Clinic Diary
クリニック奮闘記
Clinic Diary
クリニック奮闘記
火曜の午前11時過ぎ、駅前で皮フ科を開いている私の診察室に、会計を終えたばかりの患者さんが戻ってきた。ニキビの治療で通う20代の女性だ。
「先生、今日は1時間待ちました。予約したのに、どうしてですか」
言葉は丁寧だったが、目は笑っていなかった。私はその場で頭を下げ、「お待たせして申し訳ありません」と繰り返すしかなかった。(予約枠は減らしたはずなんだけどな。診察が延びる日は、どうしても出るんだよな)
その日の昼休み、受付主任の山下さんが言った。「院長、今日だけで待ち時間の声が4件ありました。ただ、よく聞くと、時間そのものより『何も言われなかった』という話が多いんです」
私はアトピー性皮膚炎の長期通院や、巻き爪の処置、ほくろの切除などを診ている。診察時間がそろわない科だ。待ち時間をゼロにするのは、現実には無理がある。(だったら、待たせない努力より先に、待たされる側の気持ちを見ないといけないのか)
そこで1週間、受付に簡単な記録を付けてもらった。来院時刻、呼び込み時刻、会計終了時刻、そして窓口で出た声の内容である。集計は私が夜に電卓でやった。
結果は意外だった。平均の待ち時間は38分で、最長は72分。不満の声が出たのは待ち時間が長い日ではなく、受付からの声かけが1度もなかった患者さんに集中していた。待ちが60分を超えても、途中で「あと20分ほどです」と伝えられていた人からは、何も出ていない。
(待ち時間は同じでも、説明の有無で受け取り方がここまで変わるのか)
もうひとつ、会計窓口で多かったのが「思ったより高い」という声だった。処置料がついた日や、検査を足した日に出る。これは待ち時間とは別の不満に見えて、根は同じだと私は考えた。診察室で何が行われ、何が請求に反映されたのかが、本人に伝わっていないのだ。
山下さんと相談して、次の3点を決めた。
決めてみると、最初の1週間はうまくいかなかった。声かけの文言が人によってばらばらで、新人の佐藤さんは「いつ呼ばれるか分かりません」と答えてしまった。患者さんに正直に伝えたつもりが、かえって不安を強めてしまったのだ。
ここで私は反省した。仕組みを決めただけで、教え方を決めていなかった。(声かけが大事だと言いながら、教育はスタッフ任せにしていた。これでは再現性がない)
目安の伝え方は、待ち時間の長さごとに次のように整理した。
| 見込みの待ち時間 | 受付の動き | 避ける言葉 |
|---|---|---|
| 20分以内 | 来院時に目安を伝える | 「すぐです」 |
| 20〜40分 | 来院時に目安を伝え、15分後に席へ出向く | 「順番なので待ってください」 |
| 40分超 | 来院時に理由を添えて伝え、10分ごとに声をかける | 「分かりません」 |
表にしてみると、受付が迷う場面がはっきり見えた。とくに「40分超」の行は、院長である私が理由を決めておく必要がある。処置が重なったのか、初診の説明に時間がかかっているのか。理由が言えれば、患者さんの受け止め方は大きく変わる。
以前、電話対応で同じ壁にぶつかったことがある。そのときの記事「電話が鳴り止まない受付は誰の問題か ― 問い合わせを分類して、窓口と患者サービスを守る電話設計」で書いたとおり、対応を分類して型にしておくと、新人でも迷いが減る。今回も同じ考え方を窓口に持ち込んだ。
用意したのは、A4で1枚の「声かけ台本」である。待ち時間が20分以内のとき、40分前後のとき、60分を超えそうなとき。それぞれに、言ってよい言葉と避ける言葉を並べた。「分かりません」は避け、「現時点の見込みでは」で始めるように改めた。
医療事務スタッフ教育というと、算定ルールや保険の知識に目が向きがちだ。しかし患者さんが最初に評価するのは、請求の正確さより前に、窓口で受けた扱いである。台本の作成には山下さん、佐藤さん、パートの中村さんの3人が参加した。自分たちで作った言葉は、守られやすいと感じた。
ところが2週目に、別の壁が現れた。月初である。前月分のレセプトの点検と提出が重なる日は、受付の手が止まらなくなる。声かけどころか、電話にも出られない時間帯ができた。
私はここで、1年前に迷ったことを思い出した。レセプト外注を考えたとき、費用の高い安いばかりを見ていた。けれど本当に見るべきは、請求業務が受付の時間をどれだけ奪っているかだった。外注するかどうかは別として、他の医院がどこまで任せているのかは調べておく価値がある。そう考えて、レセプト代行・レセプト請求代行サービスの内容を1度読み直した。点検や提出のどこまでを外に出せるのかが分かれば、受付に残す仕事の線引きもできる。
結論から言うと、わが医院ではまだ内製を続けている。ただ、月初の3日間だけは受付の予定を空け、点検の担当を山下さんに固定した。佐藤さんと中村さんは窓口に専念できる。これだけで、月初の声かけ漏れは目に見えて減った。
(レセプト請求の話と待合室の話が、こんな形でつながるとは思わなかった。人の時間は、どこかで奪われた分だけ別の場所で足りなくなるんだな)
記録を取るだけでは、現場は疲れてしまう。私は毎週金曜の終業前に10分だけ時間をとり、集計の結果を山下さんたちに見せることにした。平均の待ち時間、最長の待ち時間、窓口で出た声の件数。この3つだけである。
初めて見せた日、中村さんが言った。「最長が72分の日は、院長の初診が3件続いた日ですね。あの日は、私も声をかけに行く余裕がなかった気がします」。数字があると、責める空気にならず、原因の話ができる。ヒヤリハットの報告と同じで、数字は個人の落ち度を探すためではなく、仕組みの穴を探すために使う。
皮フ科の外来は、初診の説明とアトピーの経過観察が混ざると、いっきに延びる。そこで予約の取り方も少し変えた。初診は午前の前半に固めず、再診の間にはさむ。完全には解決しないが、72分という最長の日は、翌月には68分、さらに次の月には61分まで下がった。
もうひとつの課題、「思ったより高い」への対応も進めた。会計窓口に、処置料や検査料がついた日の説明メモを置いた。算定項目の名前をそのまま見せても伝わらないので、「今日はいぼの冷凍凝固をした分です」「塗り薬の使い方の指導分です」と、診療内容の言葉に言い換えている。
説明が増えると、会計の待ちが延びるのではないかと心配した。実際には逆で、会計後の「あれは何の料金ですか」という問い合わせの電話が、1か月で目に見えて少なくなった。数えてみると、前月は11件、今月は4件である。1件の電話に5分かかるとすれば、35分が空いた計算だ。
こうした窓口の動きは、プライバシーの面でも整えられる。以前の記事「受付の声が待合室に届いている ― 婦人科クリニックのプライバシー配慮を、動線と声かけの設計で整える」で学んだとおり、皮フ科でも処置名や薬の名前を大きな声で言えば、周りの患者さんに聞こえてしまう。声かけの台本には、「病名は口にせず、メモを見せる」という1行も加えた。
こうした変化を、私は帳簿の数字ではなく、窓口の空気で感じるようになった。受付が患者さんの名前を呼んで声をかける回数が増え、待合室の会話が少し柔らかくなった。院長が診察室にこもっていても、経営の手応えは窓口から届く。その手応えを聞き逃さないために、昼休みの5分だけ受付の席の近くで過ごす習慣もつけた。
声かけの台本は、半年に1度見直す予定だ。季節によって来院の波が変わる皮フ科では、夏のあせもや冬の乾燥など、待ち時間の原因も入れ替わる。見直しの担当は、佐藤さんに任せるつもりでいる。
1か月後、同じ記録を取り直した。平均の待ち時間は36分で、ほとんど変わっていない。最長は68分である。ところが窓口で出る待ち時間の声は、週4件から週1件になった。冒頭の女性にも、先日会計でお会いした。「今日は途中で声をかけてもらえたので、あまり気になりませんでした」と笑っていた。
待ち時間は、診療の構造から生まれる。減らす努力は続けるが、ゼロにはならない。だからこそ、待たせている間の過ごし方を設計するのが、クリニック経営の側の仕事だと私は思うようになった。
もうひとつ気づいたことがある。いつか診療所承継(M&A)で後任に医院を渡す日が来たとき、買い手が見るのは診療の腕だけではない。窓口の運用が台本や記録として残っているかどうか、つまり院長がいなくても回る仕組みがあるかどうかも、評価の対象になる。待合室の声かけ台本は、その小さな第1歩になる。
今日も昼休みに、山下さんが台本の余白に書き込みをしていた。「院長、60分を超えたときのひと言、もう少し柔らかくしませんか」。(現場が自分で直し始めた。これがいちばんありがたい)
待たされたことへの不満は、時間の長さだけでは決まらない。説明があったか、声をかけられたか、請求の中身を分かってもらえたか。その積み重ねが、次の来院につながる。明日の朝礼では、まず記録の取り方を佐藤さんに教えてもらおうと思っている。
レセプト外注先をお探しならメディカルタクトへ
レセプト代行ならメディカルタクトへお任せください。