないため問題が表面化しにくいが、患者数の増加とともに返戻も増え、処理が追いつかなくなった時点で初めて未回収の規模に気づくことになる。開業時点で返戻台帳の仕組みを用意しておけば、患者数が増えても管理の質を保つことができる。
返戻は、放置すれば回収できなくなる未収金であり、管理すれば確実に回収できる資金である。その差は、仕組みがあるかどうかで決まる。