Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
10月に入り、当院の待合室は朝から子どもの咳と鼻水の音で満ちている。開業して7年目の小児科だ。午前と午後の外来を終え、最後の親御さんを見送ったとき、時計はもう午後8時を回っていた。それから紹介状の返事を書き、薬剤会社の見積もりを確認し、ようやく机に向かったのが午後10時である。
机の上には、来月の勤務表、パート職員の時給の見直し依頼、そして先月分の窓口収入の集計が積まれている。どれも「院長が決めなければ前に進まない」ものばかりだ。
(診療は嫌いじゃない。でも、これは経営をしている時間なのか。ただ片づけているだけじゃないのか)
そう自問して、ふと気づいた。この7年間、私は「診療の合間に、余った時間で」経営をしてきた。余らなければ、経営は後回しになる。今月は余った時間がなかったから、先月の数字を見たのは3日前、しかも合計額だけだった。
翌朝、始業前の30分を使って、院長しかできないと思い込んでいた仕事を紙に書き出してみた。書き出してみると、思ったより多い。シフトの調整、備品の発注の最終承認、保護者からの意見への返信、請求の確認、スタッフとの面談、取引先との打ち合わせなどが並んだ。
次に、それぞれの横に「院長でなければならない理由」を書いた。理由が書けないものが、半分近くあった。惰性で自分の机に集まっていただけである。
(誰かに渡せる仕事を、私は渡す練習をしてこなかっただけだな)
この作業は、以前読んだ院長がいなくても診療所は動くか ― 院長依存度の可視化と事業承継の障害の考え方を、そのまま自院に当てはめたものだ。院長に集まる仕事を見える形にしない限り、手放す順番も決められない。
次に決めたのは、経営の時間を余り時間から切り離すことだった。診療の時間割と同じように、毎週木曜日の午後休診の枠に、90分だけ「経営の時間」を固定した。予定表には診察と同じ濃さの色で書き込み、その時間は電話も取り次がないことにした。
90分という長さには理由がある。30分では数字を開いただけで終わってしまうし、3時間では他の予定に押されて続かない。まずは続けられる長さを選び、1か月で様子を見ることにした。
最初の木曜日は、正直なところ何も決まらなかった。数字の見方から迷ったからだ。それでも、診療と無関係な90分を机の前で過ごしたこと自体が、私には新鮮だった。
経営の時間に何を見るか。あれもこれもと広げると、また余り時間の仕事に戻ってしまう。そこで、月に1回ではなく毎週確認する数字を、次の5つに絞った。
数字を絞ると、見る時間も短くなる。5つなら、15分で見終えられる。残りの75分は、数字から見えた問題をどう直すかを考える時間に使えた。
この考え方は、院長の財布と医院の財布は同じではない ― 月次の数字を自分で読むための資金繰りの基本で整理した、月次の数字を自分で読むという姿勢の延長にある。月に1回だと、問題に気づくのが1か月遅れる。週に1回なら、気づきが4倍に増える。
5つの数字のうち、私が最も見逃していたのは、翌月の予約枠の埋まり具合だった。小児科は急な発熱の来院が多く、当日の受付が診療の中心になる。しかし乳児の健診や慢性疾患の再診のように、先に予約を入れられる枠も確かにある。
数字を並べると、水曜日の午前だけが毎週のように空いていた。水曜日は保育園の行事と重なる家庭が多いのかもしれない。理由は分からないが、空いている事実は確かだ。
(空いた枠は、翌月には取り戻せない。今のうちに手を打たなければ)
そこで、水曜日の午前を乳児健診の優先枠に切り替え、受付の職員から保護者への案内の声かけを増やしてもらった。広告を打つ話ではない。すでに通ってくれている家庭に、予約の選択肢を丁寧に伝えただけである。
2週間後、水曜日の午前の空きは半分ほどに減った。数字を週に1回見ていたから、問題に気づいて、すぐに小さな手が打てた。月に1回の集計だったら、この対応は翌月の話になっていた。
2週目の木曜日、数字の中で目に留まったのは、時間外労働だった。受付の職員が、毎週のように30分から1時間、残って請求関連の確認をしている。私は気づいていなかった。
(そういえば、先月も同じ職員が残っていたな。頼りすぎていたかもしれない)
翌日、その職員と5分だけ話した。「請求の確認が終わらないと帰れない状態でした」と、本人から率直な答えが返ってきた。診療が立て込む週は、確認の時間が取れず、結局は閉院後に回っていたのだ。
私はここで、職員全員に向けて、毎週の経営の時間で決めたことを1枚の紙にして貼り出すことにした。長い会議は開かない。決めたこと、担当者、期限の3点だけを書く。貼り出すようになってから、職員から「それは私がやります」という声が出始めた。院長が自分だけで決めて抱えていた頃には、なかった動きである。
時間外労働の原因を掘り下げると、レセプトの点検と、返戻への対応に行き着いた。当院では、受付の職員が日々の診療と並行して、月初に集中するレセプト業務を担っている。繁忙期には、どうしても後回しになる。
ここで私が考えたのは、レセプト外注という選択肢を、感情ではなく数字で比べてみることだった。社内の人件費、時間外手当、返戻による再提出の手間。これらを合わせると、見えていなかったコストがはっきりした。
調べるうちに、レセプト代行やレセプト請求代行にも、点検だけを任せる形から、請求業務全体を任せる形まで幅があることを知った。参考として、レセプト代行・レセプト請求代行サービスの内容も確認した。どこまでを自院に残し、どこから外に出すのか。その線引きは、院長が決めるしかない。
(任せるのは作業であって、責任じゃない。請求の中身を理解したうえで任せなければ意味がないな)
結論は急がないことにした。まず1か月、返戻の件数と、点検にかかる時間を記録する。経営の時間の議題に「請求業務の持ち方」を1行加え、データがそろった月に判断する。
最初に書き出した「院長でなければならない理由が書けない仕事」に戻る。3週目の木曜日、その中から1つだけ、備品発注の最終承認を事務の職員に渡すことにした。金額の上限を決め、それを超えるときだけ私に相談してもらう。
渡してみると、拍子抜けするほど何も起きなかった。発注は滞らず、むしろ以前より早く届くようになった。承認の列に並んでいた私の時間が、消えたからである。
手放すときのコツは、全面的に任せるのではなく、判断の基準を言葉にして渡すことだった。「いくらまでなら承認なしでよい」と決めてあれば、職員も迷わない。新人教育でも同じ構図を見てきた。新人の医療事務が3か月で辞める ― 教育を「先輩の頭の中」から「院内の仕組み」へ移すで書いたように、基準が頭の中にある限り、仕事は人に付いたままになる。
もう1つ、手放す仕事を選ぶ基準も決めた。判断に迷ったら、その仕事を院長が2週間休んだ場合に誰が困るかを考える。困る人がいないなら、そもそも続ける必要がない仕事かもしれない。困る人がいるなら、その人に基準を渡して任せる。この2択に分けるだけで、書き出したリストの見通しが驚くほどよくなった。
(全部を自分で持つ院長が、最も医院を弱くしているのかもしれないな)
経営の時間を続けて分かったのは、時間を確保することと、その時間を使いこなすことは別だということだ。最初の2回は数字を眺めるだけで終わった。3回目から、数字を見たあとに「では来週、何を変えるか」を1行だけ書くことにした。この1行が、次の木曜日の出発点になる。
1か月が過ぎた。夜10時まで残る日は、週に4日から1日に減った。机の上の書類が減ったわけではない。ただ、書類の山のどれが「今週決めること」で、どれが「来月でいいこと」なのかが、はっきり分かれた。
診察室でも、変化があった。保護者の話に耳を傾けながら、頭の隅で請求のことを考える癖が、少しずつ薄れてきた。経営の時間という入れ物ができたことで、診療中に経営の心配を持ち込まなくてよくなったのだ。
木曜日の夜、帰り支度をしながら、事務の職員が「今週の貼り紙、助かります。何をすればいいか分かるので」と声をかけてくれた。決めたことを見える形にしておくだけで、職員は動きやすくなる。院長の頭の中にあった経営が、院内の共通の言葉になった瞬間だった。
(余り時間でやる経営は、結局いつも負ける。時間割に入れて初めて、経営が診療と同じ重さになる)
もちろん、すべてが解決したわけではない。請求業務の持ち方はまだ結論が出ていないし、来年度の人員計画も手つかずだ。それでも、何を決めていないのかを把握できているだけで、以前の私とは違う。
今日もまた木曜日が来る。午後の休診の札を出し、診察室のドアを閉めて、5つの数字を開く。院長の仕事は診療だけではない。そう言い切れるようになったことが、この1か月の最大の収穫である。
レセプト外注先をお探しならメディカルタクトへ
レセプト代行ならメディカルタクトへお任せください。