リハビリ室は黒字なのか ― レセプトデータで診療行為別の採算を見る、院長のための部門別損益の考え方

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リハビリ室は黒字なのか ― レセプトデータで診療行為別の採算を見る、院長のための部門別損益の考え方

決算書は「合格」だった。それでも引っかかった

先月、顧問の税理士から決算の中間報告を受けた。売上は前年並み、利益も前年並み。「安定していますね」と言われ、私は礼を言って事務室に戻った。(安定、か。悪いことではないはずなんだが...)

私は整形外科の診療所を営んでいる。住宅地の駅前で開業して14年になる。3年前に待合室の奥を改装してリハビリ室を広げ、理学療法士を3人、助手を1人置いた。患者さんは確かに増えた。ところが、利益は増えていない。

(リハビリ室を広げたのは正解だったのか。忙しくなっただけで、儲かってはいないのではないか)

この問いに、決算書は答えてくれない。医業収益は1本の数字で、リハビリで稼いだ分もX線で稼いだ分も初診料で稼いだ分も混ざっている。理学療法士の給与も、全体の人件費の中に溶けている。税理士を責める話ではない。決算書は税務のために作るものであり、部門ごとの採算を見るための道具ではないからだ。

診療行為別に分けるという発想

翌朝、医療事務の主任を呼んだ。勤続9年になる彼女は、私よりレセプトの中身に詳しい。

「毎月のレセプトを、診療行為の区分ごとに集計できるかな。リハビリ、検査と画像、処置と注射、それ以外という4つに分けたい」

彼女は少し考えてから、こう答えた。「レセプトコンピュータの集計機能で、区分別の点数は出せると思います。ただ、これまでは請求の確認にしか使っていませんでした」

そうなのだ。当院のレセプト請求業務は、月初の提出に向けて誤りを潰すことが目的になっている。出来上がったデータを経営の材料として眺める習慣がない。もしレセプト代行やレセプト外注を使っている診療所でも、同じことが起こりうる。請求を任せても、請求データは院長のものだ。区分別の集計を依頼すれば、多くの場合は出してもらえる。

(請求のために作ったデータが、経営の地図にもなる。今まで使わずにいたのはもったいなかった)

主任は2日後、直近6か月分の集計表を持ってきた。

数字を並べて見えたこと

集計を、直近6か月の月平均に直し、リハビリ室にかかる費用を私が概算で当てはめた。理学療法士と助手の人件費は、給与に社会保険料の事業主負担を加えた額である。家賃や光熱費は、リハビリ室の床面積の割合で按分した。

表 区分別の収入と直接にかかる費用(月平均・当院の概算)
区分診療報酬直接にかかる費用差額
リハビリ 480万円 410万円 70万円
検査・画像 220万円 90万円 130万円
処置・注射 160万円 70万円 90万円
初再診・指導管理など 740万円 330万円 410万円

合計の診療報酬は1,600万円である。私はリハビリの行を見て、しばらく黙った。診療報酬の30パーセントを占めるのに、差額は70万円しか残らない。差額の割合は15パーセント弱で、4区分の中で最も低い。

(赤字ではない。けれど、最も手間をかけている部門が、最も利益を生んでいない)

念のため書いておくと、この表は当院の概算であり、費用の按分の仕方で数字は動く。大事なのは正確さよりも、区分を並べて初めて見える比較だった。リハビリが悪者という話でもない。リハビリ目的で通う患者さんが、診察や検査にもつながっているからだ。ただ、その価値を数字で語れずにいたことが、私には不満だった。

費用の置き方で迷ったときは、次の順で考えると整理しやすい。まず、その区分がなければ発生しない費用を数える。リハビリでいえば、理学療法士と助手の人件費、専用機器のリース料、消耗品である。次に、診療所全体でかかる費用のうち、使う面積や時間に応じて割り振れるものを足す。受付や会計の人件費、院長の報酬は、無理に配らず別枠にしておく。

この割り切りが、税理士の資料と矛盾しないための条件でもある。部門別の表は、決算書を置き換えるものではなく、決算書の1行を分解して眺めるための補助線にすぎない。

時間帯別に見ると、課題が絞れた

主任はさらに踏み込んだ。「先生、リハビリの算定を曜日と時間帯で見直してみました」

午前9時から11時半までは、理学療法士3人の枠がほぼ埋まっている。午後は2時から4時が極端に薄く、3人のうち2人が手待ちの時間帯が週に何度もあった。人件費は時間で発生するが、収入は実際に施術した分しか入らない。午後の空きが、差額を削っていたのだ。

(患者を増やせばいいのか。いや、午前は満杯だ。午後に来てもらえる仕組みが足りないだけだ)

実は、数字を見る前の私は、まったく別の対策を考えていた。理学療法士を1人増やして、受け入れ人数を広げる案である。もし実行していたら、午後の空きに人件費だけが上乗せされ、差額はさらに薄くなっていただろう。増員を決める前に、いまの人員がどの時間帯に働いているかを確かめる。当たり前に聞こえるが、集計がなければ確かめようがなかった。

私が手を打った項目は、次の3つである。

  • 初診の患者さんに、午後のリハビリ枠を予約制で案内する
  • 仕事帰りに通える夕方の枠を、週2回だけ試験的に延ばす
  • 通院が途切れやすい患者さんに、次回の予約を会計時に入れる

どれも新しい設備は要らない。患者さんにとっても、午前の混雑を避けられる利点がある。患者サービスの改善と採算の改善が、同じ方向を向いていたのは収穫だった。

算定漏れという、もうひとつの穴

集計を見ながら、主任がもうひとつ気になる点を挙げた。リハビリを受けた患者さんの数に対して、計画書の交付や記録がそろっていないために算定できなかったケースが、月に数件あるという。

「理学療法士が施術して、患者さんも通っているのに、書類の不備で請求できない月があります。先月は返金扱いにはなりませんでしたが、本来なら取れた分です」

耳が痛かった。リハビリの現場は理学療法士に任せきりで、書類の確認は誰の仕事か決めていなかった。ここでスタッフ教育の出番になる。

私は、主任と理学療法士の代表を集めて、15分の打ち合わせを週に1回設けた。議題は毎回ひとつだけだ。先週の算定のうち、要件がそろわなかったものを見る。医療事務スタッフ教育は、研修会を開くことだけではない。自分たちの仕事が数字になる瞬間を、同じ画面で見ることから始まる。過去の記事「研修費はゼロでも教育費はゼロではない ― レセプトOJTの時間効率と人材育成投資の費用対効果」で考えたことが、こうして現場とつながった。

(書類の不備を責めても何も変わらない。誰が、いつ確認するかを決めればいい)

3か月後、算定できなかった件数は月に1件以下まで減った。理学療法士の側から「この記録でいいですか」と聞いてくるようになったのが、いちばん嬉しい変化だった。

主任にも変化があった。以前は「請求が終われば仕事も終わり」という口ぶりだった彼女が、集計表を見ながら「この区分は、季節で変わりそうですね」と自分から話すようになった。請求の正確さを守る人から、経営の数字を読む人へ。教育の成果は、研修の修了証ではなく、こうした言葉の変化に現れるのだと思う。

数字を持つ診療所は、将来の選択肢も広がる

もうひとつ、数字を見て気づいたことがある。いつか私が診療所を譲ることになったとき、診療所承継やM&Aの場で、相手は必ず「どの部門が稼いでいるのか」を尋ねる。決算書だけでは答えられない質問だ。

以前、ある記事で「院長がいなくても診療所は動くか」という問いを読んだ(院長がいなくても診療所は動くか ― 院長依存度の可視化と事業承継の障害)。あのときは、院長の頭の中にある判断を外に出す話として読んだ。数字も同じだと思う。部門別の採算が毎月の資料として残っていれば、後継者は引き継いだ翌月から、同じ目線で経営を始められる。

クリニック経営は、毎日の診療に追われているうちは、数字を後回しにしがちだ。ただ、集計の元になるデータは、請求のたびに自然とたまっている。使うか使わないかの違いだけである。

(15分の集計を毎月続けるのと、何も見ないまま3年を過ごすのと。差は大きいはずだ)

院長が決めた、毎月の習慣

今、当院では月初の請求が終わった週に、区分別の集計表を主任と並んで見ている。見る項目は多くない。区分ごとの診療報酬、直接にかかる費用、差額の3つと、午後の枠の稼働状況だ。

費用の按分は粗くて構わない。毎月同じ方法で続けることを優先してほしい。比べる相手は他院ではなく、先月の自院である。

見るときの約束も、3つだけ決めた。数字の悪い区分を、担当者の責任にしないこと。差額が下がった月は、原因を人ではなく仕組みに探すこと。良くなった月は、何が効いたのかを必ず1行だけ記録に残すこと。この約束があるから、スタッフは数字を恐れずに話してくれる。

先日、税理士に表を見せた。「これは決算書に出てこない数字ですね」と言われ、来期の設備投資の相談では、この表を使うことになった。数字が共通言語になり、相談の質が変わったと感じている。

リハビリ室の差額は、半年で70万円から100万円近くまで改善した。劇的ではないが、午後の枠を埋めた効果と、算定漏れを減らした効果が、足し算として表れている。(急がなくていい。続ければ、数字は応えてくれる)

決算書で「安定している」と言われた日の違和感は、正しかった。安定とは、見えていない部分が動いていないという意味ではない。見えていない部分を、見える形に変えていこうと思う。

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