Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
患者が医療機関を選ぶとき、保険診療であれば費用はおおむね全国共通であり、価格が選択の基準になることは少ない。しかし、自費診療や予防接種、健康診断、診断書などの文書料については事情が異なる。同じ内容でも医療機関ごとに価格が違い、患者は受診する前にその価格を知りたいと考える。ホームページを見ても価格が書かれていない、電話で尋ねても要領を得ないという経験は、患者にとって受診をためらう理由になる。
一方で、医療機関が価格を示す方法には法令上の制約がある。何をどこまで書いてよいのかが分からないために、価格の掲載自体を避けているクリニックも少なくない。本特集では、価格と患者体験という観点から、クリニックが患者に選ばれる理由をどう設計するかを5回にわたって検討する。初回の本稿では、価格の示し方に関わる法令上の枠組みを整理する。
医療に関する広告を規制する厚生労働省のガイドラインは、2026年3月30日に改正され、4月1日から「医療広告等ガイドライン」として施行された。あわせてQ&Aが改正され、ウェブサイト等の事例解説書も第6版となった。今回の改正では、新たな禁止事項が大きく増えたわけではない。むしろ、自由診療やSNS・動画に関する事例が増え、何をどのように書けば適切かという具体例が充実したことが特徴である。
クリニックのホームページは、患者が自ら閲覧するものであっても広告規制の対象となる。「これは広告ではありません」と記載しても、その扱いは変わらない。虚偽の広告や、中止命令・是正命令に従わない場合には刑事罰も定められている。院長は、ホームページの内容を制作会社に任せきりにせず、自院の責任で管理する必要がある。
ホームページで自由診療の内容と価格を示す場合には、いわゆる限定解除の要件を満たす必要がある。患者が自ら求めて閲覧する媒体であること、問い合わせ先を明示することに加え、自由診療については、通常必要とされる治療の内容、標準的な費用、治療の期間と回数、そして主なリスクと副作用を併せて示すことが求められる。
標準的な費用は、一定の幅や「約○円」という形で示すことも認められているが、実際に窓口で負担する費用が容易に分かるように示す必要がある。治療本体の費用だけを示し、初診料や検査料、処方薬の費用を別に請求する場合には、それらを含めた総額が分かるようにしなければならない。また、リスクや副作用の記載を別のページへのリンクに回したり、極端に小さな文字にしたりすることは認められない。
医療広告等ガイドラインでは、費用を強調した広告は品位を損ねるものとして慎むべきものとされている。「期間限定○%オフ」「今だけ○円」といったキャンペーン型の表示は、自由診療であっても認められない。一方で、費用は患者にとって有益な情報であり、費用を分かりやすく太字で示すことなどは差し支えないとされている。
つまり、求められているのは、価格を隠すことでも、価格で患者を引きつけることでもなく、患者が判断に必要な情報として価格を正確に示すことである。この線引きを理解しておけば、価格を掲載すること自体を恐れる必要はない。
自由診療の広告とは別に、保険医療機関には、保険外の負担について院内に掲示する義務がある。2024年度の診療報酬改定により、院内掲示が求められる事項は、原則としてウェブサイトにも掲載しなければならないこととされ、2025年5月31日までの経過措置が終わった6月1日から、この義務が本格的に適用されている。自ら管理するホームページを持たないクリニックは対象外であるが、ホームページを持つクリニックでは、施設基準の届出に関する事項や明細書の発行に関する事項と並んで、保険外負担に関する事項、すなわち患者から費用を受け取るサービスや物品の項目とその実費を掲載する必要がある。
診断書や証明書の文書料、予防接種の費用、健康診断の費用などは、この保険外負担に該当することが多い。院内には掲示しているが、ホームページには載せていない、あるいは院内の掲示とホームページの金額が一致していないという状態は、義務の不履行であると同時に、患者の不信の原因にもなる。
価格を示す際には、景品表示法上の注意も必要である。「通常価格○円のところ○円」といった割引前後の価格を並べた表示は、比較の対象となる通常価格に実態がなければ、不当な表示とみなされるおそれがある。また、医療広告等ガイドラインでは、他の医療機関と比較して自院が優れている旨を示す広告は禁止されている。「近隣で最安値」といった表示は、事実であっても避けるべきである。
価格を正確に示すことと、価格で競うことは別のことである。保険外のサービスであっても、医療に関わる以上、患者が価格だけで選ぶ状態をつくることは、医療機関の本来の姿ではない。
皮フ科・形成外科のあるクリニックでは、巻き爪の矯正を自費診療として行っていた。ホームページには「巻き爪矯正 1本○円から」とだけ記載していたが、実際には初回の処置料のほかに、矯正具の交換や経過観察の受診ごとに費用がかかり、治療の完了までに数回の通院が必要であった。来院した患者から「ホームページの金額と違う」という声が続いたことを受けて、院長は、治療の流れ、標準的な通院回数と期間、総額の目安、起こり得るリスクを1つのページにまとめて示すよう改めた。問い合わせの電話は減り、来院時の説明にかかる時間も短くなった。
小児科では、任意の予防接種の費用を院内には掲示していたが、ホームページには載せていなかった。保護者の多くは、予約の前にスマートフォンで費用を確認しようとする。掲載がなければ電話で問い合わせることになり、受付の負担も増える。院内掲示と同じ内容をホームページにも掲載し、価格を改定した際には両方を同時に更新する手順を定めたことで、問い合わせは大きく減った。
消化器内科では、自費の内視鏡検診の費用について、検査本体の費用のみを示していたため、鎮静剤の使用や生検を行った場合の費用が分からないという問い合わせが多かった。標準的な費用に加えて、追加の処置が必要となった場合の費用の幅を示したところ、検診を申し込む患者の不安が和らいだ。
価格の掲載で問題になりやすいのは、掲載した後の管理である。価格を改定した際に、院内掲示は改めたが、ホームページの更新を制作会社に依頼し忘れた、あるいは予約システムの価格表示が古いままだったという事態は珍しくない。掲載の場所が増えるほど、更新の漏れは起こりやすくなる。
これを防ぐには、価格の掲載場所の一覧をつくり、改定の際にはその一覧に沿ってすべての場所を同じ日に更新する手順を定めておくことが有効である。更新の責任者を1人決め、年に1度はすべての掲載場所を点検する。ホームページの制作や更新を外部に委託している場合も、掲載の内容に対する責任は医療機関にあることを忘れてはならない。
開業準備中の医師にとっては、ホームページを制作する段階が、価格の掲載と院内掲示事項のウェブ掲載を設計する好機である。開業後に追加しようとすると、ページの構成を変える手間がかかる。制作会社に依頼する際には、保険外負担の一覧と自由診療の各ページに必要な記載事項を、最初から要件として示しておくべきである。
価格を正確に示すことは、法令を守るためだけの作業ではない。患者は、受診する前に価格を知ることができれば、安心して予約を取ることができる。来院後に予想外の費用を告げられる経験は、医療の内容がどれほど優れていても、クリニック全体への不信につながる。価格の表示は、患者がクリニックと最初に接する体験の一部である。
自院のホームページを、医療広告等ガイドラインの事例解説書と照らし合わせて点検し、院内掲示とホームページの内容を一致させることから始めたい。医療広告の全般についてはVol.1223で扱ったが、本稿では価格の表示に絞って整理した。次稿Vol.1267では、保険診療と自費診療の境界を、患者にどう説明し、どう同意を得るかを検討する。