レセプト請求を外注するという選択 ― 人手不足と審査支払の再編の年に考える「何を自院に残すか」

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レセプト請求を外注するという選択 ― 人手不足と審査支払の再編の年に考える「何を自院に残すか」

審査支払の側が変わった年

2026年10月1日、社会保険診療報酬支払基金は改組され、「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」(略称:DX審査支払機構)として新たに発足した。2025年12月に成立した改正医療法に基づくものであり、新しい機構は従来の診療報酬の審査・支払業務に加えて、医療DXを推進する中心的な役割を担う。名称の変更に伴い、オンライン請求の接続設定の変更など、医療機関の側でも対応が求められた。

診療報酬の請求は、2023年11月の請求命令の改正により、原則としてオンラインによる方法とされた。返戻レセプトの紙による送付も2024年9月末で終了し、増減点連絡書などの帳票もオンラインで受け取る時代になった。請求に関わる情報が電子化され、ネットワークを通じてやりとりされるようになったことで、請求業務を院外の専門事業者に委ねるための物理的な障壁は、以前と比べて格段に低くなっている。

外注を検討する理由は人手不足だけか

一方で、医療事務の人材の確保は年々難しくなっている。医療事務の有効求人倍率は2倍前後の水準で推移しており、レセプトの算定と点検を担える経験者となれば、採用はさらに難しい。担当者が1人しかいない診療所では、その職員が退職すれば翌月の請求そのものが危うくなる。

レセプト請求の外注を検討するクリニックの多くは、こうした人手の問題を直接の契機としている。しかし、外注を人手不足への応急措置としてのみ捉えると、判断を誤ることがある。外注は、請求という業務のどの部分を誰が担うのかという、クリニックの業務設計そのものに関わる経営判断である。本特集では、レセプト請求の外注を、費用、責任とリスク、職員の役割、委託先の選定と評価という観点から5回にわたって検討する。

外注には複数の形態がある

一口にレセプト請求の外注と言っても、その形態はさまざまである。第1は、点検のみを委託する形態である。日々の入力と請求は院内で行い、月初の点検を外部の専門家に依頼する。第2は、算定の確認から点検、請求データの作成、返戻への対応までを一括して委託する形態である。第3は、外部の事業者から人材の派遣を受け、院内で請求業務を担ってもらう形態である。

それぞれの形態は、院内に残る業務と負担、費用、そして院内に知識が蓄積されるかどうかが異なる。点検のみの委託は、院内の職員が日々の算定を担い続けるため、知識は院内に残りやすいが、院内の負担はそれほど減らない。一括委託は院内の負担を大きく減らすが、院内に請求の知識が残りにくい。派遣は院内で業務が完結する一方、派遣される人材が交代すれば知識も一緒に失われる。自院が何を解決したいのかによって、選ぶべき形態は変わる。

院内の負担を減らしたいのか、請求の質を高めたいのか、担当者の退職に備えたいのか。目的が異なれば、同じ外注でも適した形態は異なる。請求の質を高めることが目的であれば、点検のみの委託から始めて、委託先の指摘を院内で確認する形が向いている。院内の負担を大きく減らすことが目的であれば、一括委託が向いているが、院内に残す業務と知識を意識的に決めておく必要がある。目的を明確にせずに形態を選べば、外注後に期待と結果の食い違いが生じやすい。

請求に求められる知識は高度になり続けている

外注が検討される背景には、請求に求められる知識の高度化もある。2026年6月に施行された令和8年度診療報酬改定をはじめ、改定のたびに算定の要件は細かくなり、施設基準の届出に連動した加算や、管理料の算定に必要な計画書や同意の要件も増えている。レセプトに記載するコメントの多くは定められたコードから選ぶ方式になり、記載の不備は機械による点検で確実に検出される。

こうした変化に、1人か2人の事務職員で追随し続けることは容易ではない。改定の内容を理解し、自院の算定に反映し、職員に周知するという作業は、2年ごとの改定の年だけでなく、疑義解釈や通知が出るたびに必要になる。専門の事業者は多くの医療機関の請求を扱っているため、制度の変更に関する情報を組織として蓄積していることが多い。この情報の蓄積を利用できることも、外注を検討する理由の1つである。

請求は単なる事務作業ではない

外注を検討する際に院長が理解しておくべきことは、レセプト請求が単なる事務作業ではないということである。レセプトは、院長が行った医療を保険制度の言語に翻訳した記録である。どの病名で、どの診療行為を行い、それがどの算定要件を満たしたのか。その翻訳の質が、収入を左右し、審査での評価を左右する。

したがって、請求業務のすべてを外部に委ねることはできない。病名の決定、症状詳記の内容、どの検査や処置を行うかという判断は、医師に属する。受付での資格確認や公費の確認は、患者と接する院内でしかできない。外注によって委ねることができるのは、算定要件の確認、点検、請求データの作成、返戻の処理といった、専門的な知識と手間を要する実務の部分である。

外注を検討する前に確認する3つのこと

外注を判断する前に、院長が確認しておくべきことがある。第1に、現在の請求の質を数字で把握しているかである。返戻の件数、査定の点数、算定漏れの状況が分からなければ、外注によって何が改善されるのかを評価できない。第2に、請求業務が特定の職員1人に依存していないかである。依存している場合、その職員の退職は請求の停止を意味し、外注はその危険に対する備えとなり得る。第3に、院長自身が月初の請求業務にどれだけの時間を費やしているかである。院長が毎月何時間も点検に時間を取られているのであれば、その時間の価値も外注の判断に含めるべきである。

外注が向かない場合もある

外注がすべてのクリニックにとって最善の選択であるわけではない。院内に請求の知識を持ち、意欲のある職員が複数いて、返戻や査定も少なく、月初の業務も時間内に収まっているのであれば、無理に外注する必要はない。その場合は、院内の体制を維持し、担当者の退職に備えて知識を複数の職員で共有しておくことのほうが重要である。

また、院長が請求の内容を通じて自院の診療と経営の状況を把握していることも多い。外注によって院長が請求の内容に触れる機会が減れば、自院の算定の傾向や問題に気づくのが遅れるおそれがある。外注を選ぶ場合も、院長が委託先からの報告を毎月読み、自院の請求の状況を把握し続ける仕組みが必要である。

診療科別に見る外注の契機

耳鼻咽喉科で日帰り手術を行っているあるクリニックでは、手術症例のレセプトを担当していたベテランの職員が家庭の事情で退職することになった。後任を募集したが、手術の算定まで担える経験者は見つからなかった。院長は、日々の入力は院内の職員が続け、手術症例を含む月初の点検を外部に委託する形態を選んだ。院内の職員は、委託先から戻ってくる指摘を確認しながら業務を続けている。

小児科のあるクリニックでは、冬の感染症の流行期に受付と電話の対応に人手が足りず、月初の請求業務と重なる時期に職員の時間外労働が大幅に増えていた。院長は、限られた職員を患者対応に集中させることを優先し、請求業務の大部分を一括して委託することにした。公費や医療証の確認は受付で引き続き行い、その情報が委託先に正確に伝わるよう、受付での確認手順を整えた。

外注は業務設計の見直しである

外注を検討することは、自院の請求業務の流れを見直す機会でもある。どの業務を誰が担っているのか、どこで誤りが生じやすいのか、院長の判断が必要なのはどの場面か。これらを整理しないまま外注すれば、問題を外部に移しただけで解決したことにはならない。外注の検討を通じて自院の業務の流れを書き出してみると、外注するまでもなく改善できる無駄が見つかることも多い。逆に、整理の結果、院内では対応しきれない業務が明確になれば、外注の範囲を的確に定めることができる。

なお、診療科別の業務委託の適合性については『診療科別にみたクリニックBPOの適合性と課題 ― 内科・小児科・皮膚科・整形外科を中心に ―』で、業務の属人化の解消については『あの人がいないと回らない、をなくす ― 属人化を解消する業務設計と欠員時の運転モード』で、レセプトを用いた職員の育成については『人件費を「費用」ではなく「資本」として扱う ― クリニック経営における人的資本管理とスタッフ教育の位置づけ』に始まる5回の特集で扱った。本特集は、外注を選ぶ場合に院長が判断すべきことに焦点を当てる。次稿『外注費は高いのか ― 内製の見えないコストと比較する費用対効果の測り方』では、外注の費用を内製の費用とどう比較すべきかを検討する。

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特集「レセプト請求を外注する」の他の回:『外注費は高いのか ― 内製の見えないコストと比較する費用対効果の測り方』、『外注しても責任は外注できない ― 請求の責任、個人情報の委託、契約で確認すべきこと』、『外注すると事務職員の仕事はどう変わるか ― 役割の再設計と、職員への説明の順番』、『委託先をどう選び、どう評価するか ― 開業時の判断から契約の見直しまで』

 

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