2018.01.22
クリニック奮闘記
Vol.55 クリニックの社会的信用は何ではかる?
Cクリニックは地元でも超有名な整形外科です。
診察室では、漫談を聞いているかの様な軽快な口調で、暗い顔をして入ってきた患者も帰るころには笑顔
が見られます。
そんな院長のキャラクターだけでなく、親身なってくれるPTさんや看護師さんに支えられて外来は連日大
忙しです。院内は患者で溢れかえり、車椅子の通行もままならない程です。
手狭になったクリニックを、C院長は10年の節目に、近隣で売りに出ている土地を購入してクリニックを
新築することを検討しています。
早速、取引先の銀行の担当者を呼んで、融資の相談をすることにしました。
C院長 「隣地を購入してクリニックを新築したいのだが、融資してもらえるだろうか?」
銀行員 「土地の購入資金が1億円で、2階建てのクリニックの建築費用が7千万円。
他に器械の移設費用を考えると2億円近くの資金が必要ですね。」
C院長 「融資の目途がついたら、土地の取得に向けて動こうと思うので宜しく頼むよ。」
暫くして銀行の担当者から返事がありました。
内容は院長の意考えていた金額とは程遠いもので、土地の購入資金も調達できない結果となりました。
C院長 「これだけ流行っているのに、2億円の融資がどうしてできないんだね。」
銀行員 「決算書を吟味した結果、返済可能なキャッシュフローが足りないと判断しました。
現在のキャッシュフローで融資できる額は●●千万円です。」
C院長 「それでは、クリニックの新築は無理だなぁ。何とかならないものかね?」
銀行員 「・・・・・・・・」
(まとめ)
新規開業の際に銀行から調達できる設備資金は、5000万円から7000万円。
(借り入れ条件等については個々の案件によって異なります。)
クリニックの開業時には実績がありませんので、これは医師という職業に対しての「信用貸し」による融資です。
最悪の場合、銀行としては、所有不動産の売却、または勤務医に戻った場合に給料から返済可能な金額を
ベースに考えられています。
ところが、一旦、開業した後は、「事業実績」が全ての判断基準になります。
返済可能な原資(キャッシュフロー)がいくらあるのかを見られるのです。
赤字であれば返済原資が無い訳ですから、基本的には銀行融資は受けられないと考えなければなりませ
ん。では、今回のCクリニックの場合はどうでしょうか?
(2億円の返済)
金利年1% 返済期間15年 元金返済100万円/月 利息20万円 合計120万円/月
金利は必要経費に入りますので資金繰りへのインパクトは小さいですが、元金返済は会計上は経費として
は認識されません。すなわち事業所としては元金返済部分のキャッシュフローがないと支払不能というこ
とになります。(実際にはこれに納税資金分も上乗せされます。)
銀行としては、この返済原資(キャッシュフロー)が十分でないと判断したのです。
また購入予定の不動産に着眼しますと、建物本体は木造であれば20年で減価償却し経費化されていきます
(鉄筋の場合は50年)が、土地は減価償却することができないため、1億円は全額を内部留保金(貯金)で
賄わなければなりません。
Cクリニックの場合における銀行の判断としては、1億円の貯蓄がないこと(不足していること)を第一に
問題視し、次に毎月の返済原資(キャッシュフロー)の乏しさをあげています。
コンサルタントの立場からアドバイスできることは、以下のとおりです。
・内部留保(貯蓄)にあった土地の購入を検討すべき。現状を超える投資を検討するのであれば、収入の
伸び率の把握と根拠のある増収対策を立案すること
・法人であれば役員報酬を減額し、内部留保の拡充に努めること
最期に一番大事にことは、「納税していること」です。「納税」は黒字であることの何よりの証明となり
ますし、利益を計上し納税するというプロセスを踏まない限り内部留保を拡充することはできないからで
す。節税することは、もちろん重要ですが、もっと大事なことはクリニックの経営の安定化です。
医師としての個人の信用は絶大であるかもしれませんが、クリニックの場合、医療法人であったとして
も、その信用の尺度は事業の継続化以外にはありません。
これから確定申告を迎えますが、この機に「納税」について再考してみては如何でしょうか。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
(参考)
Vol. 3ウチのクリニックの経営は大丈夫(3ケ月遅れの試算表では遅すぎる意思決定)
https://medical-takt.com/backnumber/2017/report15.html
Vol.13事業計画って絵餅じゃないの?
https://medical-takt.com/backnumber/2017/report47.html
Vol.16 クリニックで黒字倒産の危機
https://medical-takt.com/backnumber/2017/report50.html
Vol.38 節税目的で購入した器機の末路
https://medical-takt.com/backnumber/2017/report96.html
Vol.45一番大きな支払いは何?答えは、「税金」
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report115.html
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