Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
木曜の夜8時を過ぎた。待合室の電気を消し、診察室の机でノートパソコンを開く。耳鼻咽喉科を開業して9年目になる。スタッフは看護師3名と医療事務4名、日帰りの鼻の手術も週に2枠まわしている。
今夜は月末の請求前に確認しておきたいことが4つあった。ひとつは返戻の山、ふたつ目は来月の手術枠、3つ目は新人の事務員の育ち具合、最後は空調の更新費用だ。どれも私ひとりの頭の中にだけある。
(「これ、ぜんぶ私が覚えていないと動かない状態だよな。もし明日インフルエンザで倒れたら、誰が何を決めるんだ」)
先月、事務長の佐藤さんに「院長、先月の返戻の件は結局どうなりましたか」と聞かれ、すぐに答えられなかった。決めたつもりでいたのに、スタッフには何も伝わっていなかったのだ。
診療所には、会議の予定が組まれていない。朝礼で連絡事項を伝え、昼休みに立ち話で指示を出し、細かいことはその場で決める。小さな組織としては、それで回ってきた。
ただ、立ち話の指示は記録に残らない。聞いたスタッフと聞いていないスタッフがいて、翌月になると「言った」「聞いていない」のずれが出る。9年目になって、そのずれが目に見えて増えたと感じる。
先日の本ブログで、院長の時間が診療の外へ消えていく様子を読んだ。院長の時間はどこへ消えるのか ― 診療の外にある経営の仕事を、週90分の時間割に変えるという記事だ。そこには、経営の仕事に時間枠を取ることが書かれていた。
(「週90分の枠を取るのは、確かに大事だ。でも枠をつくっても、決めた中身がスタッフに届かなければ同じことだな」)
そこで考えた。私ひとりの時間割ではなく、スタッフを交えた場を月に1回つくれないか。経営会議という大きな名前ではなく、30分で終わる経営ミーティングにする。
最初に決めたのは、議題を欲張らないことだった。診療所の課題を全部並べると、30分では1つも決まらない。そこで、毎月かならず載せる議題を3つに絞った。
数字は院長が読む。請求は事務が話す。人の課題は職種をまたいで出す。役割をこのように分けておけば、私がしゃべり続ける会にならずに済む。
議事録は、書く担当を月ごとに交代する。決まったことを3行で書き、誰がいつまでにやるかを必ず入れる。印刷して休憩室に貼り、残りはクラウドの共有フォルダに保存する。
ミーティングで数字を読むとき、私は3つの決まりを置いた。ひとつ目は、前月と比べて増減の理由を口に出すこと。理由がわからないときは「わからない」と言ってよい、と最初に宣言した。
2つ目は、窓口の未収金を毎回かならず報告することだ。請求した金額と入金された金額のずれは、放っておくと静かに積み上がる。受付が窓口で感じている違和感が、数字の異常を最初に教えてくれる。
3つ目は、改善策を1回で3つまでに絞ること。あれもこれもと決めると、翌月には何も覚えていない。1つ決めて、翌月に結果を見る。小さな診療所では、その繰り返しが数字を動かす。
(「数字を読む習慣は、院長ひとりより、全員で身につけるほうが早い。受付が数字の理由を話せるようになれば、医院は変わる」)
事務の現場では、請求の悩みが経営の場に上がってこない。返戻が増えても、事務の担当者が黙って処理して終わってしまう。私が気づくのは、月末に入金額が少ないとわかった後になる。
この3か月で、返戻が増えていた。新人が算定の漏れを見逃していたのが主な原因だ。担当者は自分が直せば済むと考え、私には報告しなかった。報告しにくい空気をつくっていたのは私だ。
(「忙しそうな院長に、細かい件は言いにくいよな。ミスを報告したら叱られると思うのも無理はない」)
月初の請求作業は、人が少ない月ほど現場に負担が集中する。作業を外に出す選択肢もあるが、判断の材料がないと決められない。レセプト代行・レセプト請求代行を使う場合に何が自院に残り、何が外に出るかは、レセプト代行・レセプト請求代行サービスの内容のように、業務の範囲を整理して確認できる資料が役に立つ。
私は外注を前提に考えているわけではない。ただ、レセプト外注という選択肢を机に載せて、費用と手間を比べたうえで「自院でやる」と決めるのと、考えずに続けるのとでは、意味がまったく違う。
費用の比べ方は、外注費は高いのか ― 内製の見えないコストと比較する費用対効果の測り方に詳しい。ミーティングの議題に「請求の体制」を年に1回は入れ、その時にこの考え方を使うつもりだ。
人の課題を議題に入れたのは、スタッフ教育が先送りされやすいからだ。忙しい日は新人への説明が後まわしになり、先輩も「見て覚えて」と言ってしまう。それが3か月続くと、新人は黙って辞めていく。
新人の医療事務が3か月で辞める ― 教育を「先輩の頭の中」から「院内の仕組み」へ移すを読んで、うちの状況と重なると思った。教える内容が先輩ごとに違い、手順書もない。
そこで月1回のミーティングでは、新人の習熟度を3段階で確認する。受付の入力、窓口の会計、レセプトの点検の3つについて、できる・教われば可能・まだ、で記す。評価ではなく、来月の教える順番を決めるための表だ。
先輩の事務員には、教える時間を勤務表に書き込んでもらう。1日15分でも、予定として見えれば、忙しい日にも守られやすい。教育の時間を院長が公式に認めた、というメッセージにもなる。
(「教育は気持ちの問題じゃない。時間と順番を決めて、はじめて仕組みになる」)
先週、第1回を開いた。休憩室に全員を集め、タイマーを30分にセットした。私が先月の外来患者数を読み上げると、看護師の山本さんが「手術の翌日は再診が増えて、午前の待ち時間が長くなる」と発言した。
私の頭の中の数字には、その感覚がなかった。数字だけでは見えない現場の声が、最初の10分で出てきたのだ。手術枠の配置を、再診の多い曜日を避けて組み直すことにした。
請求の報告では、新人の事務員が自分から「返戻の原因は病名の入力漏れでした」と話した。叱られると思って言えなかった件を、場が用意されたことで出せたのだ。私は「教えてくれてありがとう」とだけ答えた。
会議の後、事務長の佐藤さんが「会議のおかげで、返戻の件を院長に話してよいのだと思えました」と話してくれた。30分の場が、報告してよいという合図になっていた。
終わったのは32分後で、2分の超過だった。議事録に決定事項は4つ。手術枠の組み替え、病名入力のチェック表の作成、新人の習熟度表の運用開始、空調更新の見積り依頼である。
診察室の外で起きている問題は、院長の目に入りにくい。入りにくいものを、月に1回だけ強制的に机へ載せる。経営ミーティングの価値は、決める内容よりも、この見える化にあると感じた。
費用はほとんどかからない。かかるのは、休憩室の30分と、院長が最後まで聞く覚悟だけである。
始めて数週間で、落とし穴も見えてきた。最初は、院長の愚痴の場になることだ。私が人手不足の嘆きを始めると、30分はあっという間に消える。嘆きたいときは、ミーティングの外で書き出すと決めた。
次は、議題が増えすぎることである。ほかの職員から「あれも話したい」と声が上がるのはありがたいが、全部載せれば初日の約束が崩れる。出された案は付箋に書いてもらい、翌月の優先順位を院長が決める。
もうひとつは、欠席者への共有が抜けることだ。外来の都合で参加できない看護師がいる。その日のうちに、議事録の3行をグループチャットで送る担当を決めた。決定事項を知らない職員をつくらない。
会議は、始めるよりも続けるほうが難しい。続かない理由のほとんどは、院長自身の都合で延期することにある。だから、開催日を毎月第2木曜の昼休みに固定した。
もうひとつ、院長が話しすぎないと決めた。私が先に意見を言うと、スタッフは黙ってしまう。最初に発言するのは、いちばん経験の浅いスタッフの順にする。
そして、決まったことを翌月の冒頭で必ず確認する。前回の宿題が終わっていなければ、その理由を聞く。責めるためではなく、無理な計画だったのかを見直すためだ。
将来、診療所を誰かに引き継ぐ日が来るかもしれない。そのとき、決定の経緯が議事録として残っている診療所と、院長の頭の中にしかない診療所とでは、説明のしやすさがまるで違う。承継を考える時期になって慌てて整えるものではないと思う。
あの木曜の夜に開いたメモ帳は、いまは4行の議事録に変わった。決めたことが紙に書かれ、休憩室の壁に貼られている。それだけで、私の肩の荷は軽くなった。
あなたの医院でも、決めたはずのことがスタッフに届いていない場面はないだろうか。まずは来月の第2木曜日に、30分のミーティングを予定表へ入れてほしい。議題は数字、請求、人の3つで足りる。
(「院長の頭の中を、院内の共有物に変える。経営管理の出発点は、そこにあるんだ」)
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