Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
レセプト請求の外注を検討する院長が最初に気にするのは、委託の料金である。毎月一定の費用が新たに発生するため、外注は高くつくと感じやすい。しかし、外注の費用対効果を正しく評価するためには、外注の料金と、現在院内で請求業務を行っていることにかかっている費用とを、同じ基準で比較しなければならない。院内で行っている業務の費用は、多くの場合、帳簿の上では人件費に紛れて見えなくなっている。
院内で請求業務を行う費用は、担当する職員の給与だけではない。厚生労働省の第25回医療経済実態調査によれば、診療所の常勤の医療事務職員の平均年収は約334万円である。これに社会保険料の事業主負担として約15%が加わる。さらに、月初に集中する点検作業による時間外労働の割増賃金、制度の改定や新しい算定に対応するための教育の時間、レセプトコンピュータの保守費用のうち請求業務に関わる部分なども、内製の費用である。
見落とされやすいのは、欠員のリスクにかかる費用である。担当者が退職すれば、採用広告の費用や人材紹介の手数料が発生する。人材紹介の手数料は想定年収の2割から3割程度とされることが多い。後任が見つかるまでの期間は、他の職員の時間外労働や、一時的な派遣の費用で穴を埋めることになる。後任が業務に習熟するまでの間は、算定の誤りや返戻が増えることもある。
そして、院長自身の時間である。月初に院長がレセプトの確認に費やす時間を、診療や経営判断に充てることができれば、その時間には相応の価値がある。
小規模なクリニックでは、請求を担当する職員が受付や会計も兼務していることが多い。その場合、職員の人件費のすべてを請求業務の費用とみなすのではなく、勤務時間のうち請求業務に充てている割合で按分して比較する必要がある。
仮に、月間のレセプトが1,000件程度の内科診療所で、常勤職員1名が勤務時間の4割を請求業務に充て、月初には別に月10時間程度の時間外労働をしているとする。年収334万円に事業主負担を加えた約384万円の4割は約154万円であり、これに時間外労働の割増賃金や教育の時間を加えると、請求業務の内製の費用は年間170万円から180万円程度となる。ここに欠員のリスクや院長の時間を加味した額が、外注の料金と比較すべき金額である。もちろん、この試算は一例にすぎず、各クリニックの実情に応じて数字を置き換える必要がある。
内製の費用を考える際には、現在の金額だけでなく、今後の推移も視野に入れる必要がある。最低賃金の引き上げが続くなかで、医療事務職員の賃金も上昇している。経験のある職員を引き留めるためには、相応の処遇の改善が必要になる。採用の難しさが増せば、人材紹介を利用する機会も増え、その費用もかさむ。内製の費用は、今後も増えていく可能性が高い。
一方、外注の料金も物価や人件費の上昇の影響を受けて改定されることがある。契約の期間中に料金が改定される条件があるのかどうかも、契約前に確認しておくべき事項である。内製と外注のいずれを選ぶにしても、数年先の費用の見通しを立てたうえで判断することが望ましい。
外注の料金体系は、委託先によって異なる。レセプト1件あたりの単価で計算する方式、月額を固定する方式、その組み合わせなどがある。初期費用の有無、返戻への対応や再審査請求の支援が料金に含まれるのか別料金なのか、制度改定の時期に追加の費用が発生するのかも確認しておく必要がある。
整形外科のようにリハビリテーションの通院患者が多く、レセプトの件数が多い診療科では、1件あたりの単価で計算する方式は総額が大きくなりやすい。一方、消化器内科のように件数は多くないが内視鏡や病理など1件あたりの算定が複雑な診療科では、月額固定の方式のほうが費用の見通しが立てやすいことがある。自院のレセプトの件数と構成に照らして、料金体系を比較することが重要である。
料金体系の中には、算定漏れの回収などによって増えた収入の一定割合を報酬とする、いわゆる成果報酬型のものもある。初期の負担が小さく魅力的に見えるが、注意が必要である。請求額を増やすほど委託先の報酬が増える仕組みは、算定要件を満たさない請求や、根拠の乏しい算定を誘発する危険をはらむ。過剰な請求は、審査での査定や、後の指導・監査での返還につながり、その責任を負うのは医療機関である。
算定漏れの回収は外注の効果の1つであるが、それは院長が実際に行った医療を正しく請求した結果でなければならない。成果報酬型の契約を検討する場合は、何を成果とみなすのか、その算定の根拠を院長が確認できる仕組みがあるのかを、慎重に確かめる必要がある。
外注の効果は、費用の削減だけでなく、請求の質の変化として表れる。外注によって費用がむしろ増える場合でも、請求の質が上がり、業務の安定性が高まり、院長と職員の時間が患者のために使えるようになるのであれば、その差額は投資として評価できる。返戻の件数と理由、査定の件数と点数、委託先が指摘した算定漏れや誤りの件数、請求から入金までの期間、院内の職員の月初の時間外労働の時間、院長が請求の確認に費やす時間などである。
これらの効果を正しく評価するには、外注を始める前の数字を記録しておく必要がある。外注を始める前の少なくとも3か月分の数字を基準として残しておけば、外注の前後を比較できる。基準がなければ、外注の効果は委託先の報告や院長の印象に頼ることになる。
外注の効果は、委託先の力量だけで決まるわけではない。受付での保険資格や公費の確認が不正確であれば、委託先がどれだけ丁寧に点検しても、資格に関する返戻は減らない。病名の入力が遅れたり、医師への確認に時間がかかったりすれば、委託先は請求の期限までに点検を終えられない。外注の費用対効果を高めるためには、委託先に正確な情報を期限内に渡す院内の仕組みを整えることが前提となる。
外注を始めた直後は、委託先が自院の診療の特徴を理解するまでに時間がかかり、院内からの問い合わせへの対応も増える。効果が数字に表れるまでには、数か月を要することが多い。最初の1、2か月の数字だけで外注の成否を判断するのは早計である。
見落とされやすいのが、外注費にかかる消費税である。委託の料金には消費税がかかるが、保険診療を中心とするクリニックでは、その消費税を差し引くことができず、そのまま負担となる。内製であれば職員の給与に消費税はかからないため、内製と外注を比較する際には、外注の料金を税込みの金額で比べる必要がある。月額の料金が同じに見えても、内製の人件費と外注の税込みの料金とでは、実際の負担に1割の差が生じる。
外注によって院内の費用がすべてなくなるわけではない。受付での資格確認、公費や医療証の確認、病名の入力と医師への確認、委託先との連絡や指摘への対応は、院内に残る。委託先からの問い合わせに答える時間も必要である。外注の費用対効果を試算する際には、これらの院内に残る業務の時間も見込んでおく必要がある。
外注の判断は、料金が安いか高いかではなく、内製と外注のそれぞれで、請求の質、業務の安定性、院長と職員の時間がどう変わるかを総合して行うべきである。
そのためには、内製を続ける場合の費用と効果も、外注の場合と同じ表に並べて比較することが有効である。内製を続けるのであれば、担当者を複数にするための教育の時間や、欠員時の代替の費用を見込む必要がある。外注するのであれば、料金に加えて院内に残る業務の時間を見込む。同じ基準で並べて初めて、どちらが自院にとって合理的かが判断できる。次稿『外注しても責任は外注できない ― 請求の責任、個人情報の委託、契約で確認すべきこと』では、外注しても外部に委ねることのできない責任と、個人情報や契約に関わる論点を検討する。
研修費はゼロでも教育費はゼロではない ― レセプトOJTの時間効率と人材育成投資の費用対効果
人件費以外のコストを誰が見ているか ― 医業原価の再点検と損益分岐点
返戻は未収金である ― 再提出までの資金繰りと返戻レセプトの管理
賃上げの原資はどこにあるのか ― 10月発効の最低賃金改定とクリニックの労働分配率
特集「レセプト請求を外注する」の他の回:『レセプト請求を外注するという選択 ― 人手不足と審査支払の再編の年に考える「何を自院に残すか」』、『外注しても責任は外注できない ― 請求の責任、個人情報の委託、契約で確認すべきこと』、『外注すると事務職員の仕事はどう変わるか ― 役割の再設計と、職員への説明の順番』、『委託先をどう選び、どう評価するか ― 開業時の判断から契約の見直しまで』
レセプト外注先をお探しならメディカルタクトへ