Vol.1260 査定は患者にも届く ― 審査結果を患者説明と診療方針に還元するクリニックの姿勢

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Vol.1260 査定は患者にも届く ― 審査結果を患者説明と診療方針に還元するクリニックの姿勢

査定された医療費と患者の負担

レセプトが査定されると、保険者が支払う医療費は減額される。しかし、患者が窓口で支払った一部負担金は、査定前の金額に基づいて計算されたまま変わらない。つまり、査定が行われた場合、患者は本来よりも多く支払っていることになる。

この過払いについて、厚生労働省は保険者に対し、医療費通知に減額の事実を記載するよう求めてきた。多くの健康保険組合は、査定による患者の自己負担相当額の減額が1万円以上となった場合に、減額査定があったことを被保険者に通知している。通知を受けた患者は、医療機関に直接申し出ることで、過払い相当額の返還を受けられる場合がある。医療機関が再審査請求を行っている場合には、ただちに返還されないこともあるとされている。

外来の通常の診療で、自己負担相当額が1万円以上減額される事例は多くない。しかし、日帰り手術や高額な薬剤を用いる診療では、査定によってこの基準を超えることがあり得る。患者が保険者から通知を受け取り、受診したクリニックに問い合わせてきたとき、院内に対応の手順がなければ、患者の不信を招くことになる。

患者からの問い合わせにどう対応するか

耳鼻咽喉科で日帰り手術を行っているクリニックでは、手術後に患者から、健康保険組合から減額査定の通知が届いたという問い合わせを受けた。事務職員は当初、査定の意味を患者に説明できず、院長に取り次ぐまで時間がかかった。院長が確認すると、手術に伴う材料の一部が査定されていたことが分かった。クリニックは再審査請求を行うかどうかを判断したうえで、再審査請求を行わない部分について過払い相当額を患者に返還した。

この経験を受けて、クリニックは減額査定の通知に関する問い合わせへの対応手順を定めた。問い合わせを受けた職員は、該当する診療月と査定の内容を確認し、再審査請求の予定の有無を院長に確認したうえで、患者に経過を説明する。返還する場合の計算方法と手続きも文書化した。患者に対して誠実に対応することは、査定という医療機関にとって不利な出来事を、信頼を損なわずに処理するための条件である。

減額査定の通知は、患者が自院の請求内容を知る数少ない機会でもある。患者が通知を受け取ったとき、クリニックの側が査定の事実を把握していなければ、説明は後手に回る。高額な手術や薬剤を伴うレセプトについては、査定の通知を受けた時点で、患者への影響の有無を確認しておくことが望ましい。自己負担相当額が大きく減額された症例については、再審査請求の判断とあわせて、患者から問い合わせがあった場合の説明を準備しておけば、慌てずに対応できる。

職員が査定と窓口負担の関係を理解しておく

減額査定の通知を受けた患者からの問い合わせは、多くの場合、受付や会計の職員が最初に受ける。そのため、査定が行われても患者の支払額は自動的には変わらないこと、保険者から通知が届く仕組みがあること、院内でどのように確認し対応するかを、職員が理解しておく必要がある。Vol.1254で、レセプトを理解した職員が会計窓口で患者の問いに答えられることの意義を述べたが、査定に関する問い合わせは、その応用の場面である。

患者が不信を抱くのは、査定そのものよりも、問い合わせに対して職員が要領を得ない対応をしたときである。仕組みを理解した職員が、確認して後日回答すると伝え、実際に期日までに回答すれば、患者の受け止め方は穏やかなものになる。査定への対応は、請求の問題であると同時に、患者対応の品質の問題でもある。

「保険で認められない」と「医学的に不要」は違う

査定は、患者への説明においても難しい問題を投げかける。院長が医学的に必要と判断して行った検査や処方が、保険診療の範囲を超えるとして査定された場合、その判断を患者にどう伝えるかである。

ここで区別しなければならないのは、保険診療として認められないということと、医学的に不要であるということは同じではない、という点である。保険診療は、限られた財源のなかで一定の範囲の医療を保障する制度であり、審査はその範囲を判断している。一方で、査定が続く診療行為については、その頻度や方法が保険診療の標準から外れていないかを院長が見直す契機にもなる。査定を審査側の誤りとしてのみ捉えるのではなく、自院の診療方針を点検する材料として受け止める姿勢が求められる。

なお、査定されることを理由に、同じ診療の一部を患者の自費負担に切り替えることは、保険診療と自由診療の混合にあたるおそれがあり、原則として認められない。保険診療の範囲で行うべき医療と、保険診療の範囲外の医療との区別を明確にし、後者については事前に患者の同意を得たうえで、制度に沿った形で提供する必要がある。

保険診療の範囲を患者に伝える

審査の結果から得られる情報は、患者への事前の説明にも生かすことができる。整形外科では、湿布薬について、1回の処方で63枚を超えて処方する場合に理由の記載が必要とされている。この仕組みを知らない患者は、以前より処方される枚数が少ないことに不満を持つことがある。小児科では、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの迅速検査について、短期間に繰り返し実施すると査定の対象となりやすく、保護者から再検査を求められても、医学的な必要性に応じて判断することになる。

こうした場面で、院長や職員が「保険のルールでできません」とだけ伝えると、患者は制度に対する不満をクリニックに向ける。保険診療には一定の範囲があること、その範囲のなかで医学的に必要な医療を行っていること、必要があれば記録に基づいて説明していることを伝えれば、患者の受け止め方は変わる。審査の傾向を知っていることは、患者に対して根拠のある説明をするための前提である。

皮フ科・形成外科では、外用薬の処方量や処置の範囲について、審査で過剰とされる事例がある。広範囲の皮膚疾患で外用薬を多く必要とする患者に対しては、必要量の根拠を記録し、患者にも塗布量と使用期間の目安を説明することで、処方の適正さと治療効果の両方を確保できる。査定への備えと患者指導とが、同じ行為の両面になる例である。

審査結果を診療の振り返りに使う

審査の結果は、院長にとって自院の診療を外部から見直す機会でもある。月1回、査定と返戻の内容を事務職員と確認する際に、医学的判断に関わる査定については、院長がその診療方針を振り返る時間を持つことが望ましい。同じ検査を同じ頻度で続けている理由を改めて確認し、必要性が明確であれば記載を整え、必要性が薄れているのであれば方針を見直す。この振り返りは、医療費の適正化という制度の要請に応えると同時に、患者にとって不要な負担を減らすことにもつながる。

呼吸器内科のあるクリニックでは、査定を受けた検査について院長が方針を見直した結果、一部の患者で検査の間隔を広げ、代わりに症状の変化があった場合にのみ追加で検査を行う方針に改めた。患者の通院負担と窓口負担が軽くなり、査定も解消した。審査の結果を診療の改善に結びつけた例である。

審査の結果を診療方針の見直しに生かすことは、医療費の適正化という制度の要請に応えることでもある。一方で、医学的に必要と考える医療が繰り返し査定される場合には、再審査請求や地域の医師会を通じた意見表明によって、審査のあり方そのものに働きかけることも医師の役割である。審査を一方的に受け入れるのでも、一方的に拒むのでもなく、根拠に基づいて対話する姿勢が、長期的には自院の医療を守ることにつながる。

特集のまとめ

本特集では、レセプト審査を院長の立場から検討してきた。Vol.1256では審査の仕組みと差異の可視化を、Vol.1257では再審査請求の判断基準と費用対効果を、Vol.1258では返戻を未収金として管理する方法を、Vol.1259では医師の記載が審査結果を決めることを、本稿では審査結果を患者説明と診療方針に還元することを論じた。

5本に共通する主張は、審査は診療所の外で行われる手続きではなく、院長の医療が保険制度の中でどう評価されているかを示す情報だという点である。審査の仕組みを知り、査定と返戻に根拠をもって対応し、その結果を診療と患者説明に還元するクリニックは、請求の精度を高めるだけでなく、患者と保険制度の双方から信頼される医療機関になっていく。審査を知ることは、自院の医療を知ることである。

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