Vol.1259 コンピュータが読むのは病名とコメントである ― 医師の記載が審査結果を決める時代のカルテとレセプト

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Vol.1259 コンピュータが読むのは病名とコメントである ― 医師の記載が審査結果を決める時代のカルテとレセプト

減点理由の7割は病名漏れ

京都府保険医協会の2024年の審査アンケートで、診療所が減点理由として最も多く挙げたのは「病名漏れ」であり、支払基金で73.0%、国保で73.2%に上った。減点に納得できない理由として最も多かったのも「明らかな病名漏れは返戻してほしいから」(48.4%)であった。また、再審査請求で改善すべき点として「再審査請求でも病名漏れの追記を認めるべき」を挙げた診療所が56.9%あった。

これらの数字は、多くの診療所にとって、査定の最大の原因が医学的判断の相違ではなく、病名の記載にあることを示している。そして、病名漏れによる減点は、再審査請求で病名を追加して取り戻すことが原則としてできない。つまり、病名漏れによる損失は、請求の時点で防ぐ以外に方法がない。

機械による審査が求める記載

Vol.1256で述べたように、現在のレセプト審査の大部分は、コンピュータによる点検で完結している。コンピュータは、レセプトに記載された病名と、検査・処置・投薬などの診療行為とを照合し、適応や算定要件との整合性を確認する。そこで判断の材料になるのは、レセプトに記載された情報だけである。カルテに詳しく書かれた所見や判断の過程は、レセプトに反映されていなければ審査には届かない。

この点で、審査は医師の頭の中にある医学的判断を評価しているのではなく、レセプトという文書に表現された医療を評価していると言える。どれほど適切な医療であっても、その必要性が病名、症状詳記、コメントとして表現されていなければ、機械による点検の段階で疑義が示され、人による審査においても判断の材料が不足する。

2026年6月1日には、診療報酬の点数と患者負担金を計算する全国共通のプログラムである共通算定モジュールの本格運用が、クラウド型のレセプトコンピュータ向けに始まった。今後、点数計算の正確さは制度的に担保される方向に進む。その分、審査の結果を左右する要素として、医師による病名と記載の比重はさらに大きくなっていくと考えられる。

病名の管理が請求の質を決める

病名漏れを防ぐうえで重要なのは、病名を付けることと同じくらい、病名を管理することである。慢性疾患の患者を長く診療していると、病名が次々に追加され、転帰が記録されないまま残っていくことがある。病名が多すぎるレセプトは、どの病名に対してどの診療行為が行われたのかが審査側から読み取りにくくなる。特に、疑い病名が長期間にわたって残っているレセプトは、審査で疑義を持たれやすい。

疑い病名は、検査の必要性を示すために付けるものであり、検査の結果が出た時点で確定病名に改めるか、否定されたものとして転帰を記録する必要がある。病名の整理を月1回、レセプトの点検と合わせて行う習慣を持つだけで、審査側に伝わる情報の質は大きく変わる。

病名を付けすぎることの危険

病名漏れを恐れるあまり、診療の実態に基づかない病名を付けることは避けなければならない。検査や処方を通すためだけに付けられた病名、いわゆる保険病名は、審査の段階では問題にならなくても、個別指導などで診療録との整合性を問われたときに説明がつかない。実態のない病名による請求は、不正請求とみなされるおそれもある。

求められているのは、病名を多く付けることではなく、診療の実態を正確に病名として表現することである。疑った病名は疑い病名として記載し、確定すれば確定病名に改め、否定されれば転帰を記録する。この当たり前の管理を継続することが、査定を防ぐ最も確実な方法であり、同時に保険医としての記録の責任を果たす方法でもある。

症状詳記は「なぜ必要か」を書く

算定要件上、症状詳記の添付が求められる診療行為がある一方で、要件ではなくとも、通常の範囲を超える検査や処方を行う場合には、症状詳記やコメントによって必要性を説明することが有効である。症状詳記で重要なのは、実施した内容を繰り返すことではなく、なぜその医療が必要だったのかを、客観的な所見と経過に基づいて簡潔に示すことである。

審査する側は、限られた時間で多くのレセプトを確認している。長文の詳記よりも、病状、所見、判断の根拠を短く整理した詳記のほうが伝わりやすい。検査値の推移や、治療を変更した理由など、第3者が読んでも必要性が理解できる情報を示すことが要点である。

また、2020年度の診療報酬改定以降、レセプトに記載するコメントの多くは、あらかじめ定められたコードから選択する方式に移行している。コメントの選択を誤ったり、必要なコメントが欠けていたりすれば、機械による点検で不備として検出される。どの診療行為にどのコメントが必要かは、事務職員が把握しておくべき事項であるが、コメントに記載する日付や所見の内容は、医師の記録に基づいている。医師の記録が足りなければ、正しいコメントも作れない。

診療科別の記載の工夫

循環器内科のあるクリニックでは、心不全の経過観察として行っていたBNPの測定が、ある時期から減点されるようになった。院長は長年同じ頻度で測定してきたため戸惑ったが、レセプトを確認すると、心不全の病名が疑い病名のまま残っており、確定病名としての記載がなかった。病名を整理し、測定の頻度が高くなる時期には、体重の増加や浮腫の出現といった所見をコメントで示すようにしたところ、減点は解消された。医学的な判断は変わっていないが、その判断がレセプトに正しく表現されるようになったのである。

消化器内科では、腫瘍マーカーの測定が審査で問題になりやすい。悪性腫瘍の疑いに対する検査なのか、診断が確定した患者の経過観察なのかによって、算定の扱いが異なるからである。あるクリニックでは、病院から逆紹介された術後の患者について、腫瘍マーカーを検査として請求し続けて減点を受けていた。本来は管理料として請求すべき可能性があった事例であり、算定方法を見直したことで問題は解消した。医師が請求の区分を理解していないと、正しい医療が誤った形で請求されることになる。

耳鼻咽喉科では、聴力検査の実施頻度が過剰として減点される事例がある。突発性難聴の治療経過のように、短期間に繰り返し検査を行う医学的必要性がある場合には、発症日と治療の経過をコメントで示すことで、審査側は検査の必要性を判断しやすくなる。

医師と事務職員の分担

病名と症状詳記は医師の判断に属するが、その不足に気づくのは、多くの場合レセプトを点検する事務職員である。医師がすべてのレセプトを見直すことは現実的ではないため、事務職員が点検の過程で病名と診療行為の不整合を見つけ、医師に確認を求めるという分担が機能することが重要である。

その際、事務職員が医師に確認を求めやすい仕組みを整えておく必要がある。確認事項を一覧にして、診療の合間や診療後に短時間でまとめて確認する方法が現実的である。医師が「忙しいから後で」と確認を先送りすれば、請求の期限までに修正が間に合わない。月初の数日間は、病名の確認を最優先の業務として院長自身が時間を確保することが望ましい。

さらに効果的なのは、月初にまとめて確認するのではなく、診療の当日に病名を整えることである。検査や処方を入力する際に、対応する病名があるかを電子カルテ上で確認する習慣を持てば、月初に確認すべき件数は大きく減る。電子カルテやレセプトコンピュータの多くには、病名と診療行為の整合性を確認する機能が備わっている。その機能を有効にし、警告が出た時点で対応することが、月初の負担を平準化し、病名漏れを未然に防ぐ方法である。

カルテの記載は審査への備えでもある

レセプトに記載される病名と症状詳記の根拠は、カルテにある。症状詳記で必要性を説明しても、カルテにその根拠が記録されていなければ、個別指導などの場面で説明がつかなくなる。カルテの記載を充実させることは、審査への備えであると同時に、保険医としての責任を果たすことでもある。

医師の記載が審査結果を決めるという事実は、裏を返せば、院長自身の行動によって査定と返戻の多くを防げるということである。審査を事務の問題として捉えている限り、この改善の余地は見えてこない。次稿Vol.1260では、審査の結果を患者への説明と日々の診療にどう還元するかを検討し、本特集を締めくくる。

 

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