Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
厚生労働省の令和5年受療行動調査によれば、一般病院の外来患者のうち、全体として病院に「満足」していると回答した者は63.7%、「不満」と回答した者は4.4%であった。この調査は病院を対象としたものであり、診療所の患者の状況とは異なるが、多くの医療機関で患者満足度を調査すると、同様に満足の割合が高く、不満の割合は低くなる傾向がある。
しかし、満足度が高いという結果は、改善すべき点がないことを意味しない。患者は、医療機関に対して否定的な評価をすることをためらいやすい。また、「満足していますか」という問いは、患者がどの場面のどの経験を思い浮かべて答えたのかが分からないため、結果を具体的な改善につなげにくい。満足度の数字が高いまま、口コミには不満が書き込まれ、患者が静かに他院へ移っていくということは珍しくない。
そこで注目されているのが、患者体験を問う調査の考え方である。満足したかどうかを尋ねるのではなく、受診の過程で実際に何が起きたかを尋ねる。たとえば、予約の時間からどれくらい待ったか、待ち時間の目安を知らされたか、医師の説明で分からないことがあったときに質問できたか、検査や薬の目的を説明されたか、会計で費用の内訳を確認できたか、といった問いである。
体験を問う設問は、回答が事実に近いため、改善すべき点が具体的に浮かび上がる。「待ち時間に満足していない」という回答からは対策を考えにくいが、「待ち時間の目安を知らされなかった」という回答が多ければ、目安を伝える仕組みをつくればよいことが分かる。
患者体験の調査というと大がかりなものを想像しがちであるが、小規模なクリニックでも実施できる。設問は10問程度に絞り、会計時にQRコードを示して、スマートフォンから匿名で回答できる形にすれば、職員の負担はほとんどない。調査は常時行うのではなく、年に2回、それぞれ2週間程度の期間を決めて実施すると、結果を比較しやすくなる。
設問は、予約と受付、待ち時間、診察と説明、検査や処置、会計、院内の環境という受診の流れに沿って組み立てる。それぞれについて体験を問う設問を置き、最後に自由記述の欄を設ける。自由記述には、設問では拾えない具体的な指摘が書かれることが多く、改善の手がかりとして最も価値が高い。
設問は、患者が「はい」「いいえ」や頻度で答えられる形にすると、結果を比較しやすい。予約と受付については、予約の取り方が分かりやすかったか、受付で待ち時間の目安を伝えられたか。待ち時間については、予約の時刻からどれくらい待ったか。診察と説明については、医師の説明で分からない言葉があったか、質問したいことを質問できたか、検査や薬の目的を説明されたか。会計については、費用の内訳について質問できる雰囲気だったか。院内の環境については、待合室で不快に感じたことがあったか。このように、受診の流れに沿って、具体的な体験を1つずつ尋ねていく。
最後に、「この受診で最も改善してほしいと感じたことは何か」という自由記述の問いを置くと、患者が最も強く感じた体験が書かれやすい。調査票の作成にあたっては、患者が5分程度で回答できる分量にとどめることが、回答率を保つうえで重要である。
調査の結果を読む際には、誰が回答しているかに注意が必要である。調査に回答するのは、現に受診している患者であり、不満を感じて通院をやめた患者は含まれない。満足度が高く出やすい理由の1つは、ここにある。
通院をやめた患者の体験を知るためには、別の工夫が要る。定期的に通院していた患者が来なくなった場合に、その理由を電話で尋ねる機会を設けているクリニックもある。すべての患者に連絡する必要はないが、慢性疾患で継続的に通院していた患者が途絶えた場合は、医療上の理由からも連絡する意味がある。その際に、受診をやめた理由を尋ねれば、調査では拾えない体験が分かることがある。
調査の結果は、院長が1人で読むのではなく、職員と一緒に読むことが重要である。患者の体験の多くは、受付、会計、検査、処置など、院長以外の職員が関わる場面で生まれている。結果を共有し、どの場面の何を変えるかを職員と話し合えば、改善の担い手が明確になる。
改善の対象は、一度に多くを選ばないほうがよい。結果の中から2つか3つの課題を選び、次の調査までに改善に取り組む。次の調査で同じ設問の結果が改善していれば、その取り組みが機能していることが確認できる。この繰り返しが、患者体験を継続的に高める仕組みとなる。
改善の取り組みを選ぶ際には、費用がかからず、すぐに始められるものを優先するとよい。待ち時間の目安を伝える、説明の書面を用意する、掲示を分かりやすくするといった取り組みは、設備投資を伴わずに実施できる。大きな投資を伴う改善は、こうした小さな改善を積み重ねた後でも遅くない。
循環器内科のあるクリニックでは、患者体験の調査を初めて実施したところ、満足度の設問ではほとんどの患者が満足と答えていたにもかかわらず、「検査結果の説明を次の受診まで待たなければならなかった」という体験を挙げた患者が多かった。血液検査の結果が当日に出ないため、結果の説明が次回の受診になっていたのである。院長は、結果に異常がない場合には郵送やオンラインで通知し、異常がある場合には早めに連絡する仕組みを整えた。次の調査では、この設問の結果が大きく改善した。
耳鼻咽喉科で日帰り手術を行っているクリニックでは、手術を受けた患者に限定した調査を実施した。手術そのものへの評価は高かったが、術後の自宅での過ごし方や、出血などの異常があった場合の連絡方法について、説明を受けた記憶がないと答える患者が一定数いた。説明はしていたが、手術直後の患者は説明を覚えていないことが多い。そこで、術後の注意事項を書面にまとめ、付き添いの家族にも説明するよう改めた。
整形外科では、リハビリテーションの通院患者を対象に調査を行ったところ、リハビリテーションの内容には満足している一方で、受付から施術開始までの待ち時間の目安が分からないことへの不満が多かった。院長は、受付時に施術開始までのおおよその時間を伝える運用を始めた。待ち時間そのものは変わらなくても、目安が分かることで患者の受け止め方は大きく変わった。
調査の結果は、院内で共有し、改善の取り組みを患者に伝えることにも使える。「皆さまのご意見を受けて、検査結果の通知方法を改めました」といった院内掲示は、患者が自分の声が届いたと感じる機会となる。ただし、満足度の数値などを広告に用いることには医療広告等ガイドライン上の制約があるため、結果は改善の材料として院内で活用することを基本とすべきである。
開業準備中の医師にとっては、開業から3か月程度が経過した時点で最初の調査を行うことを勧めたい。開業直後の運営には、院長も職員も気づいていない不具合が多い。早い段階で患者の体験を確認し、修正しておけば、その後の患者の定着に大きく影響する。
患者体験の改善は、患者の満足を高めるだけでなく、経営上の成果にもつながる。説明が分かりやすく、受診の流れが円滑なクリニックでは、患者が通院を続けやすく、他院への流出も少ない。口コミにも好意的な内容が増える。Vol.1228では待ち時間の設計を扱ったが、患者体験の調査は、待ち時間に限らず、受診の過程全体を点検するための道具である。
呼吸器内科や消化器内科のように、慢性疾患の患者が長期間通院する診療科では、患者体験の改善が通院の継続に直結する。通院のたびに小さな不便や不安を感じていれば、患者は症状が落ち着いた時期に通院をやめてしまう。体験の改善は、医療の継続性を支える取り組みでもある。
院長が自院の患者体験を把握していなければ、改善の優先順位は院長の印象で決まる。体験を問う調査は、院長の印象と患者の実際の体験との差を明らかにする。その差を埋めていくことが、患者に選ばれ続けるクリニックの条件である。次稿Vol.1269では、患者の体験が外部に表れる場である口コミとの向き合い方を検討する。