Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
レセプト請求を外部に委託しても、診療報酬を請求する主体は保険医療機関であることに変わりはない。請求の内容に誤りがあれば、その責任を負うのは医療機関であり、院長である。審査で査定や返戻を受けるのも、個別指導や監査の対象となるのも、医療機関である。不適切な請求が見つかって返還を求められた場合、「委託先が算定した」という理由は通らない。
この原則を理解しておくことは、外注を考えるうえでの出発点である。外注は業務を委ねることであって、責任を委ねることではない。院長は、委託先がどのような考え方で算定し、点検しているのかを把握し、請求の内容に最終的な責任を持つ立場にあり続ける。
整形外科のあるクリニックでは、請求を一括して委託していたが、委託先が運動器リハビリテーションの算定日数の上限を超えた患者についても、従来どおりの算定で請求を続けていたことが、審査での減点によって判明した。院長は委託先の判断に任せきりにしていたことを反省し、算定日数の管理については院内で患者ごとの起算日を把握し、委託先と毎月照合する運用に改めた。委託の範囲であっても、算定の前提となる診療の情報は院内にある。その情報を正しく伝え、結果を確認する責任は医療機関の側にある。
『コンピュータが読むのは病名とコメントである ― 医師の記載が審査結果を決める時代のカルテとレセプト』では、審査においてレセプトに記載された病名が決定的な意味を持つことを述べた。委託先の中には、査定を防ぐために、診療録に記載のない病名をレセプトに追加することを勧めるところがあるかもしれない。しかし、病名は医師が診療に基づいて判断するものであり、査定を避ける目的で実態のない病名を付けることは、不適切な請求につながる。
委託先の役割は、病名と診療行為の整合性について指摘し、医師に確認を求めることであって、病名を決めることではない。病名の追加や変更を委託先が独自に行う運用になっていないか、医師の確認を経ずに請求データが作成されることがないかを、契約と運用の両面で確認しておく必要がある。
レセプトには、患者の氏名、保険情報、病名、診療の内容といった、極めて機微な個人情報が含まれる。レセプトの点検や作成を外部に委託することは、個人情報保護法上、第3者への提供には当たらないものの、医療機関には委託先を監督する義務がある。委託先が適切に個人情報を取り扱っているかを確認し、必要な措置を講じさせることは、医療機関の責任である。
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」第6.0版は、2023年5月の改定で、外部委託や外部サービスの利用に関する考え方を整理し、医療機関と事業者との間の責任分界を明確にすることを求めている。また、セキュリティ対策をシステムの担当者任せにするのではなく、院長などの経営層が主体的に関与すべきことも明記された。レセプトの外注は、まさにこのガイドラインが想定する外部委託の場面である。
外注の形態によっては、委託先がネットワークを通じて院内のレセプトコンピュータや電子カルテに接続して作業を行うことがある。この院外からの接続は、利便性が高い一方で、情報セキュリティ上の弱点にもなり得る。近年、医療機関を狙ったサイバー攻撃の中には、外部からの接続に用いる機器の脆弱性を突いて侵入した事例が報告されている。『医療機関を狙うサイバー攻撃 ― 診療所にとってのセキュリティは医療安全の問題』ではサイバー攻撃への備えを扱ったが、外注によって院外からの接続が生じる場合は、その管理を一層厳格にする必要がある。
具体的には、接続できる端末と担当者を限定すること、接続のたびに認証を求めること、接続の記録を残すこと、委託の業務に必要な範囲を超える情報にはアクセスできないよう権限を設定すること、接続に用いる機器の更新を怠らないことなどである。これらの管理を委託先に任せきりにするのではなく、医療機関の側でも把握しておくべきである。院内からデータを送る形態であっても、送付の方法、送付するデータの範囲、委託先での保存の期間と消去の方法を確認しておく必要がある。電子メールに患者の情報を添付して送るといった運用は、誤送信による漏えいの危険が高く、避けるべきである。
循環器内科のあるクリニックでは、点検を委託した事業者が院内のレセプトコンピュータに遠隔で接続して作業していたが、接続の方法や担当者の範囲を院長は把握していなかった。システムの保守業者から指摘を受けて確認したところ、接続用のパスワードが長期間変更されていなかったことが分かった。院長は委託先と協議し、接続できる担当者と時間帯を限定し、接続の記録を毎月確認する運用に改めた。
個別指導などの場で、請求の内容について説明を求められるのは院長である。委託先の担当者がその場に同席して院長に代わって説明できるわけではない。したがって、委託先が算定や点検の過程で行った判断のうち、請求の内容に影響するものについては、その根拠を院内に記録として残しておく必要がある。
委託先からの毎月の報告書を保存し、どの算定についてどのような指摘を受け、院長がどう判断したのかを記録しておけば、後日その請求について説明を求められたときにも対応できる。報告書は、委託先の仕事を評価するための資料であると同時に、院長自身の判断の記録でもある。
委託契約には、少なくとも次のような事項を明記しておく必要がある。委託する業務の範囲と、院内に残る業務との境界。算定や点検の方針に関する医療機関と委託先の責任の分担。再委託の可否と、再委託する場合の条件。秘密保持と個人情報の取扱い。情報漏えいなどの事故が発生した場合の報告の時期と方法、対応の分担、損害賠償の範囲。契約が終了した際のデータの返還と消去の方法。そして、契約の解除の条件と、解除する場合の業務の引継ぎである。
特に見落とされやすいのが、契約の終了時の取扱いである。外注に長く依存していると、院内には請求業務を担える人がいなくなる。委託先の事業の停止や、料金の大幅な引き上げ、サービスの質の低下などによって契約を終了せざるを得なくなったとき、引継ぎの条件が定められていなければ、翌月の請求が滞るおそれがある。契約を結ぶ時点で、終わり方を決めておくことが重要である。
外注に依存するほど、委託先の業務が止まったときの影響は大きくなる。委託先のシステムの障害、災害、サイバー攻撃による被害などで、請求の期限までに点検や請求データの作成ができなくなる可能性はゼロではない。『断水はなぜ診療を止めるのか ― 令和8年熊本地震が示したクリニックの事業継続』では災害時の事業継続を扱ったが、外注している場合は、委託先の業務継続の体制も自院の事業継続の一部となる。
委託先に、障害や災害が発生した場合の代替の体制や、請求の期限に間に合わない場合の対応を確認しておく。院内でも、最低限の請求を自力で行える手順を残しておけば、委託先の業務が一時的に止まっても、請求そのものが止まることはない。
皮フ科・形成外科のあるクリニックでは、委託先から、処置の算定を増やすために病名を追加してはどうかという提案を受けた。院長は、その病名が診療の実態に合わないと判断し、提案を断った。そのうえで、委託先に対して、病名や算定の方針について提案する場合は、必ず根拠となる通知や事例を示すよう求めた。以後、委託先からの指摘は根拠を伴うものとなり、院長は判断しやすくなった。
委託先の指摘に従うかどうかを決めるのは院長である。委託先は請求の専門家であっても、診療の専門家ではない。指摘を受け入れる判断も、断る判断も、院長の責任において行う。この関係が保たれている限り、外注は請求の質を高める手段となる。外注の契約を結ぶことは、院長が請求から手を離すことではなく、請求の質を管理する方法を変えることである。院長は自ら点検する立場から、委託先の点検を評価し、最終的な判断を下す立場へと役割を移すことになる。次稿『外注すると事務職員の仕事はどう変わるか ― 役割の再設計と、職員への説明の順番』では、外注によって院内の職員の仕事がどう変わるのかを検討する。
医療機関を狙うサイバー攻撃 ― 診療所にとってのセキュリティは医療安全の問題
コンピュータが読むのは病名とコメントである ― 医師の記載が審査結果を決める時代のカルテとレセプト
断水はなぜ診療を止めるのか ― 令和8年熊本地震が示したクリニックの事業継続
特集「レセプト請求を外注する」の他の回:『レセプト請求を外注するという選択 ― 人手不足と審査支払の再編の年に考える「何を自院に残すか」』、『外注費は高いのか ― 内製の見えないコストと比較する費用対効果の測り方』、『外注すると事務職員の仕事はどう変わるか ― 役割の再設計と、職員への説明の順番』、『委託先をどう選び、どう評価するか ― 開業時の判断から契約の見直しまで』
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