Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
11月に入り、朝の待合室に鼻をすする音が増えてきた。私が耳鼻咽喉科クリニックを開業して8年目になる。地方都市の住宅街にある、診察室1つの小さな医院だ。
先週の月曜日、月初のレセプト点検を終えた医療事務の田中さんが、初診料の算定件数を書いたメモを机に置いていった。10月の新患は、前年の同じ月とほぼ同じ数だった。数字そのものに不満はない。ただ、メモを眺めているうちに、疑問が浮かんだ。
(この新患の方々は、どうしてうちを選んでくれたのだろう)
答えが出なかった。8年も続けてきて、患者さんがうちを知ったきっかけを、私は何ひとつ数えていなかったのである。
気になって、初診の問診票を束で取り出し、1枚ずつ見てみた。「ご来院のきっかけ」という自由記載欄が下のほうにある。開業時に何となく付けた欄だ。
半分以上が空欄だった。書いてある欄も「近所」「紹介」「ネット」といった短い言葉ばかりで、誰の紹介なのか、どの経路なのかが読み取れない。これでは、記録しているとは言えない。
(広告や掲示物にお金や手間をかける前に、そもそも自院の患者さんがどこから来ているのかを知らなければ、打ち手の当てようがない)
クリニック経営の相談を受けていると、集患の話はたいてい「何をするか」から始まる。だが、順序は逆だと思う。先に確かめるべきは、いま実際に起きていることだ。患者さんが来てくれた理由を数えられない医院は、増えた月も減った月も、原因を言い当てられない。
田中さんは、初診料の件数を毎月きちんと数えている。それでも「なぜ来たか」は、レセプトのどこにも書かれていない。請求の数字は、起きた結果は教えてくれても、その理由までは語らないのである。
私には苦い記憶がある。3年前の春、花粉症の患者さんが減った年があった。私はてっきり、近くに新しい耳鼻咽喉科ができたせいだと思い込んだ。そこで、待合室のポスターを作り替え、季節の案内を増やした。結果は、ほとんど変わらなかった。
後から分かったのは、減った原因が別のところにあったことだ。毎年のように紹介をくださっていた近隣の歯科医院が、院長の交代で連携の窓口が変わっていた。私はそれに気づかず、見当違いの対策に半年を費やした。
(あのとき、紹介元ごとの人数を数えていれば、1か月で分かったことだ)
当て推量で動くと、手間は無駄になり、本当の原因は放置される。数字を取るのは面倒だが、取らない面倒のほうがはるかに高くつく。
そこで、問診票を作り直すことにした。自由記載をやめ、選択式にする。ただし、選択肢を並べるだけでは、また空欄が増えるだけだ。実際に記入を促すのは、受付で声をかける職員である。
朝礼のあと、受付の佐藤さんと田中さんに事情を話した。患者さんに失礼なく、負担をかけずに聞くにはどうすればいいか。2人から出た意見が、私の考えより実用的だった。
「問診票をお渡しするときに、『この欄だけ、教えていただけると助かります』と添えましょう。理由を添えたほうが、書いていただけます」
「紹介元のお名前は、医院名まで書いていただかなくていい。『歯科の先生』『小児科の先生』くらいの分類で足りますよね」
これは医療事務スタッフ教育の場面でもあると思う。受付の仕事は、受け付けて終わりではない。聞いた情報が経営の判断材料になる、と理解して初めて、聞き方に工夫が生まれる。私は、集計の目的を2人に隠さずに話した。目的を知った職員の質問は、驚くほど自然になった。
新しい問診票の選択肢は、次の3つの考え方で整理した。
個人情報の扱いにも気を配った。この欄は、来院経路の集計にだけ使うと問診票の下に明記した。患者さんに「何のために聞くのか」を伝えるのは、当たり前の礼儀である。
導入して最初の週に、小さな出来事があった。小学生の男の子を連れた母親が、問診票の選択肢を眺めて、「ここは保育園の先生に聞いて来ました」と受付で話してくれたのだ。佐藤さんがそれを聞いて、「園の先生が、うちを案内してくださっているんですね」と嬉しそうに教えてくれた。
(こうした声は、これまで受付の耳に入っても、そこで消えていたのだ)
職員が拾った声が記録に残り、院長の机に届く。この流れができただけでも、問診票を変えた価値はあった。
新しい問診票を使い始めて3か月。田中さんが、新患の来院経路を月ごとに表へまとめてくれた。自院の問診票を集計した、おおまかな割合は次のとおりである。
| 来院経路 | 割合 | 気づいたこと |
|---|---|---|
| 家族・知人の紹介 | 約35% | 子どもの中耳炎をきっかけに、親が通い始めるケースが目立った |
| 他院からの紹介 | 約25% | 歯科医院と小児科医院で大半を占める |
| インターネットで検索 | 約25% | 「めまい」「耳鳴り」の検索が意外に多い |
| 通りがかり・その他 | 約15% | 看板を見て入った人はごくわずか |
意外だったのは、最後の行だ。私は長いあいだ、道路沿いの看板が集患を支えていると信じていた。実際は、看板を見て来院した人はごくわずかだった。
もうひとつ、表には載せなかったが、再診につながった割合も見た。紹介で来た患者さんほど、治療の完了まで通い続ける傾向がある。入口の経路と、その後の通院の続き方は、無関係ではなかった。
(看板の維持費を払い続けるより、紹介してくださる先生方に、お礼と情報提供をきちんとするほうが、よほど効く)
反対に、紹介の4分の1を占める他院の内訳を見て、頭を抱えた。紹介元の多くが、3年前に連携の窓口が変わった歯科医院ではなかったのだ。つまり、あの歯科医院との連携は、まだ戻っていない。数字は、思い込みを容赦なく崩してくれた。
集計を続けて気づいたことがある。来院経路の表は、レセプトの数字と組み合わせると、読み方が深まる。
たとえば、紹介で来た患者さんの傷病名を見る。めまいや難聴の相談が多い紹介元には、検査の体制を案内する。小児の中耳炎が多い紹介元には、日帰りの処置や通院の目安を知らせる。紹介元ごとに伝える情報を変えられるのは、請求の側にも蓄積があるからだ。
私の医院では、請求業務は職員が自分たちで行っている。ただ、知人の院長が、レセプトの外注を始めてから、毎月の傷病名別・年齢別の集計表を受け取れるようになったと話していた。請求の作業が終わるときに、集計まで整うのだそうだ。そうしたレセプト代行・レセプト請求代行サービスの内容を確認すると、請求の作業時間を減らすだけではなく、経営判断の材料が増えることも、選ぶときの視点になると分かった。
もちろん、外注に出せば何でも解決するわけではない。何を自院に残し、何を任せるかは、院長が決めることだ。自院で請求を続けるにしても、月初の点検の流れで来院経路を並べておけば、手間はほとんど増えない。大事なのは、請求を単なる事務作業で終わらせず、経営の情報として使うという姿勢である。
ここまでの話を、経営の目で整理しておきたい。来院経路の記録は、マーケティングの道具であると同時に、人の育成と、請求の質と、財務の見通しにも触れている。集患だけを切り離して考えると、数字はどこかで途切れてしまう。
受付の職員が「聞く」、事務の職員が「数える」、院長が「読んで動く」。この3つの役割がつながったとき、小さな医院でも、大きな組織と同じ水準で意思決定ができる。私が得た最大の収穫は、実はこの流れそのものだった。
集計を始めて、別の気づきもあったことがある。私もいつかは診療所の承継を考える時期が来る。その場面でM&Aの相手や後継の先生が最初に知りたがるのは、患者さんがどこから来て、どれだけ通い続けているかだ。
特定の院長の人柄だけで来ている医院と、複数の紹介元や地域の接点に支えられている医院とでは、引き継いだ後の見通しがまるで違う。来院経路の記録は、自院の価値を説明する材料になる。
実際に、承継の相談を受けた同業の院長から聞いた話がある。買い手側の医師は、売上や設備より先に、「紹介元の顔ぶれ」を尋ねたという。院長個人に依存した患者の流れかどうかを、見極めたかったのだ。
(8年分の記録はないが、いまから積み上げれば、5年後には立派な資料になる)
数字を取る習慣は、院長が代わっても残る。診療所承継(M&A)を考える院長にとって、数えてきた年数はそのまま信頼の根拠になる。
私はまず、次の3つに手を付けた。どれも、特別な費用はかからない。
先週、久しぶりに、連携が途切れていた歯科医院の先生へ手紙を書いた。紹介の御礼と、最近の患者さんの経過報告、そして検査体制の変更の案内を同封した。返事が来るかは分からない。
田中さんは、次の月初の点検から、来院経路の表に「紹介元の分類」の列を足してくれるという。佐藤さんは、受付に置く案内の文面を、保育園や学校向けに作り直したいと言い出した。院長の思い付きだった取り組みが、職員の提案で育ち始めている。
それでも、まずは動いてみようと思う。花粉の季節が来る前に、地域との接点を改めてつなぎ直すつもりだ。皆さんの医院では、新患の方々がどこから来ているか、答えられるだろうか。
レセプト外注先をお探しならメディカルタクトへ
レセプト代行ならメディカルタクトへお任せください。
https://medical-takt.com/