Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
患者が初めて受診するクリニックを探すとき、地図検索サービスの口コミを参考にすることは、今や一般的な行動である。星の数と書き込まれた内容は、ホームページ以上に患者の判断に影響することがある。医師にとっては、診療の内容を理解しているとは限らない患者の評価によって自院が判断されることへの違和感もあるだろう。しかし、口コミが患者の受診行動に影響している以上、それとどう向き合うかは経営上の課題である。
口コミと向き合う第1歩は、自院の口コミを定期的に確認することである。月に1度、担当者を決めて確認し、新しい口コミの内容と評価の推移を記録する。院長がすべてを読む必要はないが、否定的な内容や、診療に関わる具体的な指摘については、院長に報告する仕組みをつくっておく。
あわせて確認すべきは、地図検索サービスに表示される自院の基本情報である。診療時間、休診日、電話番号、予約の方法などが古いままになっていると、患者は誤った情報をもとに来院し、その不満が口コミに書かれることになる。口コミの内容の多くは、こうした基本的な情報の誤りから生じていることもある。
まず確認しておくべきは、口コミを操作しようとすることの危険である。2023年10月1日から、広告であることを隠して行う表示、いわゆるステルスマーケティングが景品表示法の規制対象となった。この規制による初めての措置命令は、2024年6月、都内の内科クリニックを運営する医療法人に対して出された。このクリニックでは、インフルエンザワクチンの接種に訪れた人に対し、地図検索サービスに星5または星4の評価を投稿することを条件に、接種費用を550円割り引いていた。消費者庁がステマと認定した口コミは45件であった。
この事例が示すのは、割引や特典を条件に高評価の投稿を依頼することは、たとえ少額であっても違法となり得るということである。また、医療広告等ガイドラインでは、医療機関が費用負担などの便宜を図って患者に体験談を掲載させることは広告に該当し、自院のホームページに患者の体験談を掲載することも禁止されている。口コミを増やそうとする善意の取り組みが、法令違反につながる可能性があることを、院長は認識しておく必要がある。
好意的な口コミを、自院のホームページに転載したいと考える院長もいるだろう。しかし、医療広告等ガイドラインでは、患者の体験談を医療機関のホームページなどの広告に掲載することは禁止されている。地図検索サービスに投稿された口コミであっても、それを医療機関が自らの広告に引用すれば、体験談の掲載に該当するおそれがある。好意的な口コミは、それが書かれた場所にあることで価値を持つのであり、自院の広告として使うことはできない。
口コミへの返信は、多くの地図検索サービスで医療機関が行うことができる。返信を行う場合に最も注意すべきは、守秘義務である。口コミを投稿した人が誰であるかを推測できても、その人の受診の事実や診療の内容に触れることは許されない。「○月○日の受診の際は」「お薬の件ですが」といった返信は、投稿者が患者であることを認めることになり、個人情報の取扱いとして問題がある。
返信は、投稿者個人に向けて書くのではなく、その返信を読む他の患者に向けて書くと考えるとよい。否定的な口コミに対しては、事実関係を争ったり反論したりするのではなく、ご指摘を受け止めること、改善に取り組むこと、直接の相談窓口があることを、簡潔かつ丁寧に伝える。感情的な反論は、それを読んだ他の患者の印象を大きく損ねる。
中には、事実と異なる内容や、職員を誹謗中傷する内容の口コミもある。2024年4月には、不当な口コミが削除されないとして、医師らが地図検索サービスの運営会社に損害賠償を求める訴訟を起こしたことも報じられた。明らかに事実に反する投稿や、特定の職員の名前を挙げて中傷する投稿については、サービスの運営者に削除を求める手続きがある。それでも解決しない場合には、弁護士に相談することも選択肢となる。
ただし、削除を求めることができるのは、規約に反する投稿や権利を侵害する投稿に限られる。否定的であっても患者の率直な感想である口コミを削除させることはできないし、そうしようとすることは、かえって患者の不信を招く。
口コミとの向き合い方で最も重要なのは、口コミを改善の材料として使うことである。否定的な口コミの多くは、待ち時間、受付の対応、説明の不足、院内の環境など、具体的な体験に関する指摘である。Vol.1268で述べた患者体験の調査と同じく、口コミは患者の体験を知る手がかりとなる。
呼吸器内科のあるクリニックでは、「吸入薬の使い方の説明がなかった」という口コミが複数寄せられた。院長は当初、説明はしていると考えていたが、確認すると、混雑する日には説明が簡略になっていたことが分かった。吸入指導を看護師が担う体制を整え、説明の手順を統一したところ、同様の口コミは見られなくなり、吸入の手技に関する説明を評価する口コミが書かれるようになった。
皮フ科・形成外科では、「手術の傷について説明が少なかった」という口コミを受けて、術後の経過と傷あとの変化について説明する書面を作成した。小児科では、「電話がつながらない」という口コミが続いたことから、Web予約の導線を見直し、電話の自動応答で予約方法を案内するようにした。いずれも、口コミそのものに反論するのではなく、口コミが示す体験を改善した例である。
改善に取り組んだ後は、その口コミに対する返信で、改善の内容を簡潔に伝えることもできる。ただし、その場合も投稿者の受診の事実には触れず、「待ち時間についてのご意見を受けて、予約の枠を見直しました」というように、クリニック全体の取り組みとして記載する。返信は、口コミを読んだ他の患者に対して、このクリニックは患者の声を受け止めて改善するという姿勢を示す機会となる。
整形外科のあるクリニックでは、「受付の職員の態度が冷たい」という口コミが続いた。院長が状況を確認すると、混雑する時間帯に受付の人員が不足しており、職員が電話と窓口の対応に追われて患者に目を向ける余裕がなかったことが分かった。院長は、混雑する時間帯に受付の応援に入る職員を決め、電話の一部を自動応答に切り替えた。口コミが指摘していたのは職員の人柄ではなく、業務の設計の問題だったのである。
職員の名前を挙げた否定的な口コミは、その職員にとって大きな負担となる。院長は、口コミの内容を職員の個人的な責任として扱うのではなく、業務の仕組みの問題として受け止め、職員を守る姿勢を示す必要がある。そうでなければ、職員は口コミを恐れて萎縮し、かえって患者対応の質が下がる。
好意的な口コミを増やしたいと考える院長は多い。特典を付けずに、患者に口コミの投稿を案内すること自体は、直ちに禁止されるものではないが、高評価の投稿だけを依頼したり、投稿の内容を確認したりすれば、ステマと判断されるおそれがある。最も確実で安全な方法は、患者の体験を良くすることである。良い体験をした患者は、依頼されなくても好意的な口コミを書くことがある。
開業準備中の医師にとっては、開業前の内覧会や開業直後の時期に、知人や関係者に口コミの投稿を依頼したくなることがあるかもしれない。しかし、実際に受診していない人の投稿や、関係者であることを明らかにしない投稿は、患者を誤認させる表示となり得る。開業直後の口コミが少ない時期は、地図検索サービスの基本情報とホームページの内容を正確に整えることに力を注ぐべきである。
口コミの評価は、クリニックの患者体験の結果として表れるものであり、それ自体を目標にすべきではない。口コミを操作しようとするクリニックは法令上の危険を負い、口コミから学ぼうとするクリニックは診療を改善する。集患や情報発信についてはVol.1204やVol.1218で扱ったが、本稿では口コミに絞って整理した。次稿Vol.1270では、物価が上昇する中で避けて通れない、自費や文書料の価格改定をどう患者に伝えるかを検討し、本特集を締めくくる。