Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
うちは駅前の耳鼻咽喉科クリニックである。秋の朝は、鼻炎や中耳炎の相談で電話が重なって鳴る。診察開始は9時だが、8時半には受付の2回線が両方とも話し中になり、ランプが消えない。
ある朝、受付の主任の佐藤さんが、患者さんを案内しながら受話器を肩に挟んでいるのが目に入った。窓口には保険証を出したまま待つ人がいて、電話の向こうでは「予約は取れますか」と繰り返す声がする。その横で、新人の事務員が何を優先すればいいのか分からず固まっていた。
(「また今日も電話に追われているな。人を1人増やせば済む話なのか? いや、そもそも何の電話が多いのかを、私は知らないぞ」)
診察室に戻ってからも、そのつぶやきが頭を離れなかった。電話は患者サービスの入り口である。ところが、その入り口が混むほど、目の前の窓口の患者さんへのサービスが落ちる。院長として、この矛盾を放置してきたことに気づいた。
対策を考える前に、実態を知る必要がある。私は佐藤さんに頼んで、1週間だけ、かかってきた電話を用件別に線で数えてもらった。特別な機器は使わず、受付の机にメモ用紙を1枚置いただけである。
集計は金曜の夕方に出た。予約の新規・変更・取り消しが最も多かった。次いで、診察や薬についての問い合わせ、そして保険証や自己負担額、領収書についての確認が続いた。残りは、提携先や業者からの連絡だった。
驚いたのは、「診察が必要かどうか」を判断しなければ答えられない電話が、全体のごく少数だったことだ。大半は、決まった手順で答えられる内容だった。にもかかわらず、受付職員は全部の電話を「その場の判断」でさばいていた。
(「これは職員の能力の問題ではない。電話の受け方を決めていなかった、私の経営の問題だ」)
数え始めてすぐ、もう1つ分かったことがある。同じ患者さんが、1日に2回、3回と電話をかけてくるのだ。1回目で予約が取れず、時間をおいてかけ直しているのである。つながらない電話は、受付の負担を増やすだけでなく、患者さんの不満も増やしている。
さらに、電話に出られなかった時間帯も記録してもらった。朝の30分と、昼休み明けの30分に、不在着信が集中していた。その時間は、窓口もいちばん混んでいる。電話と窓口が、同じ人の手を取り合っていたのである。
次に、数えた用件を4種類に分けた。種類ごとに、誰が、どの時間帯に、どの手段で対応するかを決めるためである。
4種類目の業者や提携先からの連絡は、受付で受けずに、事務長宛ての連絡先を伝える運用にした。これだけで、朝の電話がはっきり減った。
分類のコツは、「誰が答えるか」ではなく「いつまでに答えれば患者さんが困らないか」で線を引くことである。折り返しでよい電話を、その場で答えようとするから、受付が止まる。
集計を見て、もう1つ気づいたことがある。保険証や自己負担額についての電話の多くが、月初に集中していたのだ。保険証の確認が遅れると、請求の段階で資格の誤りが見つかり、あとでレセプトの修正に追われる。電話の多さと請求業務の手間は、同じ根から出ていた。
そこで、会計・保険の電話で聞き取った内容は、その日のうちに受付の記録へ残し、月末の点検で請求担当者が見られるようにした。窓口の電話が、そのまま請求前の点検材料になる。
請求業務の流れを整える方法には、院内で手順を整える道もあれば、外部の力を借りる道もある。レセプト外注を検討するなら、どこまでを自院に残すかを先に決めておくとよい。外注の費用の考え方は、過去記事の外注費は高いのか ― 内製の見えないコストと比較する費用対効果の測り方に整理した。
窓口で拾った保険情報の誤りは、請求の前に直すほど手間が小さい。私はレセプト代行・レセプト請求代行サービスの内容を読み、請求業務のどこまでを外に任せられるのか、自院の流れに当てはめて考える材料にした。
(「電話の整理と、請求の整理は別の話だと思っていた。実際は、同じ受付の仕事の前半と後半だったのか」)
折り返しの電話にも、決まりをつくった。折り返しは当日の診療が終わる前までに必ず行い、つながらなければ留守番電話に用件だけを残す。折り返しを約束したのに忘れることが、いちばん患者さんの信頼を損なうからだ。約束の記録は、受付の机のメモ用紙に時刻つきで残すことにした。
これで、電話に出られなかった患者さんにも、診療が終わるまでには必ず返事が届く。電話に出ることだけが患者サービスではなく、返事を忘れないことも患者サービスである。この考え方を職員と共有できたのは、数えた1週間のおかげだった。
分類ができたら、次は手順の文字化である。佐藤さんと話し合い、受付の電話対応を、A4の紙1枚に収めることにした。長い手順書は、忙しい朝には誰も開かないからだ。
紙には、用件別の最初の声かけと、次に聞く項目だけを書いた。予約の電話なら、「お名前と生年月日、症状を教えてください」。診療の相談なら、「看護師から折り返します。お電話番号をお願いします」。迷う電話は、必ず看護師か私に回すと決めた。
新人の事務員にも、この紙を渡した。すると、翌週には彼女が自分から電話を取るようになった。決まった言葉があると、人は動きやすい。これは、新人にスタッフ教育の時間をたっぷり割けない小さな診療所にとって、大きな利点だった。
スタッフ教育の考え方については、過去記事の新人の医療事務が3か月で辞める ― 教育を「先輩の頭の中」から「院内の仕組み」へ移すにも書いた。医療事務スタッフ教育を、個人の経験に頼らず、院内の紙1枚に移す発想は、電話対応にもそのまま使える。
手順を変えるとき、いちばん気をつけたのは職員への説明である。電話の件数を減らすと言えば、「電話を断るのか」と受け取られかねない。それでは患者サービスを損なう改革だと誤解され、現場は動かない。
私は朝礼で、こう話した。「目的は電話を断ることではありません。窓口の患者さんと、電話の患者さんの、どちらも待たせないことです」。そのうえで、数えた結果を全員に見せ、どの用件が多いのかを全員で確認した。数字を見せると、職員は自分の意見を出してくれる。
佐藤さんは、「折り返しにしてよい電話の線引きを、私たちに決めさせてください」と申し出た。看護師との間で、折り返しにする用件の表もできた。現場が決めた線引きは、私が決めた線引きよりも、ずっと守られた。
(「院長が全部決めようとするから、現場が受け身になるのだ。決める範囲を渡せば、現場は自分で動き出す」)
電話の相手が高齢の患者さんの場合は、さらに配慮が必要になる。聞き取りやすい速さで話し、日付や時刻はゆっくり繰り返す。これも手順書の最後に1行だけ加えた。細かい配慮ほど、書いておかなければ人によって差が出る。
手順書は、半年に1回、受付の全員で読み直すことにした。使いにくい言葉があれば、その場で直す。紙を育てる時間も、立派なスタッフ教育である。
電話の混雑は、窓口の待ち時間とつながっている。電話を取る間、窓口の患者さんは待たされるからだ。待ち時間と患者さんの不満の関係は、過去記事の待ち時間はなぜ不満を生むのか ― 患者体験を設計するという発想で整理している。
そこで、朝の混雑する30分だけ、電話の担当と窓口の担当を分けた。電話の担当は、予約の電話に集中する。窓口の担当は、目の前の患者さんに集中する。人を増やしたわけではなく、同じ人数の役割を、時間帯で切り分けただけである。
また、予約の取り消しや変更は、診察前日の夕方にまとめて電話をもらえるよう、会計時にお願いする声かけを加えた。これも、朝の電話を減らす小さな工夫になった。
この運用を始めて3か月。数字で見ると、朝8時半から9時までの話し中の回数が、目に見えて減った。佐藤さんは、「電話の途中で窓口の方に目を向けられるようになりました」と話した。
もう1つの変化は、請求後の修正が減ったことだ。月初の保険証確認が早まったため、資格の誤りによる修正の手間が小さくなった。請求担当者が、月末にまとめて直す時間も短くなった。
院長として、電話は「受付の雑務」ではなく、「患者サービスの入り口で、請求の入り口でもある」と考えるようになった。入り口を整えると、診察室の中までゆとりが届く。
(「次は、電話に出られなかった患者さんの動きを見てみよう。そこにも、私の知らない経営の課題があるかもしれない」)
同じ悩みを抱える院長に、今週できることを3つ挙げる。1つ目は、1週間だけ電話の用件を数えてください。2つ目は、折り返しでよい電話と、その場で答える電話を分けてください。3つ目は、受付の手順をA4の紙1枚にまとめてください。
電話の整理は、お金をかけずに今日から始められる。そのうえで、請求業務まで手が回らないと感じたときは、院内で整える道と、外部の力を借りる道を比べてみてください。どちらを選ぶにしても、窓口の患者さんを待たせないことが、いちばんの出発点である。
レセプト外注先をお探しならメディカルタクトへ
レセプト代行ならメディカルタクトへお任せください。