新患を増やす前に、通い続ける人を数える ― 耳鼻咽喉科の舌下免疫療法で見る継続率と、レセプトデータの使い方

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新患を増やす前に、通い続ける人を数える ― 耳鼻咽喉科の舌下免疫療法で見る継続率と、レセプトデータの使い方

春の待合室と、夏の静けさ

私の医院は、郊外の住宅地にある耳鼻咽喉科だ。2月から4月にかけては、花粉症の患者さんで待合室があふれる。受付の前には列ができ、診察室の椅子が温まる暇もない。毎年この時期の初診の数を見ては、「今年もよく来てくれたな」と胸をなで下ろしてきた。

ところが、6月を過ぎると景色が変わる。待合室の椅子が目立って空き、受付の岡田さんが「先生、夏はいつも静かですね」と笑う。私も笑って返していた。しかし先月の夜、閉院後にひとりで月次の数字を眺めていて、ふと手が止まった。

夏の静けさを「そういうものだ」と受け流してきたのは、数字を見ていなかったからではない。見ていた数字が、入口の側に偏っていただけだ。そう気づくまでに、開業から何年もかかってしまった。

春に初診で来てくれた人たちは、どこへ行ったのだろう。(「あれだけ増えた新患は、本当にうちの患者さんになったのか。それとも症状が引けば来なくなる、季節限りのご縁だったのか」)。答えを持っていない自分に、少しだけ驚いた。

数えるべきは新患ではなかった

開業以来、私が見てきた数字は新患数と総来院数だった。掲示物や案内を工夫して新患を迎える努力は何度もしたが、迎えた人が残ってくれたかどうかは、ただの1度も確かめていない。(「入口ばかり広げて、出口の穴を数えていなかったのか」)

特に気になったのは、舌下免疫療法の患者さんだ。この治療は、花粉の飛散期を避けて始め、長い期間続けることで体を慣らしていく。続いてこそ意味のある治療であり、途中でやめれば患者さんの時間と費用が無駄になる。医院にとっても、せっかく築いた信頼が途切れてしまう。

そこで、見る指標を変えることにした。始めた人のうち、1か月後、3か月後、6か月後にも受診している人の割合である。私はこれを「継続率」と呼ぶことにした。(「新患の数は入口、継続率は出口。両方を見て、はじめて集患の実力がわかるのだ」)

クリニックの収益は、新患の1回の受診よりも、再診の積み重ねで形づくられる。1人の患者さんが半年通うのと、1回で来なくなるのとでは、同じ初診でも医院への貢献はまるで違う。しかも継続的な通院は、患者さんの症状を長く見守れるという医療の質にも直結する。(「数字のためだけではない。治療を最後まで届けるための指標でもあるんだ」)

レセプトから「通い続けた人」を拾い出す

継続率を出すには、患者さんごとの来院履歴が要る。電子カルテを1人ずつ開いていくのは、現実的ではない。そこで目を付けたのがレセプトだった。レセプトは患者さんごと、月ごとに作られ、診療日が記録されている。同じ患者さんの月別のレセプトを並べれば、通院が続いたか途切れたかがすぐにわかる。

当院の請求は、医事担当の岡田さんが毎月の締めに合わせて行っている。繁忙期の月初は負担が大きく、レセプト外注を考えた時期もあった。今回の集計は自前で行ったが、請求を外部に任せている医院なら、患者別の診療月の表を出してもらえるかを、先に確かめておく価値がある。

請求業務の委託を検討するなら、レセプト代行・レセプト請求代行サービスの内容のように、どこまでが請求の範囲で、どこからが院内の仕事なのかを、契約前に線引きしておきたい。集計の手順そのものは単純で、私たちは次の3つで進めた。

ここで1つ、守るべき約束がある。患者別のリストは、個人情報そのものだ。集計の担当者は岡田さんと私の2人に限り、印刷した紙は作業の後にシュレッダーにかけた。数字を読むために患者さんの信頼を損なっては、本末転倒になる。

  • 診療月ごとのレセプトから、昨年の秋に舌下免疫療法を始めた患者さんのリストを作る
  • 開始月を起点に、1か月後、3か月後、6か月後の受診の有無を並べる
  • 受診が途切れた月と、最後の受診日の診療内容を確認する

作業は、岡田さんと2日で終わった。結果は、はっきりしていた。昨年の10月から12月に治療を始めたのは38人。3か月後も通っていたのは29人、6か月後には21人まで減っていた。つまり、半年で17人が静かに姿を消していたことになる。

もう1つ、確認しておくべきことがあった。受診が途切れた17人のなかには、治療を計画どおりに終えた人や、引っ越しで通えなくなった人が混ざっていないか、という点だ。カルテの記載と突き合わせると、事情が明らかな人は2人だけで、残りの15人は理由の見えない中断だった。継続率の低下は、すべてが悪い知らせとは限らない。だからこそ、中断の理由を1件ずつ読む作業が欠かせなかった。

脱落は、診察室ではなく会計の前で起きていた

途切れた17人の最後の受診記録を見直して、共通点に気づいた。11人は、最後の受診日に次回の予約を取らないまま帰っていたのだ。診察室で私は「2週間後にまた来てください」と伝えている。それでも予約が入っていないのは、なぜだろう。

岡田さんに尋ねると、少し言いにくそうに答えてくれた。会計で次回の予約を案内するのは、患者さんが少ない時間帯だけだという。混み合う時間帯は、薬の説明と会計の処理に追われ、案内が抜けてしまう。誰かが怠けていたわけではない。誰の役割かが決まっていなかったのである。

思えば、以前に新患が減ったのは少子化のせいか ― レセプトデータで診療圏を読み直す、小児科院長の集患設計を書いたとき、私が見たのは診療圏という医院の外側の数字だった。今回見たのは、医院の内側の数字である。(「外の数字ばかり追って、足元の穴を見落としていたな」)

受付で患者さんの声を拾っている岡田さんは、もう1つ思い当たる節があるという。「先生、会計のときに『今日は混んでいるから、また今度でいいや』とおっしゃる方がいました」。待たせてしまったことへの遠慮が、予約を取らない理由になっていたのだ。(「申し訳なさそうに帰る背中を、私は何度見送ってきたのだろう」)

症状のない時期に始める治療は、通う理由が見えにくい。花粉が飛んでいる間は、つらさが背中を押してくれる。しかし秋は、くしゃみも鼻水もない。だからこそ、通い続けるための仕組みを医院の側が用意する必要があった。

院長が決めた3つの変更

翌週の朝礼で、岡田さんたちに集計の結果を見せた。責める材料にはしたくなかったので、「仕組みの穴を共に探したい」と最初に伝えた。そのうえで、次の3つを決めた。

1つ目は、初回の診察で「通院の予定表」を渡すことだ。半年先までの受診の目安と、その理由を1枚にまとめる。患者さんは、なぜ症状のない時期にも通うのかを、紙で確認できる。説明が私の口頭だけだったことが、そもそもの弱点だった。

2つ目は、会計での次回予約の確認を、時間帯によらず必ず行うことにした。混雑時でもひと言で済むよう、声かけの文面を決めた。新しく入った医療事務の佐藤さんにも、この声かけの意味を教える。医療事務スタッフ教育のなかに、「予約を取ることは治療そのものを支える仕事だ」という考え方を入れたかったのである。

予定表には、治療の効果が実感できるまでに時間がかかることも、正直に書いた。期待だけを膨らませると、数か月で「効かない」と判断されて通院が止まる。効果の出方を先に伝えておけば、途中の不安に医院の側から答えられる。説明の順番を整えることも、立派な患者サービスだと考えている。

3つ目は、継続率を月初のレセプト点検の表に書き加えることだ。請求の確認と同じ机で、通院が途切れた患者さんの数も見る。毎月の数字として並べておけば、変化に早く気づける。(「請求の点検は、お金の確認であると同時に、患者さんの足取りの確認でもあるんだな」)

数字の扱い方についても、スタッフと約束を交わした。継続率が低い月があっても、誰かの責任として扱わない。見るのは、人ではなく仕組みである。この約束があったから、岡田さんも佐藤さんも、気づいたことを遠慮なく話してくれるようになった。

この数字は、院内だけで抱え込まないことにした。以前に経営の決定が院長の頭の中で止まっていないか ― 月1回30分の経営ミーティングで、請求と人の課題を同じ席に載せると書いたとおり、毎月の経営ミーティングの議題に、継続率を加えた。請求の課題と人の課題の隣に、患者さんの足取りを置くと、話し合いの質が変わる。

数字は、いつか医院を譲る日にも残る

変更から2か月がたった今、まだ結果を語れる段階ではない。次の集計は、来年の3月に予定している。春の混雑のなかで、この仕組みが崩れないかどうかも確かめたい。

ただ、数えるという行為そのものが、医院の見え方を変えてくれた。新患の数ばかりを追っていた頃の私は、季節の波に振り回されていたように思う。通い続けている患者さんの数は、波が引いたあとにも残る。

同じ悩みを抱える院長がいるなら、まず次の準備だけでもしてみてください。昨年、新しい治療を始めた患者さんの人数を数え、そのうち今も通っている人の数を並べる。それだけで、医院の出口がどこにあるのかが見えてくる。道具は、毎月つくっているレセプトで足りる。新しい機器も、高額なシステムも要らない。必要なのは、閉院後に机に向かう30分だけである。

いつか診療所承継(M&A)を考える日が来たら、買い手が見るのは新患の数だけではないはずだ。通い続けている患者さんがどれだけいるか。その数字を、自分の言葉で語れる院長でありたい。(「新患を増やすのは、そのあとでいい」)クリニック経営の足元は、案外、閉院後の机の上にある。

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