Clinic Diary
クリニック奮闘記
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クリニック奮闘記
レセプト請求の委託先を選ぶとき、院長がまず比較するのは料金であり、次に事業者の規模や知名度であることが多い。しかし、委託の成否を決めるのは、委託先が自院の診療を理解し、正確に点検し、その内容を分かりやすく報告できるかどうかである。料金が安くても、指摘の質が低ければ、算定漏れや返戻は減らない。規模が大きくても、担当者が頻繁に交代すれば、自院の診療の特徴は理解されない。
委託先を選ぶ際に確認すべき事項は、大きく分けて5つある。
第1は、自院の診療科の経験である。整形外科のリハビリテーション、耳鼻咽喉科の手術、小児科の公費、消化器内科の内視鏡と病理など、診療科によって算定の要点は大きく異なる。自院と同じ診療科の医療機関をどれだけ担当してきたか、その診療科に特有の算定に通じた担当者がいるかを確認する。
第2は、点検の体制である。1人の担当者がすべてを点検するのか、複数の担当者で確認し合う体制があるのか。担当者が不在のときや退職したときに、誰が業務を引き継ぐのか。委託先の内部で属人化が起きていれば、院内で属人化を解消するために外注した意味が失われる。
第3は、報告の内容である。何件のレセプトを点検し、どのような誤りや漏れを指摘し、そのうち何を修正したのか。医師に確認を求める事項は何か。こうした内容が毎月分かりやすく報告されるかどうかは、院長が委託先の仕事を評価し、自院の請求の状況を把握するために欠かせない。
第4は、情報セキュリティと個人情報の管理である。『外注しても責任は外注できない ― 請求の責任、個人情報の委託、契約で確認すべきこと』で述べたように、委託先における個人情報の取扱い、院外からの接続の管理、再委託の有無と条件、事故発生時の対応を確認する。
第5は、契約の条件である。料金に含まれる業務の範囲、追加料金が発生する条件、契約期間、解除の条件、終了時の引継ぎの方法を、契約前に書面で確認する。
これらの事項は、委託先の営業担当者の説明だけでなく、実際に自院を担当する予定の担当者と面談して確認することが望ましい。契約後に日常的にやりとりするのはその担当者であり、自院の診療科への理解や連絡の取りやすさは、担当者によって大きく異なるからである。
委託先の力量は、説明を聞くだけでは分からない。可能であれば、本契約の前に、一定期間の試行を設けることが望ましい。試行の段階であっても患者の個人情報を扱うことになるため、秘密保持と個人情報の取扱いを定めた契約を先に結んでおく必要がある。
試行の期間中は、委託先の指摘の内容を院内の職員や院長が確認し、その指摘が根拠に基づいているか、自院の診療を理解したものであるかを評価する。複数の委託先を比較している場合は、同じ月のレセプトに対する指摘を比べると、点検の質の違いが明確になる。
内科のあるクリニックでは、2つの事業者から提案を受けていた。料金は一方が安かったが、試行の結果を比べると、もう一方の事業者のほうが、生活習慣病の管理料の要件や療養計画書の更新時期について、具体的な根拠を示して指摘していた。院長は、料金の差よりも指摘の質を重視して委託先を選んだ。
委託先を選んで契約を結んだ後も、評価を続けることが必要である。『外注費は高いのか ― 内製の見えないコストと比較する費用対効果の測り方』で述べたように、外注を始める前の数字を基準として、返戻の件数と理由、査定の件数と点数、指摘の件数、請求の期限の遵守、院内の作業時間の変化を、毎月記録する。そのうえで、少なくとも年に1度は、委託先と面談の機会を設け、1年間の結果を振り返る。
評価の結果、改善が見られない場合や、報告の質が下がっている場合は、委託先に改善を求める。改善を求める際には、具体的な数字と事例を示すことが重要である。「最近、指摘が少ない」という印象ではなく、「この3か月で同じ理由の返戻が繰り返されている」というように、記録に基づいて伝えれば、委託先も原因を特定しやすい。それでも改善されなければ、契約の見直しや委託先の変更を検討する。委託先を変更することは、院内にとっても負担の大きい判断であるが、契約時に引継ぎの条件を定めておけば、その負担は小さくなる。
外注が長く続くと、院内に請求の知識が少なくなり、委託先の判断をそのまま受け入れるようになりがちである。こうなると、委託先の指摘の質が下がっても気づかず、料金の引き上げにも交渉の材料を持てなくなる。委託先との関係を対等に保つためには、院内に委託先の仕事を評価できる知識を残しておくこと、評価の数字を記録し続けること、そして必要であれば他の事業者と比較できる状態を保っておくことが重要である。
契約の更新の時期は、委託の範囲と料金を見直す機会である。開業直後や体制の変更の時期には広い範囲を委託し、院内の体制が整ってきたら範囲を絞る、あるいは院内の人員の状況に応じて範囲を広げるというように、委託の範囲は固定したものではなく、自院の状況に応じて調整していくものである。
これから開業する医師にとって、レセプト請求を開業時から外注するか、院内で始めて必要に応じて外注するかは、悩ましい判断である。
開業時から外注する利点は、開業直後の不慣れな時期に、算定の誤りや請求の遅れを防げることである。開業直後は、院長も職員も新しいレセプトコンピュータと新しい業務の流れに慣れておらず、施設基準の届出に伴う算定や、診療科に特有の算定で誤りが生じやすい。経験の浅い職員だけで請求を始めれば、最初の数か月の返戻や算定漏れが、開業直後の資金繰りに影響することもある。
一方で、開業直後は患者数が少なく、1件ずつのレセプトを丁寧に確認できる時期でもある。この時期に院内の職員が自院の算定を学ぶことは、長期的には大きな財産になる。開業時から一括して外注すれば、院内に請求の知識が蓄積される機会を失う。
消化器内科で開業したある医師は、開業から1年間は点検を外部に委託しつつ、日々の入力と請求は院内の職員が担う形態を選んだ。委託先からの指摘を院内の職員が毎月確認することで、職員は自院の算定を学び、院長は開業直後の請求の誤りを防ぐことができた。1年後には、院内で処理できる範囲が広がったため、委託の範囲を手術や内視鏡関連の点検に絞った。外注と内製を対立するものとして考えるのではなく、時期に応じて組み合わせる発想である。
開業時の判断にあたっては、開業後1年程度の間に院内の体制をどう育てるのかという見通しを持っておくことが大切である。外注に頼り続けるのか、院内に移していくのか、限られた範囲だけを委ね続けるのか。その見通しによって、最初に選ぶべき委託の形態と範囲は変わってくる。開業の準備では、内装や医療機器の選定に多くの時間が割かれるが、請求の体制は開業後の資金繰りに直結する事項であり、同じ重みをもって検討すべきである。
耳鼻咽喉科で日帰り手術を行う予定で開業した医師は、手術の算定の複雑さを考慮し、手術症例に限って開業時から点検を委託した。外来の一般的な診療は院内で請求し、手術症例は委託先の点検を経て請求する。委託の範囲を限定することで、費用を抑えながら、誤りの影響が大きい部分を確実に守ることができた。
本特集では、レセプト請求の外注を、院長が判断すべき経営の問題として検討した。『レセプト請求を外注するという選択 ― 人手不足と審査支払の再編の年に考える「何を自院に残すか」』では外注の形態と、自院に残すべき業務を、『外注費は高いのか ― 内製の見えないコストと比較する費用対効果の測り方』では内製の見えない費用と比較する費用対効果の測り方を、『外注しても責任は外注できない ― 請求の責任、個人情報の委託、契約で確認すべきこと』では外注しても外部に委ねることのできない責任と契約の論点を、『外注すると事務職員の仕事はどう変わるか ― 役割の再設計と、職員への説明の順番』では職員の役割の再設計と説明の順番を、本稿では委託先の選定と評価、そして開業時の判断を論じた。
5本に共通する主張は、外注は請求業務を手放すことではなく、請求業務を設計し直すことだという点である。何を外部に委ね、何を院内に残し、誰がどのような責任を持つのかを院長が明確にすれば、外注は人手不足への応急措置ではなく、請求の質と業務の安定性を高め、職員と院長の時間を患者のために使えるようにする経営の手段となる。レセプトは院長の医療の記録であり、その最終的な責任は、どのような形態を選んでも院長にある。
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返戻は未収金である ― 再提出までの資金繰りと返戻レセプトの管理
特集「レセプト請求を外注する」の他の回:『レセプト請求を外注するという選択 ― 人手不足と審査支払の再編の年に考える「何を自院に残すか」』、『外注費は高いのか ― 内製の見えないコストと比較する費用対効果の測り方』、『外注しても責任は外注できない ― 請求の責任、個人情報の委託、契約で確認すべきこと』、『外注すると事務職員の仕事はどう変わるか ― 役割の再設計と、職員への説明の順番』
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