2018.03.07
クリニック奮闘記
Vol.87 その医療法人、承継して大丈夫ですか?3(架空請求)
前2回でクリニックの事業承継(M&A)の際のチェックポイントとして、「脱税」「行政指導」について
解説させて頂きました。今回は、M&A(事業承継)の対象クリニックがレセプト請求において水増し請求
(架空請求)している可能性(リスク)について解説していきたいと思います。故意による架空水増し請
求は言うまでもありませんが、知識経験不足等による場合もあります。(電子カルテが主流の現在は、知
識不足による過大請求はシステム上、起こりにくくなっています)本稿は、実際にあった事例を基にした
フィクションですが、これからクリニックの事業承継(M&A)を検討している先生方には、興味深いお話
しになるのではないでしょうか。
知り合いの医療コンサルタントからの紹介で、A先生はクリニックのM&A(事業承継)を検討していま
す。
コンサルタント「年間医業収入1億円。理事報酬込みの医療法人の年間利益4000万円。
売却希望価格は5000万円です。(営業権含む)」
A先生 「この値段なら自己資金と銀行借り入れで調達できそうです。前向きに進めてもらえないで
しょうか。」
財務的なデューデリジェンス(買収監査)の上、特段の問題もなかったため、基本合意契約締結から本契
約、引渡しと半年足らずの間に事業承継(M&A)は完了しました。
ところが事件は事業承継(M&A)後に発覚します。
A先生 「年間医業収入1億円と聞いていたけど、月間700万円にしかなりません。
レセプト数はM&A前と同じ位あるのですが、どういうことですか?」
コンサルタント「診療単価が低い様ですね。診療の中味は我々にはわかりませんが、以前の先生のスタイ
ルとは診療方針が変わったのではないのですか?」
A先生 「前の先生とは、診療内容については細かく打ち合わせたので、大きな変化はないはずで
す。レセプトの専門家に調べてもらいます!」
ということで、レセプト内容の精査を専門御者に依頼したところ「架空請求」が判明しました。驚いたこ
とに事務スタッフも共謀しており、クリニックぐるみで行っていたのです。
架空請求ですから、正規のルールに従ってレセプト請求しているA先生が、同じだけの医業収入をあげるこ
となどできるはずがありません。
購入代金には1億円の医業収入に対する営業権(のれん代)の評価が入っていますので、A先生は売買価格
(営業権)の評価が不当であるとして、弁護士を通じて相手方にクレームをつけることにしました。
(まとめ)
クリニックのM&A(事業承継)の際には、財務的なデューデリジェンス(買収監査)だけでなく、診療行
為(レセプト内容)についても精査をする必要があります。本件の様に架空請求のチェックの意味もあり
ますが、クリニックをM&A(事業承継)した後に、同様の診療行為を継承できるかも検証しなければなら
ないからです。一般の会社であればあれば、取り扱っている商品や、販路などが会社財産として営業権の
評価になりますが、クリニックの場合、医業収入の根拠のとなるのは「医師」であり「診療行為」です。
とどのつまり、ここを引き継ぐことが、クリニックのM&A(事業承継)の本質ということになります。
本件の場合、診療行為の精査を行っていなかったため、「架空(不正)請求」が発見できませんでした。
レセプト単価を他のクリニックと比較すれば、もしかしたらチェック機能が働いたかもしれません。そう
いう意味においては、M&Aを仲介したコンサルタントにも過失があると言えます。現実的にはクリニック
をM&A(事業承継)した後で、契約を白紙に戻すことは難しく、訴訟を起こして公けにすることも得策で
はありません。
売主側の医師と話し合いの結果、以下の様に結論付けました。
・営業権についてはゼロ評価
・過去2年間分の架空(不正)請求のレセプトについては自主返還する
・クリニックM&A(事業承継)前のレセプトについて保険者から指摘を受けた場合、速やかに対応する
・クリニックM&A(事業承継)前のレセプト請求に関して、現在の事案以外に問題が発生した場合、速や
かに対応する
コンサルタントの立場としては、この様なトラブルが起こらない様に、譲渡希望クリニック(医療機関)
の精査は、しっかりと行っていきたいと思います。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
◆クリニックM&A(事業承継) 関連のバックナンバー◆
Vol.65迷惑をかけないクリニック経営
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Vol.80その医療法人、承継して大丈夫ですか?1(過去の脱税歴ほか)
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Vol.81その医療法人、承継して大丈夫ですか?2(過去の行政指導)
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